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10◆マリウスからセシリアへの状況説明<1>

「マリウス殿下」

「なんだい、セシリア」

「…今の話、忘れてよろしいでしょうか?」

「もちろんそれは許しがたいな」


美しい貴公子の笑顔でマリウス王子が答えるが、聞かされたセシリアは食傷気味だ。

この近隣諸国から治安が良いと言われ観光も盛んなこの国が、何をどうしてそんな状況に陥るというのだ。

国民に向かって騎士団を?騎士団は王命により国民を守るためにいるんじゃないの?

自分が二度死んだ時点の状況を思い返してみても、とても信じられることではない。


「僕が君に嘘を言って得なことは何一つ無いのはわかるね。ということは、これは正真正銘真実だ」

「…で、一番最初に死んだという、登場人物の中で一番か弱い私の記憶をそのままにしてるのは何故でしょうか」

「僕は7回目と言ったよね。ということは、最初の生を含め過去6回失敗しているということだ。一回目の時逆ときさか、要は二回目の人生は僕だけが記憶を持ったまま時を戻ったが、状況を覆すことができなかった。さすがに協力者がいると思ったから、三回目の人生は父である王の記憶を保持したのだけど、これもやっぱり失敗した。今思えば当然だよね、黒幕はデリア公爵なんだから。父はきっと兄弟の中で唯一友好的なデリア公爵に相談したんだと思う」


よりにもよって諸悪の根源に相談したのならいいように誘導され、何の解決もないだろう。その存在に気が付いたのが前回だったのだから、これは仕方がない。


「アレス殿下のせいで国が傾くんだから、アレス殿下に覚えさせておけばいいのですわ」

「そうだね、四回目にそれをやったんだけど、それでもやっぱり失敗してしまった」

「…あの方、どうなってるんですか」


自分が原因で国が大変なことになるというのに何もできないとは。セシリアが遠慮なく眉間に皺を寄せて呆れたように言い放つのを、マリウス王子は微笑みで流す。


「そして五回目はまた僕だけ。で、六回目が君。どうにか君がアレスと正しく結ばれるようにと、君の記憶を保持してみた…んだけど、意外な結果が出た」


マリウス王子の言う意外な結果とはセシリアの悪役令嬢化だろう。確かに完璧な淑女と言われていたセシリアがとんだメタモルフォーゼであった。


「僕も裏で君のやったことを揉み消すのに一役買ったりしたんだけど、まあ当然君は知らないことだよね」

「まあ…道理で事が上手く運びましたわ」


頭に血が上っていたとはいえ、セシリアはやりながら「なんでこれで証拠が出ないんだ」と思ったことが結構ある。あれはマリウス王子が裏で動いてくれたからのようだ。


「君と接触を図りたかったが、体が弱い設定でいたので学園にも通ってなかったし、君は王子妃教育のために城へやって来ても全く隙を見せてはくれなかったしね。僕のことも眼中に入って無かっただろう」

「はい…正直に申しまして…」


心当たりがありすぎる。前回のセシリアは恨み辛みの権化となり、触るもの皆傷つける勢いだった。アレスの兄に呼ばれたからって「まあ!私がなぜそんな時間を取らなくてはなりませんの!」と一切相手にしなかったはずだ。当の本人は覚えていないが。


「マリウス殿下は私によくやったと言いますけど、私はメリーナにとどめを刺すまでに至っておりませんが」

「ははは、他の人の前では絶対そんなこと言っちゃ駄目だよ。聖女の力の干渉を受けずに攻撃を続け、メリーナを弱らせるに至った。これはすごいことだ」

「相手がモンスターなら誉め言葉になりましょうけど、一令嬢への仕打ちと考えると、褒められるのもちょっと違うような気がするのですが…」

「ああ、セシリアはその先を見ていないからね。…あれはモンスターだったよ」


マリウスは相変わらず笑っているが、その目は恐ろしく冷え冷えとしている。


「それで、マリウス殿下は私に前回やったような働きを求めておられるのでしょうか。申し訳ございませんが、あれは一時の爆発的な力と言いますか…あれをやるだけのエネルギーはないと言いますか…ダルいと言いますか…」


マリウスの事情は理解したとは言え、やはりこの状況の元凶はマリウスなわけで、なかなか敬う態度が戻ってこない。つい本音が口をついてしまう。


「ああ、今の彼女にあれをやったら君は本当に悪役になってしまうからやめてくれ」

「は?」

「言っただろ?黒幕はデリア公爵だと。前回、君にコテンパンにやられたメリーナは一時聖女の力を失うまで追い詰められた。ほら、君のギロチン刑。あれすごかっただろ?首が飛ぶ寸前まで笑ってるんだもん、あれは夢に出るよ。それを甲斐甲斐しく看病したのはアレスさ」


なるほど、やはりあれは効果があったのか。最後までメリーナに目を合わせておいてよかったとセシリアは思う。


「臥せった聖女のお見舞いにデリア公爵がやってきたんだ。そうしたらひと目見て彼女、デリア公爵と呼んだのさ。僕はあの女の何をも見逃すまいと観察していたからね。デリア公爵が目に入った時のメリーナの表情は喜びだった」

「?…それは、次のターゲットということですか」

「メリーナが知っている相手、ということだよ。デリア公爵はもちろん「聖女に覚えていただけるとは光栄なことだ」とか言ってたけどね。僕はね、聞いたり見たりしたもの以外に、自分の感覚を研ぎ澄ませて、それを信じることにしてる。メリーナのプライベートな場所にデリア公爵が来ることなんてなかったし、弱っているから感情のコントロールもできず素の反応になったんだと思う。あの笑顔の違和感を信じて調べたのさ。メリーナはデリア公爵が平民に産ませた子供だ。道理でメリーナから調べても情報が途切れるはずだよ。デリア公爵が消していたんだからね」


マリウスからそれを聞いて、セシリアは納得した。メリーナは美しすぎたのだ。平民のくせに美人だなんて、という話ではない。メリーナは片親だと聞いていたし、あれだけの美しさを持って、平民でありながら平穏に過ごせるだろうかと疑問だった。特段苦労して育った風でもないから、何かに守られながら生きて来たのだろうと思っていたが、それがデリア公爵だったとは。

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