【REGULATION】《28話》「旅立ちのクリスマス」
「要するにあれか…警察だ」
俺は指を鳴らした。
「──要しすぎだ!!今の説明でどう理解したらそうなんだよ!!」
「隊長…コイツらは本当に知的生命体なのでしょうか?」
男達がざわつく。
「〝エトワール〟って言うのが、ルティナさん達組織の総称で、中でも各隊の隊長格の事を通称〝エザグランマ〟と呼ぶ…。そしてルティナさん達は〝二等星〟…つまり、エトワールの二番隊的な位置に当る…って事で良いよね?」
「……」
御上が船内の男達を黙らせた。
「──そうね。正解よ、御上君」
「しゃっ」
御上は俺に向かって、ガッツポーズを見せた。
──ふーん…にしてもアイツが隊長とは…。てっきり下っ端か何かかと思ってた…。
「──本船マーカーを目視で確認」
小型船の最前席に座る、操縦士と思われる男が口を開く。
俺達の乗った小型飛行船は、街から少し離れた場所にある、横広の山上空を飛行していた。
──本船?どこにも見当たらないけど…。
俺は辺りを見渡した。
「──本船ステルス解除。帰還体勢に移行します」
「──!?」
操縦士の男の掛け声と同時に、何もなかったはずの山の斜面に、巨大な物体が浮かび上がった。
「──なんじゃこりゃ…」
その物体は、俺達の良く知っている〝UFO〟とはまた少し違った。大きさは直径二十メートル程の綺麗な球体をしており、その周りには球体を囲む輪が見えた。そう。例えるのであれば、その見た目は、まるで土星のようだった。
「──これが…本物の宇宙船…」
御上は小型船の中から、食い入る様に見ていた。
「本船、五十メートル圏内に入りました。オートパイロットに移行します」
操縦士の男がハンドルから手を離すと、操縦席のハンドルや沢山のボタンが、自動的に船の中に収納されていく。
「ふぅー…」
操縦士の男が深く息を吐く。
「お疲れ、シャム」
男達は操縦士の肩を叩いた。
俺達の乗った小型船は、徐々に減速しながら本船と呼ばれる大きな宇宙船へと向かっている。
「本船、帰還ゲートオープン。帰還シマス」
機内号令が機械ボイスへと切り替わった。
「──おっちゃん、あれ見て…」
御上が指差した本船に目をやると、大きな球体の側面に、風穴が空いていた。
「何だあの穴?」
「多分あそこから入るんだよ!ほら、どんどんデカくなる!」
球体の側面に空いた穴は、見る見るうちに大きくなり、御上の言う通り、俺達の乗る小型船は、その穴から本船の中へと入った。
「E-002S1、本船帰還シマシタ」
本船の中に入ると、俺達の乗る小型船はヘリポートの様な場所に着地し、停止した。
「──おかしいわね…」
ルティナは、手元の宙に浮かぶ画面を確認し、爪を噛んだ。
「どうかなさいましたか?」
「──エクリプスを尾行中、捕まったネム星人に、追跡用チップを仕込んでおいたのだけど…ほら」
ルティナはラグドールに、宙に浮かぶ画面を見せた。
「リプト星に向かっている…いや…」
ラグドールは何かに気が付いた様子で、ルティナを見た。
「──そう。奴らは既に船に乗り込み、リプト星に向かっている…にも関わらず、未だにレーダーに反応があるの」
「ステルスが張られていない…と言う事ですね」
ルティナは頷いた。
「慌てて飛び立ったが故のステルスの張り忘れ、または故障、もしくは…」
「──罠…でしょうか?」
「……」
ルティナは再び爪を噛んだ。
「──いいえ。今の私達にそんな事を考えて居る暇はないわ…。行くわよ」
「はっ!」
俺達は小型船から降りると、宙に浮かぶエレベーターの様な乗り物に乗り、上へと向かった。
エレベーターの様な乗り物で到着した先は、この宇宙船の、操縦室の様な場所だった。
本船と呼ばれるこの大きな宇宙船も先程まで乗っていた小型船と同様、半透明で三百六十度見渡せる仕様の様だ。
「隊長!」
「隊長!ご無事で」
俺達とは別に、同乗していた十人程が駆け寄ってきた。
「ん?この二人は…?」
俺と御上を見た乗組員達が、戸惑っている様子だ。
「ビトニュクス隊長…後は私が…。隊長はその…着替えでも済ませて来てはいかがでしょうか?」
