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50年連れ添った夫は、あの世で別の女と転生しました。

スタッフより、神を御所望と伺いました。


初めまして、私アマリと申します。

正式にはアマリヒメノカミと言いまして、これでも神族の末席に名を連なっておりますの。


あ、いいです!いいです!

そんなかしこまらなくても。拝んでも何も出ませんので。

私、本当に大した神格も無くて、口の悪い方は無駄神なんて呼んだりもします。だからどうぞお気兼ねなく、アマリとお呼び下さい。

無駄神はちょっと……、抵抗が、ね?


その道のプロには敵わないのですが、器用貧乏というか、なまじなんでもできるもんで、神事・芸事のお手伝いから、縁結びの真似事、最近はこうした人間トラブルにも無理矢理呼ばれ……、失礼、お声をいただいて、まあ、手広くやらせて頂いております。

アマリと言いながら、割と多忙でして。そもそも高貴な神々は働かない方多すぎて。


ああ、喋りすぎたでしょうか。

ちゃんとした神様がいいですよね。がっかりさせたなら申し訳ないです。『余計なことペラペラ話すな』と睨むスタッフたちの視線が後ろから刺さって、背中が痛いです。

これでも視線や敵意には敏感でして、神だけに。


威厳を持って座ってればいいとスタッフには言われたのですが、どうもそう言うの苦手でして。

でもでも、神族で最も人間くさい自覚はございますので、人間トラブルには私はうってつけかもしれませんよ?

幸子さん、と、お呼びしていいですか?

往生されたばかりで戸惑うことも多いかと存じますが、なるべく納得いただいた上でこれからの事を考えていただきたいので、まずは私の話を聞いてくださいまし。


スタッフから一通り説明はしたと聞いておりますが、私からももう一度一からご説明しますね。


ここは待ち人が天寿を全うするのを待つ、死者の魂の停留所となります。

あちらこちらにあるベンチに座っている人たちは、結婚相手だったり、悪友であったり、最近はペットだったりもしますね。思い思いの待ち人の到着を、日がな一日腰を据えて待っていらっしゃいます。

本来魂に姿はありませんが、強く念じれば、どんな姿にも変化します。だいたいは、相手が気づく年齢の姿で居るみたいですね。若い姿でも妙に落ち着いているのは、そう言った理由です。


幸子さんは、3年前にお亡くなりになった旦那様をお探しですよね。佐藤寿郎さとうとしろう様、必ず待っているはずだと。

ですがスタッフが何度も申し上げている通り、寿郎様はすでに、別の女性の方と転生されてます。


ええ、もちろん存じあげております。旦那様とは結婚から50年連れ添われたんですね。

ちなみに資料によれば、結婚50年で、寿郎様は一度も浮気はされておらず、幸子様一筋だったようですね。

如何わしい店は……、ゴホン。若気の至りですよ。

それでも、大変真面目な方だったんですね。ここに来て裏切る行為が信じられない気持ちは、よく分かります。


寿郎さんと相手の女性の方は、何もここで出会った訳ではありません。

出会いは現世で、それも幸子さんと出会うずっと以前のようです。


寿郎さんがまだ中学生のころの、付き合うまでにも満たない、初恋の相手だそうです。

放課後の図書室で席を共にし、一言も発せずに、長テーブルの対角線上に座る。下校時のチャイムが鳴って、図書室から下駄箱までのたった数十メートルを、一言二言交わして、お別れを言う。それだけの関係だったそうです。

甘酸っぱいですねー、ゴホン、失礼。


時間が止まればいいのにと願いながら、わざと歩みを遅らせれば、彼女も応えるように、ときどき足を止める。

きっと想いは同じと思いつつ、万が一を恐れて、好きの一言を言えず、そのまま別の進路を歩みそれっきり。


誰しも初恋は特別なものではありますが、寿郎さんにとっては、後悔と自責の念も折り重なる、ひときは強い思い入れが彼女にはあったようです。


彼が魂になったとき、その姿は中学生の彼でした。とても危険なことなんですよ?

出会っていないころの姿では幸子さんは気づかないだろうし、初恋の相手が、同じように自分を選んでくれる保証はない。

実際、相手の女性だって、その後は幸せな家庭を築かれていましたから。


それでも2人は出会ったのです。

あの日、あの時の、あの姿のままで。


ハナミズキって曲知ってます?

私あの曲大好きで。平安京以来のマイブームでした。

『君と好きな人が、100年続きますように』って歌詞、心に残りますよね。


半分とは言え50年もの長い間、寿郎さんと幸子さんは確かに仲睦まじく歩まれました。

もういいじゃないですか。来世は来世で、良い出会いがありますよ。

なんなら、2流とは言え縁結びの神格を持って、私がとびきりの出会いをサービスしちゃいますよ。

さあ、消えた男なんてすっかり忘れて、次にいきましょうよ。


ご納得いただけましたか!

それがいいです。それがいいです!


では、死後、次のステップの案内に移りますね。

記憶を持って異世界転移・転生か、魂を浄化してまっさらで輪廻転生かどちらかになります。

異世界転移・転生って言うのはですね、いわゆるボーナスステージみたいなもので、ワンステップおいてから輪廻転生して貰うと言う粋な計らいです。

一昔前は天国って言う穏やかで平和なところでのんびり魂の休暇を楽しんで貰ってたんですが、どうも現代っ子には退屈みたいで不評でして。

だったらいっそのこと、好きな設定の異世界で、好きに過ごしてもらうってコンセプトで、どうです?きっと楽しいですよ。


え?

寿郎様と相手の女性ですか?

え〜とですね。記憶を残して、2人同じ異世界転移を希望されてますね。

剣と魔法の世界で、設定は伝説の勇者とアークプリーストだそうです。

世界の混沌を目論む魔王を倒すべく……、なんかもう好きにやってろって感じですね。

幸子さんはどうします?

剣と魔法の世界は今流行ってますよー。


え……?

寿郎と同じ世界に転移させろって?

しかも、ま、魔王になりたいんですか??


できるできないで言えば、できますが……。

あれ?もう固執しないのでは?

なんか腹立ったって、怒るポイントそこですか?


どうしよう。こんな筈ではなかったのですが。

勇者が元旦那で、魔王が元妻。そして勇者に連れ添う初恋の女って、はたからみればそりゃ面白いですが。


まあ、いいか。

せっかくのボーナスステージ、何に使うかは自由ですよね。

チート級の強さを持った魔王にしておきます。姿は今のままとして、年齢はいつの時にします?

中学(笑)、合わせてきましたね。先が楽しみです。断然私は魔王派ですよ。


それでは異世界転移、いってらっしゃいませ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 守秘義務をちゃんとしてればこんなことにならなかったのにねぇ……。 (ーωー)
[一言] 笑わせてもらいました。 冒険の道中でどんどん距離が縮まっていくであろうふたりと、怒りと嫉妬を募らせながらふたりを待つ元妻。 この構図を想像するだけで面白すぎますね(笑) アマリさんも忙殺の…
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