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46◆デリア領到着

デリア公爵は田舎公爵と揶揄されるだけあって、デリア領は王都からは遠い。通常であれば一か月は掛かる行程だが、今回は王都の外れにあるポイントから転移魔法でデリア領まで移動する。デリア領のポイントからデリア公爵邸のある中心部まではやや距離はあるものの、急げば行って帰るのを一日でできる。デリア領が維持コストの高い転移魔法ポイントを有しているためできることだ。

郊外を走るときに雑多な魔物は出没したが、王国兵でも対応できるレベルのものだった。アンデッド・ドラゴンに引きずられて強力化しているということもない。


マリウスは事が起きてから秘法を調べるのではなく、直近でアンデッド・ドラゴンについて何かなかったかを洗い直した。

違法研究で罰せられた者の研究対象がアンデッド・ドラゴンで、本人は現在消息不明であるということまでは知れた。それが今回の件と関りがあるのかはわからないが、研究内容からして黒と言っていいと確信している。

それがデリア領から現れたとなると、デリア公爵と密かに繋がったのだと思うが、自ら討伐隊を指揮し負傷することになったというのはどういうことだろうか。


それに、即座に秘法の結界を使って動きを封じたというが、手順の確認をしなくとも行使できるほど覚えていたというのだろうか。

きっとそうだろうと、マリウスは自嘲気味に笑った。マリウスに秘法のことを伝えたかつてのデリア公爵も書の中身は全部解っていたのだろう。そしてマリウスがあの書の中の何を試すのか、ワクワクと心待ちにしていたに違いない。


デリア領中央へ到着後、メリーナとセシリアは世話を受けることになっている教会へ、討伐隊はアンデッド・ドラゴンが出没している地帯へ活動拠点を作るために中央部を抜けて郊外へ、マリウスはデリア公爵邸へ向かった。隊と合流する前に一旦教会へ寄る予定だ。


デリア公爵邸では執事と美しい二人の公爵夫人がマリウスを出迎えた。第二夫人は今にも倒れそうな顔色だが、第一夫人は毅然と立っている。


「お久しぶりです。父上は」

「サーハルトの部屋におりますわ」


第一夫人はそう言うと、マリウスを屋敷の奥へと案内をする。デリア公爵の私室の前までやってきたが、夫人の扉を開ける手が震えていた。


「ここまでで結構。あとは内密の話もあるので呼ぶまで人払いをしてくれ」


マリウスがそう言うと夫人は頷き、礼をして来た道を戻る。あの気丈な夫人が震えるほどに、見るに絶えないほど痛ましい姿になっているのだろうか。そんなことを思いながらマリウスは部屋のドアを開けた。


「失礼します、マリウスです。討伐隊と共に到着いたしました」

「マリウスか…」


ベッドで横たわるデリア公爵の傍らに王が腰かけている。部屋の中は腐った匂いで満ちていて、それはベッドの方からやってきている。


「叔父上…」


ベッドを覗き込むと傷口から腐食が広がり、全身が爛れて変色した、かつての美しさが見る影もない叔父がいた。


「マリ…ウス…」


爛れた声帯から発された声は叔父の声とは思えなかった。だけどまだ、話すことはできるらしい。


「叔父上、アンデッド・ドラゴンの出現は面白かったですか?」


そんなデリア公爵を見下ろして、マリウスは平然とそう言った。


「マリウス?お前一体何を!?」


心を許した弟の悲劇に胸を痛めていた王は、立ち上がって厳しい表情でマリウスを見やる。しかしそんなものにマリウスは揺るがない。

デリア公爵は驚いたように目を見開きマリウスを凝視する。そうして長い溜息を吐き、全身から力が抜けた。


「面白かったよ…!マリウスには…わかったんだな…、足跡を、辿りやすくしておいて…正解だった」

「サーハルト、一体何を言ってる!?」


命がけでアンデッド・ドラゴンの動きを止めた誇るべき弟から出る言葉が、どうしてもそれと一致しない。王位には興味がなく、いつも影日向で支えてくれた数少ない血縁者に一筋の疑いも持ったことなどなかったのに。


「アンデッド・ドラゴンの研究…違法だと罰せられた者を支援…した。だけどね、ちゃぁんと、本当に復活の儀式をするのは…ダメだって…言っておいたんだよ。だけどね…やっぱりね、やったんだ…ははは…」


王はアンデッド・ドラゴンの違法研究で罰した伯爵家の息子のことを思い出した。刑を下したのは自分だが、もはや名前すら思い出せない。アンデッド・ドラゴンを呼び出す儀式をかなり具体的に発明した彼は、伯爵家を除籍されてただの平民となったはずだ。

研究など貴族の子息でもなければ環境が整わない。服役などはさせずにそれだけの刑に留めておいたのだ。


目の前にいる変わり果てた弟。そんな姿になった彼のそばについていようと思った王が、気味の悪いものを見るような目でデリア公爵を見た。


これは、一体なんだ?

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