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REGULATION(レギュレーション)  作者: 凸凹天神
16/30

【REGULATION】《16話》「糸引く方へ…」

従業員出入り口を出ると、いつものようにパチンコ店と自宅のある、右方向へと曲がる。

そこから五十メートル程歩けば大きな交差点に差し掛かり、その横断歩道を渡れば、お目当てのパチンコ店はすぐそこにある…。


…はずだった。


「……」

──あれ?

ふと顔を上げると、俺の目の前に広がるあまり見慣れない光景。

居酒屋が転々と立ち並び、その先には駐車場の無い小さなコンビニが見えている。

なるほど…。どうやら俺は、ホテルを出ていつもの右ではなく、反対の左に歩き出していた様だ。

そうだった…。俺はパチンコなんかに、時間を浪費している場合では無かった。

無意識とは言え、何かに引っ張られるように俺が向かった先は、そう。ネットカフェ〝GOKURAKU〟だった。


時刻は十九時五十分。

明日も仕事なのだから、今日はあまり遅くなる訳にはいかない。

俺は競歩とまではいかない、早歩きでネットカフェに向かっていた。

──よし。看板が見えて来た。

やはりここまで徒歩十五分と言った所だろうか。

こう言った中途半端な距離を移動する際は、自転車を持っていれば良かったと思う事もある。

俺はネットカフェ〝GOKURAKU〟の前に到着した。

地下へと続く細い階段を降りようと、一歩踏み出した、その時…。

「おらぁ、こっちに来い」

「痛ってなー、触んじゃねー!!」

数メートル先で、乱暴な荒げた声がした。

俺は声の方向へ振り向くと、そこには体格の良い三人の男と一人の男子学生。そして金髪の女性が一人、後ろを着いて行きながら、路地裏へと入って行く姿が見えた。

ここから見るに、一人の男子学生が三人の男に絡まれているように見える。

──可哀想に…。

彼には悪いが、俺には関係の無い事だ。

君子危うきに近寄らず…。

面倒事は嫌いだ。

俺は見て見ぬふりをして、階段を降り始める。


…はずだった。


──あれ?

気がつくと俺は、彼らの後を追って路地裏へと向かっていた。

今日の俺はどうかしている。

「おらぁっっ!!」

『ボコッ!』

『バキッ!』

『ドゴッ!』

「ぐっ…」

路地裏に入ると、既に事は始まっていた。

──やれやれ…。神様、ちゃんと見てるか?

俺は今から、リンチされてる哀れな学生を助けてやるんだ。良い事の一つやニつ、くれても良いんじゃねぇか?

