18◆メリーナの反省会
「失敗しちゃったなぁ…」
寝巻に着替えてベッドに寝っ転がったメリーナは今日のことを思い出していた。
せっかく親切にしてくれたセシリアを困らせてしまった。何も考えず、教会で友達とやっていた物の貸し借りと同じようにしてしまい、大量の本をバッグに詰めて返却したのだ。
つい去年までは教会で小説の全巻セットを借りてホクホクと家に帰ったり、街はずれで木の実を採って袋にパンパンに詰めて持って帰ってきたりして、それは周りの友人も同じだった。
でもよく考えたらこの学園のお嬢様がそんなことをするはずがない。きっと扇より重い物なんか持ったことがない人に1年生が使う教科書の全部を持たせてしまった。そのあと、よりにもよってアレス王子を荷物持ちにしてしまうとは。
きっとこういう所が「平民のくせに弁えていない」所なのだとメリーナは思う。
今日は教科書を返却して、お礼にカフェでセシリアにご馳走して、初めて二人きりでお話…例えば可愛いぬいぐるみのことを聞いたりしようと思っていたのだけど。
「うまくいかないな…」
現状、アレス王子ご一行がとても良くしてくれたお陰で過ごしやすくなっている。
また入学当初のように調子に乗ってしまいそうな状況だけど、乗り切れずにいるのには理由があった。
メリーナはどうも女友達ができないのだ。教会にしょっちゅう出入りしていた時はそんなことは無かったのだけど。
メリーナが自分の見た目が良いと気付いたのは物心ついた時だ。ちょっと笑えば男の子たちは言うことを聞いてくれるし、優しくしてくれた。
「見た目なんかいくらでも変わる。人として愛されるようにならないと無意味だ。それにあんたに無責任な言葉と他愛のない小さいことで気を引いていい気になってる男なんて碌でもないよ」
そんな風にメリーナに何度も注意をしていたのがシスター・ライラだ。
メリーナは従来から楽な方に流れる気質で、それで優しくしてくれるなら得ではないかとライラの言葉を五月蠅がったりもしていたのだが、セシリアを見ているとライラが言っていた「人として愛される」という意味が理解できるような気がした。
セシリアは美しい令嬢だ。公爵家と言う高い身分に相応しい振る舞いを身に付けており、尚且つ2年のAクラスを纏め上げる力を持っている。だけどとても気さくで、ぬいぐるみ遊びで相手を和ませてくれるユーモアまで持ち合わせている。
こんな人なら誰だって好きになるに決まっている。だからセシリアの周りにはいつも囲むように女友達がたくさんいるし、二人の王子もどうにか自分に振り向いてもらおうと競い合っている。
メリーナも入学式以来の人気だが、可愛い女の子としてちやほやされているのと、人として一目置かれているのはまるで違うのはさすがに解る。気を引くためだけの甘言などセシリアにはまるで意味はないのだ。
「せっかく一緒にいる機会があるんだから、仲良くなりたいんだけどなぁ…」
今まで出会ったことのないくらい素敵な女の子と仲良くなってみたい。
顔がちょっと綺麗なことも、聖女の力を持っていることも、こんな時にまるで役に立たない。友達を作りたいという欲望は、そんなことでは叶えられないのだ。