王都炎上⑥
クレイを退けた僕はアーシャとアリス様の元へと急ぐ。嫌な予感が全身を駆け巡り、心臓が早鐘を打っていた。
(アリス様のアーシャへの憎しみは本物だった。本当にアーシャを殺してしまうかもしれない)
そうなる前に止めないと。
やがて二人の姿が見えてきた。一人が立っていてもう一人は地面に倒れている。
「……アーシャ!」
地面に倒れていたのはアーシャのほうだった、僕は慌てて彼女に駈けより今の状態を確認する。意識がないようだし、ところどころ皮膚が灼けたようになっていた。
「ああ、来たのね。グレン」
アリス様は僕に微笑みかける。とても満足している様子だった。
「彼女頑張ったけれど私に一人で挑むのは無謀だったわね。光属性の適正があるまではよかったけれどそれだけでは私は倒せない」
こちらに歩いてきながら勝利宣言をするアリス様に僕は立ち塞がる。
「……なんのつもり?」
「あなたを止める! 彼女は殺させない!」
「ふふ、なら私をちゃんと倒さないと。そのままだともうすぐ死んじゃうわよ、彼女」
笑いながら僕へと向かってくるアリス様、僕もそれを迎え打つ。激しい応酬が繰り広げられ一進一退の攻防が続けられた。
「流石ね、グレン。もう今の私の攻撃に適応してくるなんて」
「あなたが相手でも僕はアーシャを守る!」
二振りの雷剣を振るい、僕はアリス様の猛攻をくぐり抜ける。そして――
「ああああああああああああああああああああああああ!!」
僕の振るった雷剣がアリス様の片腕を切り落とした。その勢いのまま僕はアリス様に止めをさそうともう一振りの雷剣を振るう。
(これで終わらせる!)
僕の決意は
「ねえ、私を殺すの? グレン?」
アリス様の言葉で簡単に霧散した。
「……!?」
僕は振るった剣を止めてしまった。覚悟は出来ていたはずなのにどうしてもその一振りが振るえない。
かつての主君で――好きな人を殺せない。
「ふふ、本当に優しい人」
アリス様は僕はこうなることを確信していたように囁いてくる。
「そのおかげで私はあなたに勝つことが出来るわ」
ぶすり。
脇腹になにかが突き刺さる。それはアリス様が生み出した血の剣だった。
「あっ……」
口に血の味が広がっていく、刺されてところからも血が流れ出していた。二振りの雷剣も宙に溶けるように消えていく。
「あなたは中途半端なの。あの子を守るといいつつ、私のことも敬っているから殺せない。それじゃ私に勝つことも出来ないし、大事なものを守ることも出来ないわ」
「……っ」
正論を言われ、僕はなにも言えなくなってしまう。散々アーシャを守ると思っていたのにこの有様では返す言葉はなかった。
「でも人間だから迷うのも仕方ないわ。だから私があなたの迷いを消してあげる。あなたがどういう立場の人間かを分かってもらった上でね」
「なにを……する気ですか……」
「うーん、そうね」
アリス様はそういいながら僕の体から血剣を引き抜く。そうして距離をとると楽しそうに宣言した。
「あなたが大事にしているものを全部台無しにした上で自分がどういう立場の人間かをもう一回考えてもらおうかな」
一際大きな血だまりがアリス様の足下に作られる。僕はその血だまりを見て背筋が凍るような悪寒を覚えた。
「さあ……出てきなさい。私の可愛いくて残酷な眷属」
アリス様の呼びかけに答えるように血だまりから巨大な屍の竜が現れた。