4◆仲良しAクラス
「メリーナ・ワールズ子爵令嬢が入学する前にやっちまっとけばいいのかしら」
窓際の席でセシリアは一人、こっそりと物騒な言葉を吐く。
前回、前々回とセシリアを陥れたメリーナは今はまだ平民のはずだ。年齢は同じだが聖女の力を持っていると診断されるのが今年で、それで子爵家の養女となり、来年この貴族だらけの学園に入学するのだ。
聖女の力に目覚める前に潰しておくのがいいかと考えたが、方針にそぐわないので却下する。
何かの手違いで入学して来なければいいと思っていたのだが、まさかそんな考えを撤回するような状況になるとは。
「やあセシリア、一緒にランチはどう?」
授業が終わってこれから楽しいお昼休みというタイミングで、アレスはセシリアに声を掛けた。
「ご学友の皆さまとご一緒しますの」
「じゃあ仲間に入れてもらっていい?」
「もっもちろん!殿下をお断りするなんてできませんわ!」
アレスが尋ねた相手がセシリアなら丁寧に断ったのだが、取り巻きたちに聞いたのだからYES以外の答えはない。その時だけかと思えば、それからはランチや放課後のひと時にアレスとその側近候補たちがぐいぐいと混ざってくるようになった。
このアレス王子と側近候補、メリーナが入学してきたら取り巻きみたいにいつもべったり一緒にいるようになるのをセシリアは知っている。
…面倒くさい、なんていうか、ダルい。
昔(と、いうのだろうか)、自分を信じなかったことの恨みは前回スッキリさせているので今は無い。一度目の人生で「お前は人間として最低だ!」とやってもいないことで言われたことは、二回目で言われるだけのことはやってのけた。
別にただのご学友ならいいけど、メリーナが入学してきて、アレス経由で接点ができ、あれこれ対応しなくちゃいけないと考えると、このアレス王子ご一行に絡まれているのは本気で面倒くさいのだ。
それにこのやけにキラキラしている集団といると目立ってしまい、周囲のチラチラとこちらを窺う視線も感じるのも地味に鬱陶しい。
(いや、いっそもっと大人数にしちゃえばいいのかしら)
セシリアはふと、そう思いつく。そうしたら「目立ってる王子グループ」じゃなくて「Aクラスって仲良し」みたくなるかもしれない。
明日にテストを控えて取り巻きの皆さんと王子ご一行と一緒に山掛けなどしていたが、セシリアは立ち上がってこちらを窺っている教室にいるクラスメイトに声を掛けた。
「皆さまもお勉強ですか?みんなでやれば捗りますわ、ご一緒にやりませんこと?」
羨望の眼差しを向けていたクラスメイト達は「良いのですか?」とソワソワ嬉しそうに参加した。
事あるごとにそうしていると、だんだんランチも放課後もやたら大所帯となっていった。その中でセシリアと王子ご一行が固まっていては無意味なので、ここはパーティーのホストとばかりにセシリアは場を回し、話を色んな人に振っては王子たちの話し相手を変えていく。過去の人生で二回も王子妃教育を受けているのでそんな事はお手の物だった。王子も「セシリアに絡む」という当初の目的を忘れているようだし、人間関係も活性化され一石二鳥だ。
「セシリア様はさすがですわ、Aクラスをこうまで纏めてしまうなんて。おかげで学園生活が毎日充実しております」
取り巻きの一人がキラキラとした眼差しでセシリアに言うのを、すかさずキツネのぬいぐるみを出して「ありがとうねー」とキツネが言ってる風で返事をする。場を取り仕切る手腕を見て「頭がちょっとアレ」設定を忘れられたら困るのだ。大概おかしなキャラだとセシリアは自分でも思っているが、なんだか色んなことがどうでもいいのだ。
学業については前回の記憶があるし、今回は王子妃教育からも逃れて今は暇な時間がたくさんあるからクラスのホスト役なんかやっていられるが、面倒であるのは変わりない。
セシリアは早い所メリーナに入学してもらって王子とその他大勢を引き取ってもらいたいと心底思っており、なんというか本末転倒である。