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28◆授業と休日の計画

魔法実践は理論を組み立てるだけではなく、それを実践するためのものだ。理論でいくらそうなっていても、実際に使ってみればそうはいかないという場合があるが、それを「使えません」で済ませるわけにはいかない。そんなわけで如何に利用するかに特化した勉強をすることになる。


「なので、力を磨き上げるというよりも、補助を上手に使って効率を上げたり、他の魔法属性の人と組んで補正しあうとか、そういう感じです」


メリーナも授業は受けたばかりではあるが、そうやって生活魔法を使う者は教会にはよく出入りしていたので自然と覚えていったようだ。


「力を極限まで高めるとか、難易度の高い術を使えるようになるとかは魔法研究の分野だな」


メリーナの説明にマリウスも補足をする。自分の魔法を鍛え、色々な魔法を覚えていくものだと思ったセシリアは意外であった。だけどこれは考えていたよりもずっと面白そうだ。


「そういうことなら、自分の力が弱くても役立てどころがありそうでいいわね」

「そうですね。私も聖女の力があると判明しただけで、力の大きさとか方向性はまだまだわからないから、どうやって役立てるかはこれからです」


セシリアは以前までのメリーナの持っていた力を思い出す。確か、滋養強壮によく効く力だとか。だけど最近はメリーナと一緒にいるが、そんなに健康になった感じもしない。他の人を見ても無意識下で干渉を受けているということもなさそうだ。前回までより力が判明するのが遅かったのが影響しているのだろうか。


「そうだ、次の休みは大丈夫ですか?シスター・ライラに手紙を送ったらクッキー焼いておいてくれるって言ってました」

「あら、わざわざありがとう。是非伺わせていただくわ」

「はい!」


メリーナの様子はまるで友人を自宅へ招くようである。ワールズ子爵家ではまだまだ遠慮があり、実家には母親が知らない男と住んでいる。メリーナにとって心安らげる場所は教会なのかもしれない。

お菓子を用意してくれているなら、お土産は紅茶なんかが良いだろう。あとは公爵家の娘が行くのだから寄付なども用意しておかなくては。この辺りは前々回の人生できちんとやっていたので段取りは解っている。


セシリアは一緒に勉強してみて思うが、今回のメリーナは随分と地に足が着いている。アレスの影に隠れ、セシリアにしか見えないように笑っていたメリーナは、思えば自分で動くということをしていなかった。嘘を言ってただ泣いて見せ、セシリアに攻め込むのはアレスやその側近候補たちであった。やってもいない証拠の数々も彼女が用意したものではなかったのだろう。だとすると協力者がいたはずだ。


授業が終わり、セシリアはマリウスとカフェでお茶をしながらそのことについて話した。マダム・ジョゼは夏季休暇が終わり給仕係が戻っているにも関わらず、二人でやって来ると自らサーブをしに行き、はしゃいだように「ごゆっくり!」と言って去っていく。


「協力者はメリーナの母親だ」


流石のマリウスはきちんと調べていた。前々回の冤罪を調べることはできないが、前回はセシリアの後ろでこっそりとフォローをしてくれていた中で裏も取れたようだ。


「叔父上の庇護下にあったメリーナの母は、まるでメリーナの下働きのようだった。叔父上がそのようにさせていたんだけどね。贅沢ができるだけの金はメリーナがいるから与えられる、とメリーナと母親に言い聞かせていたらしい。これは彼女たち母娘を世話していた者から聞いた」

「それは…メリーナが自分を価値ある人間と調子に乗るのもわかりますね」

「母親を見下すようにもなるだろうね。まあ元から褒められた人物ではないようだけど、それにしてもメリーナの人格形成には悪影響だ」

「なんていうか…こう、気分の悪くなるやり方を取る人ですね、デリア公爵…」


元の母娘関係が良くないとしても、それに手を入れてより破綻させるというのはどうにも腹の底が冷える感じがする。


「…うちの身内が恥ずかしいよ」

「いえ…まあ遠くはなりましたけど、うちもうっすら身内と言えなくもないですし…」


カーン公爵家は随分昔にできた公爵家で、ここ数代は新しく王家の血は入っていない。それでも王家と連なりがあると言っているのだから、こんな時だけ他人の振りをするのも悪い気がする。


「ところでマリウス殿下、聞いていると現在のメリーナに影響しているのはシスター・ライラという女性のような気がします。マリウス殿下がメリーナといるように計らったのですか?」

「それが違うんだよ。僕も叔父上からメリーナを引き剥がした後は誰か信頼の置ける者に任せようと考えていたんだけど、いかんせん以前の記憶があっても子供だったからね。そう簡単に手配はできなかったんだ。教会へ通うようになったのは僕も想定していなかった。思いがけずメリーナの様子を知るのにやりやすくなったよ」


偶然王家と関わりの深い教会と縁ができたのを後からマリウスが利用したようだ。前回の生でメリーナは幼い頃の病で教会へ行き聖女の力があることを知られたが、今回はそんなこともなかったらしい。


「そうでしたか。シスター・ライラというのはどのような人物なのでしょうか」

「まだ直接は会ったことはないんだけど、聞いていると僕が裏で手を回してメリーナの面倒を見させるより、よほどいい人間に関われたんじゃないかって思っているよ」


マリウスにそこまで言わしめるシスター・ライラとはきっと素晴らしい修道女なのだろう。それこそ聖女と呼ばれるに相応しい人格かもしれない。セシリアは純粋にライラという人に会うことが楽しみであった。

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