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52◆意外な人物の合流

マリウスの隊に合流する後続の部隊が教会に立ち寄った際、カーン公爵家の令嬢が行方不明になったという話を聞いた。どうやらセシリアは黙ってここまで来たらしい。

メリーナは延々と聖水と薬の強化をし続けており、後続の隊に持たせる分もできている。今後の戦況でどれだけ必要になるか解らないが、今集められている分についてはひと段落つき、聖職者たちが新たな聖水を作っている最中である。

そんな隙間時間にメリーナはそんな話を耳にして、急いでセシリアの使っている部屋へ駆けて行った。


「ちょっとセシリア!」


ノックもせずに大きな音を立てて開け放ったドアの向こうには、戦闘演習用の服に身なりを整えたセシリアがいた。いつも淑女の笑みを絶やさずに、だけどどこか飄々としているセシリアが、一瞬別人のように見えた。瞳の放つ輝きの鋭さがそう見せたのだろう。


「…セシリア?」

「メリーナ、どうしたの?」


すぐにいつものセシリアになり、メリーナは自分の気のせいだったのかと思い直す。


「ううん…さっき後続の兵の方が来て、セシリアのこと話していたの。行方不明だって。もしかして勝手に来たの?」

「そりゃあ、こんな状況の場所に来るなら勝手にするしか方法ないもの」


なんてことないようにセシリアが肯定する。行動力はあると思っていたが、令嬢にしてはわんぱくが過ぎるのではないかとメリーナは思わずあっけに取られた。


「あなた…よくもまあ…そんな駆け落ちみたいな真似…」

「へ?」

「いくらアレス殿下と結婚させられそうだからって…でも、そんなに好きなのね…」


メリーナは何かを勝手に納得したようである。改めての説明の必要はないみたいなので良いのだが、何か勘違いをしているような気がしなくもない。


「後続の隊は出発したの?」

「ええ、今さっき…」

「そう。じゃあ追いかけて連れて行ってくれるようにお願いしようかしら」

「何を言ってるのよ!マリウス殿下にも言われたでしょ!?ここで大人しくしてなさいよ!」

「なんで知ってるのよ」


アンデッド・ドラゴンから受けた怪我をどうにか治療することができるようになったが、もちろん手遅れだった者もいる。そんなけが人が出る場所で、今もたくさんの魔法術者が結界を維持してアンデッド・ドラゴンの動きを封じている。女の子などまず先に避難させるべき対象だ。

セシリアはここで手伝いをしていればいいとメリーナは訴える。が、セシリアはうんとは言わない。


「ここには私の仕事はないわ」

「あるでしょう!?人手なんていくらだって欲しいわ!セシリアがいてくれて助かってるし!」

「そうかしら。誰にでもできることしかしてないわ」


二人で言い合いながら修道院のエリアからオープンな教会側へやって来ると、メリーナの大声に視線が集まる。その様子に近寄ってきた人物がいた。


「メリーナ、一体どうし…セシリア!?」

「まあ!ベイル様!?」


現れた人物にセシリアは驚いた。メリーナ親衛隊その1のベイルがどうしてこんな所にいるのか。


「あなたどうしたの?」

「それはこっちのセリフだセシリア・カーン!王都でどれだけ騒ぎに…」

「ストップ、ストップ、黙ってベイル様。あっち、あっち行きましょう」


メリーナよりも大声で騒ぎだしそうなベイルを引きずって、セシリアは人気のない場所を探す。借りている部屋のある修道院の建物は男子禁制なので、とりあえず中庭の隅っこに三人で移動した。仕方がないので立ち話だ。


「お前、カーン公爵家の令嬢が行方不明になったと王都で大捜索が始まっているぞ!」

「まあ、お父様ったら。そんな場合じゃないでしょうに」

「公爵家の娘がいなくなれば当たり前だ!」

「ところで、ベイル様がここへいらっしゃるということは、事はご存じなんですよね?」


セシリアの問いに、ベイルの勢いは途切れる。

アンデッド・ドラゴン。国家を揺るがす呪わしき竜の出現。セシリアが指しているのがこの件であることをベイルは理解した。


「ああ。アレス殿下に城に呼ばれてな。他の側近候補たちもだ。皆それぞれ父親が国の要職だからな、親父たちも話は知ってる」

「ベイルのお父様は魔法省の方でしたっけ」

「先日から家に帰って来れなくなった」


ベイルの言葉に、秘法の書のある地下室のことを思い出す。警備の他に魔法省の偉いさんも確かいたはずだ。研究に必要な資料を探して集めたり、有識者たちに食事の手配をしたり、進捗を確認したり、報告書を纏めたりしているのだろう。ご苦労なことだ。


「…しかし、わかったぞ。お前も王子のどちらかから聞いたのだな。アレス殿下は腹心となる者とこの危機を乗り越えたいと仰られ、アンデッド・ドラゴンのことを打ち明けられた」

「…他には何か言っていた?」


アレスの口からセシリアとの結婚の件も伝えられたのか探りを入れてみる。


「お前がいなくなったと知った時に「あの女またか」と言ってたぞ」


また、というのは、アレスとの結婚から逃げおおせたのが二度目ということだろう。確かにアレスの方から見ればそういう風にしか見えない。どうやらアレスの口からベイルにはセシリアとの結婚の件までは伝わっていないようだ。


「ベイル様はアレス殿下の側近候補…なぜデリア領へいらっしゃったんですか?」


今度はメリーナがベイルに問う。アレスと共に危機を乗り越えるのなら、今は王都にいるべきではないのだろうか。そこはセシリアも同じく疑問だ。


「もちろん、聖女であるメリーナの力になるためだ」


そう言ったベイルの言葉は力強い。なんだか周りにキラキラした何かが見えるような錯覚もある。


いやいや、アレス王子と危機を乗り越えるんじゃないんかい。


思わず心の中でつっこまずにはいられないメリーナとセシリアだった。

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