王都炎上⑥
「私の相手はあなたね」
淡々とそう呟くのは最初に出会った時にラナがロゼと呼んでいた少女です。ラナがクレイと名乗った男性の相手をしているせいで私一人でこの少女と対峙しています。
彼女は今、私に対して殺気を隠そうともせず剥き出しにしてぶつけてきています。初対面の時に少し嫌われているように感じていましたけど今彼女と対峙してそれが確信に変わりました。
「ちょうどいいわ。あなたのせいでグレンが私の元に来てくれないんですもの、ここで殺してしまいましょう。私の復讐対象にはあなたも入っているのだから」
「……さっきからなにを言っているのか私にはよく分からないのですけれど。私はあなたに恨まれる覚えはありません、それになぜラナのことをグレンなどと呼ぶのですか?」
私の言葉を聞いた金髪の少女は目を見開いた後、勝ち誇ったように笑みを浮かべました。
「あら、あなた。あの人からなにも聞いていないの? これは傑作だわ! 確かあなたってあの人の側にずっといたのよね? それで肝心なことを知らされていないんだから笑えるわ!」
おかしくてたまらないといった様子で私のことを笑う少女に私の不快感が増していきます。
「……あなたはラナのなにかを知っているとでも言うのですか?」
「ええ、あなたの知らないことを知っているわ。知りたいのかしら?」
「聞いたら教えてくれるとでも言うのですか?」
「そんなわけないでしょう、あなたは私にとって憎むべき一族の一人なんだから。あなたは王家から分かれた家の者、今の王家から血を分けた者は一人残らず殺すわ」
殺意を剥き出しにしてこちらに向かってくる少女、その手には赤黒い剣のようなものが握られています。私に近づくと彼女はそれを上段から振り下ろしました。
が、受けきれない攻撃ではありません、私はそれを光属性の魔力を利用して生み出した剣で受け、弾きます。相手もそんなことでは怯みません、しばらく赤と純白の踊る剣戟が繰り広げられました。
「まだまだよ」
「!?」
少女の言葉と共に私の足下に血の色をした染みが広がっていきます。そこから枝のようなものが伸びてきて私の手足を拘束してしまいました。
「こんな程度では私を止めることは出来ませんよ!」
拘束を光属性の魔力を操って破壊し、そのまま相手に向かって放ちます。放った攻撃はかわされてしまいますがそれも想定範囲。
「これで逃げられません」
「……!?」
私は相手を取り囲むように光属性の魔力で生み出した槍を一斉に放ちました。凄まじい音と共に爆発が起きます。
私の攻撃を喰らった少女は全身がやけどしたような状態になっていました、しかしそれもすぐに再生してしまいました。
「厄介ですね、あの再生能力……」
あの少女を倒すには一撃で跡形も残らないように吹き飛ばす必要があるようです。
(それを行うにはやっぱり誰かに足止めをしてもらわないと……!)
やはりラナと分断されてしまったのは痛いです。決め手に欠けるまま戦ってはこちらのほうが追い込まれるのは目に見えています。
「あーあ、痛かったあ。普通の魔族なら死んでいたでしょうね」
酷い傷を負っていたことなんてなかったかのように言い放つ金髪の少女。私の背筋を悪寒が駆け巡ります。
「あなたのその力を相手にするのは面倒だから特別にこれも見せてあげる」
そう言うと金髪の少女の周囲に紫色の炎が発生します。直感的に触れるとまずいものだと感じることが出来るくらい禍々しいものでした。
「炎よ、私の滅ぼすべきものを焼き払え」
紫炎がこちらに迫ってきます。私はそれに光属性の魔力を当てて相殺しようとしました。炎と光がぶつかった瞬間に爆発が起こり、私は地面を転がりました。
「くっ……」
耐性をすぐに立て直そうと起き上がった私の目前には二撃目の紫炎がすでに迫っていました。
「さようなら、アーシャ・ライアムさん」
私が紫炎に飲まれる最後に聞いたのは少女の冷たい言葉でした。