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30◆シスター・ライラとメリーナの化けの皮

聖クレア大聖堂へはカーン公爵家のセシリアと、その友人のマリウスがやってくると伝えられていた。あくまでお忍びだからと伝えてもらったので大げさな出迎えはなく、カーン公爵家の馬車に乗り三人で大聖堂の門までやってくると、その前では一人の修道女が立っていた。


「初めまして、我が教会の子がお世話になっております。私は聖クレア修道院のライラでございます」


きれいなお辞儀をして挨拶をしたのはセシリアたちの両親までは歳はいかない、強いて言えばデリア公爵と同じくらいの女性であった。清楚ではあるが、どうにも眼光が鋭い。


「お忙しい所お出迎えをありがとうございます。私はカーン公爵家のセシリアでございます。聖女でありますメリーナ様とは仲良くさせていただいております」

「メリーナは聖女だと威張り散らしたりしておりませんか?」

「え?」


シスター・ライラからの意外な言葉にセシリアは一瞬止まる。その後ろではメリーナがあたふたと挙動不審だ。


「ちょ、ちょっとライラってばやめてくださらないっ…??」

「ほんと煽てられるとすぐに調子に乗る子なので、今頃学園で痛い目に遭ってる頃かなと」

「やめろっつってんのクソババア!」


とっさに口を出た言葉にハッとしてメリーナは口を噤むが遅い。

クソババア、学園の中では聞いたことのない単語である。セシリアは目をぱちくりとさせてメリーナを見る。前回までの人生ではメリーナは清楚な裏で、実はこんなキャラだったということは無いように思う。


「育ちの部分でしょうがない所はあるんですが、今は頑張って淑女教育を受けているところです。目に余ることがありましょうが、ご容赦いただけるとありがたいです」


そう言ってライラはセシリアに向かって頭を下げる。


「いえ、驚きましたが、そうですよね。淑女教育を受けたのは昨年からですものね、学園ではいつもきちんとした振る舞いをしておりますわ」


ライラに話しかけられセシリアははっとして答えた。しかし、ライラという人はメリーナのとっさの発言にも動揺することもなく、笑顔のままだ。


「こんにちは、僕はセシリアの友人のマリウスです。ワールズ嬢とは同じ学年で二学期から同じクラスになりました。共に切磋琢磨しておりますよ」


にこやかにマリウスも会話の輪に入る。ライラはそちらにも改めて挨拶をするが、あくまで貴族の子息がやってきた程度の礼儀だ。ライラにはメリーナから王子が来ると伝わっているのだが気にする様子はない。

思わず化けの皮が剥がれてしまったが、二人に引いた様子がなくメリーナは目に見えてホッとした。


「もうライラ、あまり変なこと言わないでちょうだい!」

「ふふ、まだまだねメリーナ」


マリウスは初めて会ったライラを面白いと思った。今のはわざとメリーナに素の反応を出させて自分たちの反応を見たのだ。そうやって友人としてやってきた貴族にメリーナを利用する意図や、平民への蔑みは無いかと観察する。同時にメリーナの猫かぶりの猫を剥がして友人と向き合わせようとしているのかもしれない。


「私ったら立ち話をしてしまってすみません、どうぞ中へ」


ライラに案内された場所は大聖堂ではなく、敷地内にある集会棟だ。メリーナは勝手知ったるという感じで先陣を切って案内をする。


「メリーナ姉ちゃん!帰ってきたの!?遊ぼう!」

「今はお客様が来てるから後でね」


集会所にやってきている子どもたちはメリーナを見つけると次々とやってくる。随分慕われているようだ。

二階にある応接間へ通されると、ライラはお茶の支度のために台所へ向かった。豪華とは言えない、スポンジがへたったソファへ三人で腰を掛けると、セシリアは部屋の中をキョロキョロと見回した。

いつも慈善活動のために教会へやってきて通される部屋はもっと豪華だったように思う。貴族を持て成すための部屋はきっと別にあって、ここは本当に運営本部の裏方だ。出入りの業者などの商談で使うのだろう。メリーナの方はそんな立派な部屋があることすら知らない様子だ。


「学園の懇談室のソファのほうがふかふかしてますね、昔ここにこっそり入って座った時はすっごく立派だと思ってたんですけど」

「応接間なんかに入って怒られなかったんですか?」

「もちろん怒られましたよ!ライラったら放り投げるんですよ~!」


メリーナの思い出に思わず笑みが出る。ここのどこもかしこもメリーナの思い出でいっぱいのようだ。部屋は簡素であるが掃除が行き届いて気持ちがいい。こんな場所で愛情豊かな心のやり取りをしていれば、悪徳など育ちようもない。


「メリーナ、ドアを開けてちょうだい」

「はーい」


ライラがドアの向こうからメリーナを呼ぶ。入ってきたライラがティーセットとクッキーを載せた皿を盆に乗せている。随分重そうだ。


「ちょっと、ワゴンがあったでしょ?」

「チビが乗って遊んで壊しやがった」

「あ〜…」


聞こえてくる会話を耳にするに、メリーナの口の悪さはライラから移ったのではないだろうか。妙に気合の入った目つきといい、一体どういう経歴の持ち主なのかとセシリアは思った。

更新再開です。12/4までは投稿済みです。

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