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41◆作戦会議

作戦会議の場にはアレスと、カーン公爵もいた。彼らはアンデッド・ドラゴンの討伐ではなく、デリア領への支援や国民への周知についてなどの対応に当たっている。こちらも重要な仕事だ。対策室は秘密裡に行うため王の自室の続き部屋が解放され設置されている。なので書のある地下室での動きは今マリウスが話さなければ伝わることはない。


偵察隊からの報告でまずはアンデッド・ドラゴンの方だが、現れたのは真夜中デリア領の郊外、山あいのエリアであるという。アンデッド・ドラゴンの歩いた後は全て腐り落ちるので追跡は容易であるが、移動されるだけで被害が出ると言ってもいい。

デリア領の兵が到着した時にはすでに村は壊滅していたという。

アンデッド・ドラゴンだと分かったのは物理攻撃に効果がなく、触れた金属が腐食を始めたからだ。魔法兵部隊に切り替え応戦したはいいが、所詮は田舎の領の魔法兵士だ。高位の術者など限られており隣村を突破された。そこでデリア公爵が王家に伝わる秘法を試すと自らアンデッド・ドラゴンと対峙したらしい。

結界を張るのに成功はしたが、デリア公爵も傷を負った。


「大きな怪我ではなく、安心していたようですが…傷口が腐り始めております」


偵察隊の隊員は自分も確認したであろうその光景を思い出し、嫌な汗をかいている。


「ふむ…デリア領へ軍の医療班と聖女メリーナを派遣しましょう。回復魔法の効果は平均らしいが、聖女が作る薬なら何とかできるかもしれません」


報告を聞いてアレスにそう進言したのはカーン公爵である。


「まってくれ、メリーナはまだ学生だ。こんな事に巻き込むことは…」

「アレス殿下、聖女は国の財産です。国の一大事にこそ働いてもらうべき者ではございませんか」


カーン公爵は聖女が現れてから力の確認を怠ったことはない。そして如何に国家に有効利用するかを考え続けている。それはかつてのカーン公爵もそうであった。アレスの関心が離れた娘と聖女であるメリーナを比較し、娘を切り捨てる程度にはメリーナを重要視しているのだ。


「聖女であるメリーナは学費も免除され、ワールズ子爵家にも支援金が国から出ております。それは聖女の義務の上に与えられたものでございます」

「デリア公爵は一刻を争う状態です、私からも何卒!」


カーン公爵の言葉に偵察隊の隊員も続く。おそらく傷の状態はデリア公爵だけではない。立ち向かった兵士や、被害にあった村人も同じ状態になるはずだ。


「…マリウス、お前はどう思う」

「可能性があるなら、メリーナの力に頼るべきだ。あのねアレス、彼女はそんなにひ弱ではないよ」

「そうか…では軍の医療班に遠征準備の伝達をしろ。それとワールズ子爵家に連絡と、学園へ聖女メリーナの迎えを遣わしてくれ。…それと」


アレスは少し言葉を途切れさせ、続けた。


「聖クレア大聖堂へメリーナと共に一度立ち寄って神の祝福をいただいてきてほしい」


聖女の力を最大限に使うのに効果的だとカーン公爵も大きく頷く。だけどそれは、突然危険地帯へ行くことになったメリーナに、ライラと顔を合わせる機会を設けたのだ。甘いとは思うのだが、アレスにはどうしても不憫に思えてしまう。


アンデッド・ドラゴンへの対策は王国軍の魔法兵士部隊で討伐隊を組み、その指揮官はマリウスが担うことになった。病弱で離宮に引き籠っていたマリウスを不安に思う者もいるが、そこはマリウスが魔法兵士の中で実績の申し分ない者を副官に指名し据えた。


「お言葉ですが、副官は魔法省より選抜するのが筋ではないかと」


会議メンバーの一人から意見が出る。

魔法兵士とは言わば現場実行部隊である。せいぜい現場最前線の指揮までをするのが通例だが、今はそんな場合じゃない。


「相手はアンデッド・ドラゴンだ。現場に慣れた者でなければ判断を見誤る。魔法省の者は有識者たちと一刻も早くアンデッド・ドラゴンの実態解明に努めてほしい」


この場の決定権は第一にアレス、第二にマリウスにある。王から城を任されたカーン公爵も二人の王子に進言までしかできないのだ。よってアレスに異論が無ければ副官の件は決定である。


「いいか?アレス」

「お前が率いる部隊だ、全てマリウスのいいようにしてくれ」

「助かるよ」


アレスは各持ち場の担当がやり易いように進めてくれていいというやり方のようだ。

今、この時だって王の側近たちは二人の王子の資質を見ている。

アレスを頼りないと取るか、御しやすいと取るか。

彼のやり方だって悪くはない。だた、それを続けるために必要なのは人を見る目だ。感情が先に立つ彼にはまだまだ訓練が必要である。


「して…王家に伝わる秘法というのは…」


カーン公爵が書について問う。自分にも読ませろと言ってこないということは、自分が読めることを知らないのかもしれない。なんだかよくわからないけど、王家のためになるらしい文字としてカーン公爵家に暗号文字が伝わっていたのかと思うと、思わずマリウスは遠い目になる。


「決定打になる秘法には準備がいるので、実施は次鋒以降になるだろうね。それでも有効な魔法はいくつか記されていた。状況をこの目で見なければまだどれを使うかは確定できないが、繋ぎにデリア公爵が使った結界魔法の二重掛けをするのも可能だろう」


おお、とその場に少しばかりの安堵の声が響いた。現状、アンデッド・ドラゴンを捕らえることができている結界を更に掛けられるのであれば手段を講じる期間が延びる。


「正午よりデリア領へ発つ。医療班とメリーナも僕の隊と一緒に行ってもらう」


マリウスの宣言に否はない。概ね今後の方向が決まり、各自持ち場へ戻る。

もちろんこの場でセシリアのことを口にしなかったが、これからカーン公爵家ではどんな騒動になるか。バレる前に王都を出てしまわなければ。

そんなことを考えながらマリウスは駆け足で地下室へ戻った。

読んでいただいてる方がじわじわ増えてうれしいです。

いいねなどもありがとうございます。

46話まで書き終えてますが、なんとなく終わりの頂が見えてきたかな…!?というところです。

年内完了に向けて頑張ります。

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[気になる点] >「可能性があるなら、メリーナの力に頼るべきだ。あのねマリウス、彼女はそんなにひ弱ではないよ」 文脈からおそく発言者はマリウスで、話しかけている相手はアレスだと思います。 なので「…
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