…ふっ。我ながら呆れる程、下心満載だな。

偽善者もいい所だ。

三人の男の内一人が、地面に倒れ込む男子学生の胸ぐらを掴み、持ち上げた。

「テメェ…。大人を揶揄うのも良い加減にしろよ?」

「そーだよ。全く、そいつの言う通りだ」

俺は、ワイシャツの袖ボタンを外し、腕を捲る。

「──!?」

突然背後から聞こえた俺の声に、三人の男と男子学生、そして下を向いてスマートフォンを扱って居た女性も、一斉に振り返った。

「誰だ、テメェは!!」

「よぉ、調子良さそうじゃねぇか。御上…」

「おっちゃん…!?」

そう。さっきの男子学生は、見覚えのある白髪だった事から、大凡見当は付いていた。

「おい、テメェも知り合いか?」

三人の男の内一人が、こちらへ向かって来た。

──にしてもコイツら揃いも揃って不細工だな…。

「知り合いって言うか…被害者だな」

「何だテメェ…。何者だ?まさか同業か?コイツは俺達の獲物だ。引っ込んでろ」

「同業だ?何の事だか知らねぇが、子供相手に寄って集って、リンチする様なお前らと一緒にすんじゃねぇよ」

「一般人か、だったら失せやがれぇ!!」

男は罵声と共に、俺の顔面目掛け右の拳で殴りかかって来た。

俺は軽く膝を曲げ、体勢を下げ男の拳を避けた。

「──!?」

そのまま驚き、目を見開いている男の顎を目掛け、俺は体勢を起こすと同時に、強烈なアッパーを食らわせた。

「っっっっっつつ!!」

男の口から出た血が、辺りに飛び散る。

『──ドサッ』

男はそのまま、地面に仰向けで横たわり、白眼を向いていた。

「おーってぇー…やっぱ素手で人なんて殴るもんじゃねぇな」

俺は右手を振って見せた。

「テメェ…!!」

それを見た手前の男は走ってこちらへ、そして奥の男は御上の胸ぐらを離し、ゆっくりと歩いて向かって来た。

「覚悟しやが…」

手前の男が殴り掛かって来た。

『ドスッッ!』

俺は、その男の溝打ち付近を目掛け左足で蹴り込んだ。

「がはっ…」

そのまま体勢が下がった男の頭を掴み、顔面へ膝蹴りをお見舞いする。

『バタッ』

男はうつ伏せに倒れ込む。

「ほい、あと1人っと」

最後の男は額から汗を垂らし、慄きながら、震えた声で話し始めた。

「おい、兄ちゃん…。こんな真似してタダで済むと思うなよ?俺達は黒龍会の…」

『バシッン!!』

俺はそんな、最後の1人の不細工な顔面に、後ろ回し蹴りをクリーンヒットさせた。

『バタッ』

「…こくりゅうかいだぁ?知るか、んなもん。不細工会がなんかの間違えだろ」

学生時代以来だろうか。しばらく身体を使っていなかったが、割と動けた様だ。

「ひっ…」

後をついて来ていた女性が、離れた所で怯えていた。

「お姉さん…コイツらとどう言う関係かは知らないけど、付き合う相手は選んだ方が良いですよ」

『カツ、カツ、カツッ…』

女性はハイヒールの足音だけを残し、無言で走り去って行った。

「さてと…、大丈夫か?御上…」

御上は地面に倒れ込んだまま、空いた口が塞がらないと言った様子で、唖然としていた。

「お前の事だ、まーた大人を揶揄ってたんだろうけど、どうだ?これで少しは懲りただろ?」

俺はそんな御上の前にしゃがみ込んだ。

「ち、ちげーよ…」

我に返った御上は、口を開いた。

「じゃ、なんであんなイカつい奴らに絡まれてんだよ」

「それは…」

「あ、分かった!さっきのギャル…。さては美人局ツツモタセだろ?」

「ちげーって!ただ…」

「ただ…?」

「──ハンカチを拾っただけなんだよ!」

「…は?」

「だーかーら!さっきの女の人が、俺の目の前でハンカチ落としたんだ!だから拾って渡しただけなんだって!そしたらあのおっさん達が急に出てきて、俺の女に何してんだ的な事言い出したんだよ!」

御上は口元に着いた血を手の甲で拭った。

「ぷっ、それを美人局って言うんだよ。手口がいかにも頭悪過ぎるのと、ターゲットが子供のお前ってのが、くそ笑えるけどな」

「子供、子供言うな。俺は大人だ!」

「へー、じゃあお前いくつだよ」

「十七歳…。」

「ふんっ、どの口が言ってんだよ。弁解の余地無く子供じゃねぇか」

「うるせっ」

体が痛むのだろうか。御上は眉間に皺を寄せ、ゆっくりと立ち上がった。

──あ、そういやコイツは訳ありって感じだったよな。コイツには悪いが、少し探りを入れてみるか…。

「そう言えばお前、今から学校じゃねぇのか?」

「今日は行かねぇ。疲れた」

「良いのか?サボってっと親に怒られんぞ」

俺はわざとらしく揶揄って見せた。

「親は…俺なんかに興味ねぇよ」

御上は背を向けていた為、表情までは確認出来なかったが、その背中はやけに寂しかった。

「……」

「──じゃ、俺は帰る」

御上は黒い傘を引きずりながら歩き始めた。

「御上。お前さ学校行かねぇなら何すんだよ」

「だから、帰るんだって」

御上は歩みを止める事無く、背を向けたまま答えた。

「暇ならさ、家に来ないか?」

御上は足を止め振り返った。

「はぁ?何で…」

「いやーこうして会ったのも、何かの縁かも知れなねぇし?俺もちょうど暇だったんだ」

「……」

「あ、そう言えばお前の好きなこないだのお姉さんもいるぜ?」

「は!マジで!?あ…いや、だから何だよ…」

「ぷっ…分かりやす過ぎな。そんじゃ行こうぜ…」

「あ、あのさ…」

「──ん?」

御上は下を向いて居た。

「…は…りが…と…」

「は?何だって?」

御上は小さな声で、ボソボソと何かを言っている。

「あーも!何回も言わせんなよ!」

御上は深呼吸をした。

「今日は…ありがとうございました…」

御上の素直な言葉に、自然と笑みが溢れた。

「気にすんな。この借りはまた別の機会にでも、きっちり返してもらうからな」

「何だよ!べ、別に助けてなんて言ってねぇし、俺一人でも十分だったんだよ!!」

「ははっ。冗談だって。行こうぜ」


十二月二十三日。

こうして御上は、初めて狭い我が家へと来る事となった。

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