前世での死
「グレン! グレン!」
朦朧としていく意識の中で僕を呼ぶ必死な声が聞こえる。暖かな温もりを持つ手が僕の手に添えられる。そしてその手の持ち主が僕の体を必死に揺さぶっているのが分かる。
ああ、お腹に穴が空いてしまってる。これじゃもう駄目だな。
「女王陛下……僕はここまでのようです……」
魔王の攻撃で負った傷が深すぎる。自分でももう助からないことが理解できてしまった。だんだん体の感覚もなくなってきた。
「嫌、嫌! 逝かないで! あなたがいないと私は……」
僕がお慕いし、仕えてきた女王陛下ーーアリス・ローゼンタールは僕の胸に顔を埋めて泣いていた。
「大丈夫ですよ」
泣きじゃくる自分の主の手を僕は握り返す。
「僕がいなくともあなたはこれから歩いていけます。あなたの剣である僕の役目はこの戦いで終わったのです。……だからどうか笑って前へ進んでください。僕はあなたと一緒に戦えて光栄でした」
最後の言葉を伝えたらアリス様は僕を強く睨みつけてきた。
「ふざけないで! みんなでこの戦いだらけの世を終わらせて楽しく暮らそうって約束したじゃない! あなた一人先に死ぬのは許さないわ!」
まったく困った主だなあ。彼女の頑固さに苦笑してしまう。
「クレイ」
女王陛下の隣で苦悶の表情を浮かべている僕の親友に呼びかける。親友は僕の今の状態を見て険しい表情をしていた。
「なんだ……?」
「女王陛下を……アリス様を頼むよ。賢い君なら陛下のことを助けてあげられると思うから……」
「お前……!!」
「頼むよ……信じて任せられる人は君くらいしかいないんだ」
「……分かった」
抗議しようとした親友の言葉を遮って僕は彼にアリス様のことを託す。彼以外には託せないと思ったからだ。
親友は僕の最後の言葉に渋々ながら頷いた。ああ、これで心置きなく死ねる。孤児の身からのし上がって剣士として大成し、魔王を倒す戦いに参加するなんて一人の人生として出来すぎな人生だろう。
「じゃあね、二人共。こんな……浮浪児出身で剣しか取り柄がない僕をここまで信頼して一緒に戦ってくれてありがとう。一緒に過ごした時間はとても楽しかった」
「お前が戦いを終わらせたことを無駄にはしない。陛下と共にこれから世界を良くしていくさ」
クレイが力強く宣言する。僕が知る限り彼は最高に賢い人間だ。今からのアリス様には僕みたいな剣士よりクレイのようないろいろなことを理解出来る人間が必要になってくるだろうし、彼がいる限りは安心だね。
「うん、お願い……」
もう言葉を発することもできない。限界か、二人の姿も見えないや。
最後に聞こえたのは女王陛下ーーアリス様の慟哭の声だった。
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