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27◆魔法実践の授業

特殊科目の魔法実践は普通科目のコマと入れ替えて授業を受けることになる。上位貴族が好む魔法研究は普通科目の一つだ。魔法実践を選択するのは卒業後に就職を見据えた者になるので、自然と下位貴族ばかりとなる。

セシリアは学生生活が三度目で、毎回成績優秀者だったのでどこを減らしても問題ない。普通科目は卒業に必要な単位を最低限取ることにし、あとは全て魔法実践の授業を入れることにした。魔法実践の教室は朝から晩まで教育別棟という教育棟とは違う場所で開かれており、各自都合のいい時に来るようになっている。

そんなわけでセシリアは2学期からは魔法実践の教室がある教育別棟に通い詰めることになった。


「…なんでマリウス殿下がこちらに」

「おや選択科目が同じなんだね。この教科は学年は関係ないから共に励めて嬉しいよ」


婚約回避のために2学期からの選択学科をマリウスに言った覚えはあるが、だけどこんな就職のための実務的な教科を王子が選択するなど思うはずもない。


夏季休暇の間はマリウスも寮に戻って来ていたので、毎朝カフェで顔を合わせた。示し合わせたわけではなく、夏季休暇期間に朝食を提供するのはカフェだけなのである。

セシリアは暇人であるが、相手は王子で公務もある。いつも一緒に遊んでいられるということはない。なので却ってセシリアも、マリウスに時間がある時は付き合ってやろうかという気になって、予定が合えば一緒に出掛けたり、勉強したりしていた。愛する云々は置いとくとしても、この夏、マリウスとは結構仲良くなったんじゃないかと思う。

そこに更に間を詰めるかのように選択科目も一緒にしてくるとは。自分を好きだと言われたが、実感が湧かないセシリアの気持ちは「なんでそこまで」といった調子だ。


マリウスは2回目以降の人生では病弱設定のため学園には通っていないようだが、勉学の方は大丈夫なのだろうか。やはり王族ともなるとどんな成績だって卒業可能なのだろうか。

セシリアがそんなことを考えていると、背後から大きな声がした。


「セシリア様とマリウス殿下!?どうして魔法実践の教室にいらっしゃるんですか!?」


こんな大声で話す相手には心当たりがある。振り向いてみれば思った通りの人物、メリーナがいた。


「メリーナ様も魔法実践の授業を受けられるんですか?」

「はい!聖女の力を磨いてこの国のお役に立てることがワールズ子爵の望むところでもありますから」


メリーナはワールズ子爵家の養女である。下位貴族の彼女が魔法実践の教科を選択するのは全く以て違和感はない。マリウスがいるよりずっと自然だ。

だけど前回までは聖女の力を世に役立てようなんて素振りを見たことがなかったが、変われば変わるものだ。


「そうでしたのね。私も炎魔法の適性があって、そちらの可能性を探求したくなりましたの」

「炎ですか、王立魔法術者から生活魔法術者まで幅広く職の選択肢がありそうですね」


話をしてみると、どうやらメリーナは魔法一般の基礎知識と社会で如何に使われているかなど頭に入っているようだった。


「…もしかして私よりずっとお詳しいんじゃないかしら。私はこの夏から勉強を始めて、本当に全く何も知らないの」

「あー、教会でよく教わったんです。お世話になったシスター…シスター・ライラっていうんですけど、基本的な勉強とか魔法のことについて、将来職を得るのに役立つからって無料で教えてくれていたんです」


シスター・ライラ。恐らくその女性がメリーナが前回までと大きく変わった要因だとセシリアは思った。


「まあ、そうでしたの。一度お会いしてみたいわ」

「えっ本当ですか!?聖クレア大聖堂にいっつもいるんで、休みの時にでもお連れしますよ!」


セシリアの何の気ない一言にメリーナは食らいつく。一緒に出掛けるチャンスだ。シスター・ライラには自分の失敗話なんかは口止めしておかなくては。


「へー、聖クレア大聖堂でそんなことをしているんだね。僕も後学のために見ておきたい。ご一緒してもいいかな」


外出の誘いにすかさずマリウスも乗る。今までは臣下に様子を報告させていたが、この目でメリーナのいる環境を確認する機会である。


「マリウス殿下もですか!?あの…殿下をおもてなしするのにどうしていいか…」


さすがに王族を招くのは敷居が高いのかメリーナは言い淀む。教会の行事でやってくるのとは違うのだ。ちなみにカーン公爵家も王家に連なる高貴な身分なのだが、メリーナは貴族の階級をよく理解していない。なのでセシリアのことは「偉い貴族のなんだかすごい人」というざっくりした認識だ。


「おもてなしなんて気にする必要ございませんわメリーナ様。マリウス殿下がお願いをしてお邪魔をするのですから、いつも通りでいらっしゃってくださいな。ねえ、殿下」

「その通りだ。むしろ司祭には僕が行くのを黙っていてくれ、気を遣われたくないからね」

「は、はい…」


司祭には黙っていろと言われたが、シスター・ライラには言うなとは言われていない。いきなり王子を連れて行ってメリーナが影でどやされたりしたらたまらない。今日は寮に戻ったらすぐにシスター・ライラへ手紙を書こうとメリーナは思う。


魔法実践の授業は途中から入ってくる者もいるので、基礎、基本応用の授業は希望者がいればいつでも受けられるようになっている。そこを終えた者はそれぞれの適性に応じた授業を受ける仕組みだ。よってこの教育別棟には魔法実践の教育者が複数人常駐し、同じ課題も違う視点で教わることもできて、今後魔法を使っていくのであれば学ぶ環境としてはかなり良い。


「魔法実践の授業が良いだなんて話聞いたことなかったわ」

「ずっと力は入れてるんだよ。だけど職業訓練学科と多少見下されている感は否めないね」


この学園の魔法実践学科で学べば優秀な魔法術者が育つだろう。だけどそれらは皆現場で力を発揮し、いわゆる「お偉いさん」には魔法研究畑の身分の高いお方が就かれる。なので現場作業員養成所と揶揄されたりするのである。


「身分がないと要職に就けないという悪しき慣例も無くもないけど、現場第一線で活躍するベテランが現場を離れたがらないというのも大いに理由はあるんだよ」


マリウスの説明にセシリアはなるほどと思った。確かに上からの意向と現場の意見との板挟みになり調整するなんて面倒をやるより、現場で自慢の魔法をぶっ放している方が面白いだろう。だったら偉い身分なんぞ元から偉い奴がやればいいとなるのかもしれない。世間は何とも複雑なものだ。


セシリアとマリウスは全員が最初に受ける魔法実践の講座を受け、後は自分の適性に合わせた授業を選ぶ。まずは基礎固めが必要なセシリアは初心者向けの授業を選んだ。そこには当然の顔でマリウスも付いて来たし、先にメリーナが授業を選択していた。

そんな訳で何の因果か、かつての復讐者と被復讐者(被害者と加害者とも言える)と、諸々の大元となる人物が一緒に勉強をすることになったのだ。

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