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12◆聖女メリーナ

入学式で話題の人となったメリーナはその後の食事の最中も生徒たちに取り囲まれ、ようやっと一人になったのは宛がわれた寮の一室に戻った時だった。

「ごきげんよう」と上品な挨拶をして部屋の扉を閉めると、途端にメリーナの顔には笑いがこみ上げてきた。どうもそれは「淑女の微笑み」とは程遠い。


「聖女の力、さいっこー!」


思わず気持ちが口に出たメリーナは軽いステップを踏みながら部屋の調度品を見渡す。


「すごい!ワールズ子爵家の部屋もすごいと思ったけど、学校の寮なのにこれ!?ベッドはふっかふかだし家具のどれにも彫刻がされててすごいんだけど!」


メリーナは庶民の中でも貧しい方だ。母親はその昔どこかの貴族の屋敷で働いていたそうだけど、屋敷の主人に色目を使い、奥方に叩き出されたのだ。

母親はメリーナに『本当ならお前は高位貴族の令嬢なのよ』と事あるごとに言う。メリーナもそれこそ幼い頃はそんな話を鵜呑みにしていたが、今なら貴族が気まぐれにメイドに手を出してできた子供など令嬢として育てるわけもないと解る。貴族の種かどうかも怪しいものだ。


デリア領で暮らしていた幼い頃はまだ母親も細々と働いていたが、王都に引っ越してくると彼氏を作っては働かなくなり、相手に養ってもらうということを繰り返していた。母親の見た目がまあまあ良いからか、そうさせてくれる男が途切れない。

自然と行き場のなくなったメリーナは、教会が主催する催しや学びの場に暇つぶしで行くようになった。理由は無料だからだ。しかしメリーナはそこにいるシスター・ライラに育ててもらったようなものだろう。


「ふふん、クソババアにも今の生活見せてあげたいわ」


メリーナがクソババアと呼ぶのはシスター・ライラのことである。

服の中から首に下げていたチェーンを取り出すと、淡く白い天然石のネックレスが現れた。これは幼い頃にシスター・ライラから貰ったものだ。子爵家へ引き取られるまでは皮ひもだったが、子爵家の令嬢となって初めてお小遣いで購入したのがこのチェーンだ。

こんなつまらない石は必要ないと処分されそうになったので、メリーナはこっそりと服の中で身に着けている。


ライラはメリーナのさぼり癖にすぐ気付いた。母親譲りで見た目がいいので、可愛い子ぶれば面倒な役割を外れることができたメリーナに「顔が綺麗だからって調子に乗ってるんじゃねえ!」と尻を叩いて働かせた。ライラはメリーナよりもっと悪環境の育ちである。


「聖女の力で大儲けできるかしら。それとも上位貴族にモッテモテになっちゃって、働かなくたって贅沢な暮らしができちゃったり!きゃははっ!」


メリーナは大はしゃぎでベッドに倒れ込みゴロゴロと転がる。入学式は王子と二分しての大注目だし、その王子の兄すら自分を見にやって来たことで、元から調子に乗りやすいメリーナは有頂天であった。


「寮の食事もめっちゃくちゃ美味しいし、勉強だって教会でちゃんとやってきたから付いていけないってこともないと思うし、解らなかったら誰かイケメンに教えてもらっちゃったりっキャーッ」


これからの生活を考えるとメリーナは幸福感でいっぱいになる。

貧乏生活から抜け子爵家に入ったが、貴族の養女になるというのは「家族になる」というのとは違うようで、いつまでも他人行儀な人たちとの暮らしは、いくら生活レベルが上がったとは言え正直しんどかった。だけど学園の寮であれば学生たちがいるだけだし、部屋も食事も十分豪華だ。


「これから四年あるんだから、私が聖女様と全国民から崇め奉られて、王子様に求婚されちゃったりする可能性も0ではないわよね、んふふ」


明日から本格的に始まる学園生活を夢見てメリーナは夢心地である。

ベッドに転がったままで、このまま寝入りそうな雰囲気だがまだ寝る支度はしていない。色々後回しにしてしまうのは性格なのだ。

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