「なに?せっかく気に入ってるのに着替えろって言うの?」
ルティナは、サンタのコスプレを見せつけた。
「隊長…」
「──わーかったわ。着替えてくる」
ルティナはラグドールの背中をトンっと叩き、別の部屋へと向かった。
「──総員!」
ラグドールが声を張ると、集まってきた乗組員達は、背筋を伸ばした。
「緊急任務、ビトニュクス隊長の救出は無事遂行した。これより我ら、リプト星エトワール本部へと帰還する!総員、配置につけ!」
「はっ!」
ラグドールの号令により乗組員達は、機敏な動きで各々の配置へと散らばり、宙に浮かぶ画面を操作し始めた。
「──#&☆&+€$€¥|」
「──%=\〆:+○☆→$¥€€」
船内に慌ただしく専門用語が飛び交う。
「──目的地設定完了。オートパイロット移行準備」
「──本船全て異常なし。副長!いつでも行けます!」
ラグドールは頷き、俺と御上を見た。
「最後にもう一度問おう。君達…本当にいいんだな?」
──【地球出発まであと零日】──
「──目的地、エトワール本部。E-002離陸シマス」
機械ボイスの号令と共に、大きな宇宙船がフワフワと浮かび始める。
しかし、不思議と揺れや振動は無かった。
「──おっちゃん…。俺達、今から地球を出るんだよな?」
「──そう…だな…」
御上は真っ直ぐ外を見ていた。
「──俺達、地球じゃない他の星に行くんだよな?」
「──うん」
「──俺の父さんの為におっちゃんまで巻き込んじまったな…」
「──それは俺のセリフな」
「──そっか…そうだよな…。確かにおっちゃんに会わなかったら、こうはなってなかったかも…」
御上は天を仰いだ。
「──すまねぇ…」
「──そしたらさ…、俺はおっちゃんの事は勿論、ルティナさん達の事も、エクリプスの事も、そして父さんの事も、なーんにも知らずに、普通に生きていたのかも…」
「──御上!今ならまだ間に合う!やっぱりお前は降り…」
「でも!…後悔はしてないぜ」
「……」
「──後悔はしてないんだ…。どうせ毎日退屈だったし」
「御上…」
「俺さ…、おっちゃん達にはどう見えてる分かんないけどさ、友達…とかいないんだよね…一人も」
「お前が…?」
「──うん。あ、勿論ずっと一人だったって訳じゃないよ。昔から周りの奴らと遊んだり、話したりもしてた。でも、すぐに気が付いちゃうんだよね。結局みんな見ているのは俺じゃない…。みんなが見てるのは、俺の後ろにあるお金なんだって…」
「そんな事分かんな…」
「分かるよ…。嫌でも…」
御上は、俺の安っぽいフォローを笑い飛ばした。
「……」
「この髪色のせいで気味悪がられて、虐められそうになった時もあった。そん時俺はどうしたと思う?」
「……」
言葉に詰まる。
「お金で友達を囲ったんだ…。そりゃもう大盤振る舞い…」
「……」
「──でもさ、おっちゃんとルティナさんと一緒にいた時だけは、心底楽しめたって言うか…。なんだろ!変だよな、急にこんな話して!死亡フラグでも立ててんのかって…」
「変なんかじゃねぇよ…」
必死に絞り出した言葉は、何の理由を添える訳でもなく、ただ否定する言葉だった。
「──おっちゃんとルティナさんに会って、ここ数日めちゃくちゃ楽しかったんだ。マジで…」
「……」
「だから…後悔はしていない…」
「──お前は、怖くないのか?」
俺はこの場で何を話、何を語りかけべきなのか完全に分からなくなっていた。
「──怖ぇよ」
御上は、引き攣った笑顔を作る。
「でも、父さんはほっとけない…。父さんとはさ、ほとんど会話もしねぇし、元はと言えば金持ちの父さんのせいで、俺はこんな肩身の狭い思いをしなくちゃいけないんだ!…って、理不尽な言いがかりをつけて、あんな奴どうでも良いって思ってた…。だけどいざこんな状況に立たされると、やっぱなんかすっげー心配になるんだな…」
「そりゃそうだよ…」
「──でも、なんか不思議な感じ…。こんな経験一生出来ないって、小さい頃夢だった宇宙に行けるって、すっげーワクワクしてる自分も居るんだよな…」
二千二十二年、十二月二十五日
十四時三十三分
京京祐、御上眞太朗、地球人計二名
──【地球、出発】──