【REGULATION】《27話》「étoile」
ホテルのレストランで、ルティナと逸れてから、間もなく一時間が経過する。
俺と御上は、ひとまず荒れ果てた俺の家で待機し、常備してあるカップラーメンを食べて居た。
「おっちゃん…これって…」
御上はテレビを指差した。
【──繰り返します。先程午後一時頃、市内上空でUFOを見たと言う報告が相次ぎました。『すぐに消えちゃったけどあれは間違いなくユーホーだったよ!』『いやーびっくりしましたね。ここら辺の通行人はみんな見上げてたから、かなりの数目撃してるんじゃないかな?』『光る円盤みたいなのと、ロケットみたいなのが並ぶように飛んでたんだ!』『私動画撮りました!これです!』以上緊急速報でした。】
「──おいおい…ニュースなっちまってんじゃん…」
「ルティナさんかな?」
「いや、アイツは宇宙船を持ってない筈だ。考えられるのは…」
「逃げられた…?」
御上の表情が曇る。
「…か、アイツも一緒追っていったか…」
「……」
「でもだとしたら、正面から敵船に一人で乗り込む形になるから…それは考え難いか。まーその内帰って来るだろ」
俺は御上に、精一杯笑い掛けた。
「──心配だ…ルティナさんも…父さんも…」
御上は下を向いた。
『ピンポーン…』
突然インターホンが響いた。
「ほら、噂をすれば何とやらだ」
俺は箸をカップラーメンの上に置き、玄関へと向かった。
「遅かったな、どうだっ…た?…ってあれ?」
玄関の扉を開けたると、そこには誰も居なかった。
「おい、御上ー。今インターホン鳴ったよな?見てみろよ、誰もいねぇ…」
俺は振り返り、御上に尋ねる。
すると御上は、目を見開いた。
「──おっちゃん!!後ろ!!」
「──え?」
御上は取り乱した様子で、俺の後ろを指差した。
「──!?」
振り返ると、そこには全身黒い服装をした、五人の男達が立って居た。
「──なんだ!お前らは!!」
俺は咄嗟に、玄関にあったゴルフクラブを手に取った。
「……」
男達は少しだけ目を見開き、眉間に皺を寄せたものの、言葉を発する事はなく、俺の様子を伺っていた。
「──御上、退がれ…。コイツらが何者かは知らねぇが、男はな、顔見りゃ大体そいつがどんな奴か分かんだよ…。間違いねぇ。コイツらは、敵だ…」
「…仲間よ」
背後から俺の言葉に被せてきた、聞き覚えのある女性の声がした。
「ビトニュクス隊長!!」
これまで、無言の一点張りだった目の前の男達が、一斉に口を開いた。
「──ルティナ…さん?」
そう。声の正体は、割れた窓ガラスから部屋へと上がり込んで来た、ルティナだった。
「ごめんなさい、御上君…。結論から言うと、見ての通り逃げられてしまったわ…」
ルティナは御上の隣でかがみ、座って居た御上に目線を合わせた。
「……」
「でも大丈夫。必ず助ける…」
御上にそう言い残したルティナは、立ち上がり、こちらを見た。
「──遅かったわね…」
「…じゃないですよ!!」
玄関先の一人の男達が声を張った。
「隊長はいつもこれだから…。遮二無二行動するのはやめて下さい。私達がどれだけ苦労してここまでたどり着いた事か…」
「ラグドール…」
──え?…え?隊長?…え?どう言う事!?どう言う状況!?
俺は玄関先の男達と、部屋の中にいるルティナとを、まるで鶏の様に、交互に見ていた。
「──ん?なんですか?この見るからに知能が低そうな生き物は…」
一人の男が、俺を指差した。
「…え、は?俺!?俺の事言ってんのか!?」
「それに驚いた…。我々と同じ言語を口にしている…」
「流石ビトニュクス隊長…。この短期間で、この星の住民に〝言葉〟を教え込むなんて!」
別の男が口を開く。
「──いいえ。私は何も教えていない…。知ってるでしょ、私が人に教えるのは苦手な事くらい…」
男達はうんうんと頷いた。
ルティナはそんな男達を目で威嚇した。
「……」
「──彼らは元々この言語を使っていたの…」
「──元々!?そんな…」
「兎に角…今はそれどころじゃないわ。詳しい話は船に乗ってからにしましょう」
「はっ!」
男達は背筋を伸ばした。
「ほら…何してるの。貴方達も行くわよ」
「──は?」
──
──
「事情は分かりました。しかし、ビトニュクス隊長。釈迦に説法かも知れませんが、彼らをリプト星に連れて帰るのは、格下惑星であるが故、重大な法律違反ではないでしょうか?」
ラグドールはルティナに問いかけた。
「──いいえ。銀河法、ニ万千九百九十三条【知的生命体移送禁止法】は、あくまで対象の知的生命体を、同意無しに移動させた場合のみ適応されるものよ。今回は違うわ」
「銀河法は良くても我々の法律が…」
「それをこの場に出すのであれば、彼らと接触している時点で、ここにいる全員が、完全にアウトでしょ」
「そ、それは…」
「今回は特例…。何かあれば、全責任は私が取る」
俺と御上、そしてルティナとその仲間達?は、楕円型の小型飛行船に乗り、本船に向かっていた。この小型船は、前方に操縦席、その後ろには対面式になった電車の様な席があり、船内は半透明で三百六十度、上も下も外の景色を見る事が出来た。
「おっちゃん、これヤバくね?」
御上は上空から街を見下ろし、興奮していた。
──良かった。少しは元気になったみたいだな。
「高所恐怖症の奴には、たまんねぇだろうけどな」
「隊長!もう間も無く本船に到着致します!」
「分かった…」
「ところでさ、そっちばっかり喋ってないで、そろそろ教えてくれても良いんじゃねぇか?コイツらは一体何者なんだ?仲間…って事で良いんだよな?」
「テメェ!隊長に向かってなんだ、その口の聞き方は!!」
俺の態度が気に食わなかったのか、一人の男が食ってかかってきた。
「──ベンガル!いいの…。この数日を無事に過ごせたのは、彼のおかげよ…」
それを見たルティナは、男の前に手を上げた。
「しかし!…」
「それに…彼には一度命を救われてる」
「……」
ベンガルと呼ばれる男は、肩を落とした。
「私達はリプト星、特殊警察部隊〝エトワール〟…。貴方達を巻き込んでしまった以上、迷惑を掛けないよう、最後まできっちり片付けさせてもらうわ」
──もう十分、迷惑掛けられてんだけどな…。
俺はここ数日起きた、彼女から受けた数々の迷惑行為を思い出していた。
「そして!!この方こそ、特殊警察部隊エトワール、エザグランマの一人…。二等星部隊、ルティナ・サンタ・ビトニュクス隊長だ!!よーく覚えとけ!」
「えとわーる…、えざぐらんま…にとうせい…って!横文字ばっかで分かんねぇよ!!」
「──おっちゃん…」
御上は、そんな俺を憐れむような目で見た。