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11◆マリウスからセシリアへの状況説明<2>

「では、彼女はデリア公爵領にいたのですか?」

「そう。デリア公爵は子供の存在は知っていたけど捨て置いてた。だけどメリーナが病気になって教会の世話になった時に聖女の力があることを知った。そこからメリーナとその母親はデリア公爵の庇護下にあったらしい。なので今回はメリーナが聖女とわかる前に王都へ呼び寄せることにしたのさ。僕は1つずつ年齢が下がっているから、なかなか子供の話は通らなくて焦ったよ。だけど一応上手く行ったかな」


マリウス王子は国を傾ける原因になったメリーナの過去をずっと調査はしたけど調べきれずにいた。だけど今回はデリア公爵から調べることで幼い頃の所在地が特定できたのだ。そして彼女の成長する環境を変えたというわけだ。


「今回の彼女は幼い頃から聖女だとは誰も知らない。だから聖女様と崇められてることもない。デリア公爵によって欲しいものを全て与えられてもいない。嫌なことを誰かが避けてくれることもない。母親が少し問題がある分、平民としても苦労して育った」

「…それが、どの程度人格に影響しますかしら」

「それをこれからこの学園で検証するんじゃないか」


もしメリーナの性格が環境に影響されないナチュラルボーンだった場合はまたモンスター退治となるわけだ。そうなった場合は今回戦力外だと思うので、何かと理由を付けてカーン領にでも引っ込むことにしようとセシリアは思う。


「マリウス殿下、あと一つわからないことが。デリア公爵のことですが…なぜマリウス殿下に秘法のことを教えたのでしょうか。もし自分の企みなら、そんなこと教える必要はございませんわよね?」

「そこはね…叔父上に聞かないと僕も解らないんだけど。だけど僕に秘法のことを教えてた叔父上は最初の時だけだから、今はもう解らないかもしれないね。確実に解っているのは、メリーナを王家に入れるために他者の気持ちも解らぬ、自制心を持たない人間に育てた。それだけは調べて確信したよ」


聞けばデリア公爵は王子兄弟にも良き叔父で、王にとっても相談相手として信頼をされていたらしい。それなのに、幼子が大人になるまでの時間を掛けて王家に供えるための毒花を育てるとは。一体何を考えていたのだろうか。


「マリウス!ここか!」


ノックも無しに開け放たれた扉から現れたのはアレスだ。懇談室の利用者に他の来客があった際は学園職員がまず伺いに来るのだが、さすが王子、無礼講である。


「アレス…僕はセシリアと二人で話すことがあるのだけど」

「初対面のお前たちに何の話があるというんだ!セシリア、お前もお前だ。俺との婚約は断ったくせにマリウスの誘いには乗るんだな」

「まあ、私はアレス殿下の婚約者になんて打診はされておりませんわ?きっと何かとお間違えになっておりますのね」


コロコロと鈴が鳴るような声で笑うセシリアと、向かいで優雅にお茶を口にするマリウス。そんな二人をジト目で見て、アレスはマリウスの横にどっかりと腰かけた。


「わあ、邪魔だな」

「うるさい!」


セシリアに説明するべきことは大体話終わっていたので、ここからはただのティータイムでもいいだろうとマリウスは懇談室付きのメイドをベルで呼び出し、新しいお茶と茶菓子を言いつけた。


「アレス殿下、話題の聖女様は如何でしたか?」


セシリアが笑顔を崩さず、ここに来る前にアレスを押し付けたメリーナについて尋ねる。マリウスの話だと聖女の力は抗い難いようなのに、アレスがわざわざセシリアを探しにやってきたのは意外であった。


「とても美しいし、きっと力も素晴らしいだろうが、庶民は庶民だな」

「貴族のマナーはこれから身に付けるのでしょう。一体市井でどのような暮らしをされていた方なのですか?」


アレスの様子を見ても、メリーナに傾倒しているような雰囲気はない。

まだ出会ったばかりなので効果が発動していないだけかもしれないが、前回、前々回は会ったばかりでもメリーナのことを「素晴らしい聖女だ」と言っていたように思うのだが。


「そのことは僕が少し知っているよ。メリーナ嬢は幼い頃から聖クレア大聖堂の手伝いをしていて、僕も礼拝に行った時に見かけたことがある」


聖クレア大聖堂は王家の儀式が執り行われる場所だ。なるほど、王都に呼び寄せてマリウスは自分の目の届く範囲にメリーナを置いたのだ。


「まあ、そうでしたの。教会でお手伝いなんて素晴らしいですわね。是非私もお話をお伺いしたいですわ」


トラブルを一切合切避けるのならばメリーナと接触しないのが一番だと思うが、前々回、冤罪を掛けて笑っていたメリーナが一体今回どうなっているのかはセシリアにも興味がある。

きっとそのうちまたアレスとその側近候補はメリーナを取り巻くのだろうし、その時にお茶にでも誘ってもらい、「友達の友達」くらいの距離で眺めていられると丁度いい。


「アレス殿下、メリーナ様と歓談の機会がございましたら是非お声かけくださいね」

「なに!?…解った、聖女の話を聞く茶会をセッティングしよう」

「わあ、その時は僕も一緒に誘ってくれよアレス」


マリウス王子が間髪入れずに自分を茶会メンバーに突っ込む。メリーナの様子を見たいのはマリウス王子も同じだ。


「お前も?まあいいだろう。ずっと病気がちでパーティーや茶会に参加してないしな。学園で交流を始めてみればいい」


アレスのマリウスへの態度だが、すごい兄貴風が吹き荒れている。これは今までのアレスでは見たことが無いことである。今までは自分自身が弟だったので当たり前ではあるのだが。そんなアレスにマリウスは生ぬるい笑みを向けている。


それからは当たり障りのない話をしてお開きとなり、各自寮の自室へ戻った。

セシリアは部屋に到着するのと同時にベッドにダイブする。

情報過多だ。頭の中がグルグルする。

セシリアは突っ伏したまま頭の中の整理を始める。

王家に伝わる秘法とやらでマリウス王子は7回目のやり直しをしているということだ。体感としては100年くらい生きてるんじゃないだろうか。ご苦労なことである。


「…今回も失敗したらやり直すのかしら…」


そうなれば、次は別の誰かの記憶の保持を選ぶだろう。そうなった時、何も知らず、一切の罪のない幸せなセシリアに戻るのだろうか。

それは現在の自分をごっそり奪われるような気がして、心の奥が冷えた。

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