【REGULATION】《4話》「宇宙人」
俺が今持っているこの槍は、彼女の背丈を優に超える、長さにして一メートル八十センチと言った所だろうか。
材質は鉄、もしくは鋼のような見た目をしている。
もしも俺の推測が正しければ、この槍の総重量は五キロはくだらないだろう。
俺はその槍を手首で上下に動かし、再度重さを確認する。
やはりゼロと言っても大袈裟ではない程、重さを感じない。
まさか、さっきの宇宙人どもが知らぬ間に、怪力仕様にでも改造してくれたのか?
そんな馬鹿な…。
それとも…。
「──…っ」
「──ね!!!」
俺は彼女の声で我に帰った。
そうだった。俺はそんな事を考えている場合ではなかった。
しかし、それにしても彼女は、明らかに動揺しているようだ。
先程までのクールな立ち振る舞いは、あくまで演じていた様にも見える。
「ちょっと!無視しないでよね!貴方一体…何者!?」
──すまないお嬢さん。
それはマジで俺のセリフでやんす。
俺はそう言いかけ、すんでのところで飲み込み、最も生存確率の高そうなセリフを吐いてみる。
「君の敵ではない事は確かだ!」
彼女は眉を顰め、息を吸った。
「じゃあ何で私のトークンに気が付いたの!?何で私達を映像に残そうとしたの!?」
「そ、それは…」
「何で私の蹴りを食らっても平然としているの!?」
彼女の質問攻めに圧倒される。
「わ、分かった!分かった!兎に角一旦落ち着こう!」
俺はゆっくり立ち上がり、三回深呼吸をし、そのまま落ち着いて彼女の質問に答えた。
「俺は正直、今の状況全てがぶっ飛び過ぎて理解出来ていない。俺の方こそ聞きたい事だらけだけど、筋として俺から話すよ」
「……」
「俺は京京祐。二十五歳…」
彼女は少し目を見開いた。どうやら俺の年齢に驚いているらしい…。
俺の容姿は、歳相応だと思うのだが何故だ?
疑問を持ちながらも、俺は話を続ける。
「君が思っているより、なんと言うか…。ごく普通のサラリーマンだ」
「──だったら…!!」
彼女が口を開いた。しかし俺はその言葉を掻き消す様に、人差し指立て話を続けた。
「一つ目の質問に答えよう。何故、君とやけに仲良しのトークン?だっけ?恐らくそこに立って、俺の事を睨みつけている宇宙人達の事だとは思うが…」
俺は少し離れた所で一列に並び、こちらをじっと監視している宇宙人達を指差す。
「小さくなったそいつを俺が見つけたのは、本当に偶々だ。落ちている物を拾ってみたに過ぎない」
人差し指に次いで中指も立てる。
「二つ目。何故、去り際の君達を映像に残そうとしたのかだが…。正直俺も分からない。珍しい物を見たら反射的にカメラに収める…。ってところかな。現代病だなこりゃ…。削除しろと言われれば、すぐにでも消す」
最後に薬指も立てる。
「そして三つ目。何故君の蹴りを食らっても平然としているのかについてだが…。それも本当に分からない。君の蹴りを食らっても痛みを全く感じなかったんだ。しかもそれだけじゃない。この槍だってそう。重そうに見えるけど、全く重さを感じない…」
俺は小指一本の上に槍を乗せ、上下させて見せた。
彼女は驚いている様子だ。
「そこの宇宙人に何かされて、パワーアップしたのかも知れないし、この危機的状況に追い込まれたおかげで、俺の中にあった潜在能力的な何かが、覚醒したのかも知れない」
俺は冗談混じりに話して見せた。
「そうだ!今の俺ならこのアスファルトの床だって簡単に壊せるかも…!!」
俺は拳を握りしめ、アスファルトの床を殴りつけた。
『ゴンッ!』
「──痛ってぇぇ!!」
アスファルトの床は、その言葉の通りびくともしなかった。
そして拳に激痛が走る。つまり痛覚はある。
どうやら俺自身がパワーアップしている説は、皆無なようだ。
「痛ててててっ…。さぁ。次は君の番だ」
俺は手を払いなが、彼女に会話をパスした。
「──私はルティナ。ルティナ・サンタ・ビトニュクス…」
彼女は腕を組み、そっぽを向きながらも名を名乗り、そのまま話し始めた。
「ルティナ…?サンタ…?珍しい名前だな。ハーフか何かか?」
彼女は俺の質問を独り言に変え、話を続けた。
「まずそこにいる四体のトークン…。その子達は、この星では無い別の星から来ている。つまり貴方の言う宇宙人…と言うのはあながち間違いではないわ」
──やっぱりそうだ。
「でも…。間違ってる」
「?」
あながち間違いでは無いが、間違っている…。
何とも含んだ言い回しをするものだ。
「厳密には、この子達は宇宙〝人〟では無い。
人工知能、そしてあらゆる機能を搭載した、小型ヒューマノイド…。限りなく生命体に近く、生命体の様に振る舞う…アンドロイドよ」
「ひゅーま…?何とか?あー!俺は横文字苦手なんだよな…。要するにあれか。そいつらはロボットって事か」
「そ…」
「これは驚いたな。じゃあ、あれだ!俺達がこれまで宇宙人、宇宙人、騒いでいたやつは、みんなこのロボットだったって事か!」
彼女はそっと目を瞑った。
「これは大ニュースだな!メディアも騒ぎだ…
いや、でも待てよ…。じゃあ、一体誰が、何の目的でこいつらを作ったんだ?」
彼女は目を瞑ったままだ。
「このロボットは言語も喋る…。それにあのバリアみたいなやつ、おまけに空まで飛べるんだ…。こんな異次元のロボットを作れる人間が本当にいるのか?」
俺はハッとし、ようやく一番の謎に気がついた。
「そして何で…何で君がこのロボット達を連れ回しているんだ…?」
俺は声が震えた。
彼女はゆっくりと目を開き、俺の目を見た。
「貴方にとっての宇宙人は…私だからよ」




