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3◆学園入学

公爵令嬢の人生というのは意外と選択肢が少ないようで、とりあえず14歳になったら学園に入学するのは避けられない。ここで学園へ行きたくないと言っても許されるはずないのは解っているので、大人しく入学する。


セシリアの縁談はいまだに纏まっていない。公爵令嬢という身分でありながら学園に入学するまでに婚約者がいないというのも聞かない話だが、セシリアの茶会での奇行はこっそりと噂になっている。

それでも縁談の話が無いわけではない。しかしそんな話も、顔合わせの席で両親がいない隙に、セシリアが隠し持っていたキツネのぬいぐるみを出して話しかければあっという間に無かったことになるのだ。

やはり父に顔合わせの時のことを聞かれたりするが「普通にしてたわ」で押し通す。しかし貴族の噂もキャッチできないなんて、両親の情報網は大したことがなさそうだとセシリアは思う。


学園入学時の面接では立派な淑女として対応した。

面接をした教員は「あれはただの噂だな」と他の教員に言っていたのを聞いたので、どうやら奇行の噂はここまで流れてきているらしい。

さてどうしようか、とセシリアは考える。あまり残念な子をやっていても学園で舐められるばかりなので、ここからは二回目の人生で培った「THE悪役」のキャラで行くことにした。ただし悪事は働かない。やったって別に楽しくもない。悪役キャラだともしもの時に冤罪と信じてもらえなさそうとかは心配無用、悪役じゃなくても信じてもらえないのだ。

なのでセシリアは冤罪を掛けられないための対策を講じながら慎重に行動を取ることにする。

常に人の目のある所にいる、妙な呼び出しは受けない、疑いを持ったら教師に相談。一番ダメなのは「まあ、これはなんでしょう」と疑問をそのままに何の対処もしないこと。なんでしょう、ではない。確認しろ馬鹿、とセシリアは一番目の人生の自分にそう思う。


「セシリア様、今日も一段とお美しいですわ」

「まあ、ありがとうマーガレット様」


セシリアは「当然でしょう」と言わんばかりの笑みで礼を言う。いつも取り巻きを5~6人連れて歩くようにしたので、これで一人でいる時間はぐっと減った。

ちなみに一回目の時は普通にご学友と一緒にいたり、一人でいることもあったり、普通に無警戒に過ごしていた。二回目の時は忙しすぎて大体一人だった。


「セシリア・カーン公爵令嬢」


背後から声がしたとたん取り巻きの皆さんがきゃあと歓声を上げる。

聞き覚えがあるその声に振り向いたらそこにいたのは遠い昔(体感)に婚約者だったアレスだった。


「アレス殿下、ご機嫌麗しゅうございますわ」

「君とは昔会っているね、フォレックスちゃんは元気かな?」


すごい、一度会っただけの人間のキツネのぬいぐるみの名前まで憶えているとは。

王家他貴族の間でセシリアは「頭の弱い子」として伝わっているはず。そしてキツネのぬいぐるみはそれを象徴するようなものだ。

挨拶ついでに馬鹿にしてくるとはなかなか上等なテクニックだとセシリアは感心した。

さて、どうしようか。…と、考えるものの、別にどうもする必要はない。王子の機嫌を逆撫でしてもいいことはないし、ここで頭が弱いわけじゃないと見せる必要もない。


「ええ、息災ですわ」


にっこり笑って答えると、王子は「ふうん」と詰まらなさそうな顔をした。


「では、参りましょうみなさん」


アレスはもう用が無いようなので踵を返して歩き出す。間近でイケメンと名高いアレス王子を見られた取り巻きは満足そうだ。


「フォレックス様とは一体どなたですか?」

「ふふ、実はぬいぐるみですの」

「まあ、セシリア様がぬいぐるみを!?私も…実はまだ手放せない子がいて」

「私は一生手放す気はないですわよ」

「セシリア様のような方でもそんな一面がございますのね、なんだかホッとしますわ」


悪役っぽいセシリアがぬいぐるみを大事にしているのはギャップがあって好感度が上がったらしい。

取り巻きの皆さんにはこれからも私のアリバイになってもらわなくてはいけないので、是非とも好感度を上げていっていただきたい。

セシリアはそうほくそ笑むのだった。


***


セシリア・カーン公爵令嬢が婚約者の第一候補だと大人たちが話しているのをこっそり聞いた。母の茶会で初めて会えると聞いて楽しみにしていたら、貴族の飾られた子供が集まる中でひときわ綺麗な女の子が現れた。

胸がドキドキして、彼女がセシリアじゃないかと声を掛けに行った。


「やあ、僕はアレスだ。きみの名前を聞いていいか?」

「フォレックスちゃんよ、コンコン!」


みんな王子である自分には最上級の挨拶をするというのに、彼女はそんなことはせず人形遊びに興じていた。こちらがじっと見つめていても、ぬいぐるみを動かして物を食べるしぐさをさせたりしている。これなら1つ下の弟の方がまだきちんとできている。彼女は綺麗な子だったからとても残念だった。あとから聞けばやはり彼女がセシリアのようで、どうやら知能が年齢より足りていない疑いがあるとのことだ。


そんな彼女を学園の入学式で見掛けたのだ。この学園には入学試験があり、学力が低くても入学はできるが一番下のCクラスとなる。彼女は自分と同じAクラスとなった。精神に何か問題があればいくら学力が良くてもAクラスとはならない。

一体どういうことだと、セシリアという人を直接確認しようと思い声を掛けてみた。


「君とは昔会っているね、フォレックスちゃんは元気かな?」


その問いに彼女は一瞬考えるような顔をしてから、にこやかに「息災です」と返してきた。あれはいつ、どこで出会っているかも、自分との出会いがどうだったかも全部わかっている。

総合的に判断すると、彼女は王子の婚約者になりたくなくて一芝居打ったのだ。そんな演技を見抜けなかった大人たちも自分も間抜けである。


「こんのやろう…」


誰もいない自室でつい言葉が出る。

ひと目見て好きになった相手から周到に振られていたのだ。カーン公爵と王家の間では内定まで行ってたと言うから、セシリア一人で考えて実行したに違いない。

王家に嫁ぐのが嫌、という気持ちもわからなくもない。公務は忙しいし、自由は少ない。金持ちの貴族に嫁入りした方が人生は謳歌できるだろう。しかし相手は公爵家だ、元は王家だったんだからそこら辺は解れよと思う。


セシリア、一体どんな女なんだ。

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