14◆待ち合わせ
手配をした茶会の場所にアレスは今回のゲストを誘ってからやってくる。他の側近候補たちにはアレスから場所は教えてあるので各々やって来るだろう。
セシリアはというと、今は教室でマリウス待ちだ。この学園は学年ごとに校舎が違うので来るのに少し時間が掛かるかもしれない。その間、取り巻きの皆さんと他愛もないお喋りをして暇をつぶしている。
「セシリア様、メリーナ様を励まして差し上げてくださいね」
今回の茶会には取り巻きの皆さんが来ると人数が多くなりすぎるので誘わなかった。
だが茶会をきっかけにメリーナの取り巻きになられても困るのでこれでいい。
「ええ、皆さんのお気持ちもお伝えさせていただくわ。だけど怖いわね、この学園にあんなことをする人がいるなんて…」
セシリアは前回メリーナの目の前で火柱を立たせたのだが、過去(?)の事は振り返らずに怯えたような顔で言う。
「きっとメリーナ様より成績の悪い者が嫉妬をしたのですよ。とても優秀な方と聞きますもの。今はBクラスですが、すぐにAクラスになるのは間違いないですわ」
それを聞いてセシリアは「おや」と思う。
前々回の時はメリーナが特に優秀という話は聞いたことはなかった。とにかく聖女の力を持っているので始めからBクラスで、翌年からAクラスになった。学年は違えどAクラス同士になると級を跨いだ交流などがあるので、そこでアレスといちゃいちゃしてくれたものだ。
今回は早々学期替わりのAクラスへの変更を狙っているのだろうか。
あまり強敵になられては困るので、やはり今の段階でやっちまった方がいいのではとセシリアは考える。
「セシリア、お待たせ」
そんな物騒なことに思いを巡らせているとマリウスがやってきた。
「では皆さま、ごきげんよう」
セシリアは取り巻きの皆さんに挨拶をして教室を出ると、マリウスと並んで歩く。後ろから聞こえた「お似合いですわ」という言葉は何に対して言っているのだろうか。
「メリーナ様は成績優秀なのですってね」
「そのようだ。早急にAクラスに変更してもらって、僕からよく見える所に居てもらおうと考えている」
マリウスはAクラスである。クラスが違うと教室も随分離れているので目が届かないこともあるだろう。
「ところでマリウス殿下は聖女の力は大丈夫なのですか?」
メリーナには無意識に干渉するという力があるという。何度も繰り返した人生でマリウスは影響を受けなかったのだろうか。
「別に聖女の力は毒じゃないが…僕はメリーナの力で弱った体が癒えた時に、あー癒えたなぁって思ったくらいだよ」
「…?じゃあ、アレス殿下は何故ああまで」
「快楽に弱いんじゃない?」
そう言ったマリウスは少し諦めたような表情だ。
「聖女の力は術を受ける側が教会の加護が強かったりすると増幅して受けてしまうから。王族は大聖堂で加護の儀式をやってるくらいだからね、メリーナの影響はそれは強かっただろうけど。それにしても愉悦の最中にいる自分を他人事で見る修業がまるで身についてない…二回目以降は結構厳しく修業を受けさせているのにな」
甘言や色恋、薬物など身分の高い者を陥れようとする触手はあちこちから伸びる。
カーン公爵家もその危険は考えており、よほどの信用がある者以外とは関りを持たない。貴族が閉じた世界になるのはこういう理由もある。
やはり王族ともなるとその手の誘いも数多あり対策も講じているのだが、結局窮地に陥った時は自分自身で自制するしかない。
「王族に生まれるとそういう時のための修行は子供の頃からさせられるんだけど、やはり向き不向きがあるんだろう。アレスは素直なんだろうね」
マリウスはセシリアには素っ気なく、あたかも自分は平気だったように言ったが、毒で倒れメリーナの影響を受けている時には彼女を強く求めているのを感じた。理性など捨て、感情のままに手を伸ばしてしまいたいと何度思ったか解らない。彼女から離れ冷静になった時、それを心底恐ろしく感じたものだ。
一度目はギリギリのラインで理性を保ち、二回目以降はメリーナへの警戒心と、精神力を強化する魔石を身に着けて干渉を受けないようにしている。
「なるほど、修行をしているから国王は何ともなかったのですか」
「デリア公爵もね」
「…アレス殿下ってどうなってるんです?」
「さあねえ、今回は長男だから前よりはしっかりしてくれてると期待してるよ」
王位を狙う悪意のようなものなら、マリウスや国王がメリーナを前もって排除したかもしれない。だけど彼女は違ったのだ。ただアレスの心を奪い、楽をして生きることだけを望んでいた。それがこうも最悪の結果を招いたのでマリウスも驚いているのだ。
「ほんと、馬鹿は厄介だよ」
そんな話をしているうちに二人は懇談室へ到着する。中へ入ると王子とその側近候補、そしてメリーナがいた。