【REGULATION】《13話》「歳上」
「はいよっ」
俺はアロエヨーグルトの蓋を外し、彼女にもう1つ渡した。
「ありがとう!…んー。美味しい!それで?聞きたい事って何かしら?」
「あぁ。何って言うか…。あり過ぎてどっから聞けばいいの分かんないんだけど…。んー、あ、ちょっと待ってな。せっかくだからノート、ノートっ」
俺はテレビ台の下にある引き出しから、ノートとボールペンを取り出した。
「おーし。準備完了。出勤時間まではまだ時間ある…。それではルティナ君…。色々聞かせてもらおうか。可能な限りで良いから答えてくれたまえ」
「え…。何よ、急に…」
俺は、彼女に思いつく限りの質問を投げかけた。
「君達の住む星はどんな所なんだ?やっぱり〝地球〟と似てるのか?」
「ちきゅう?」
「あ、そっか、ごめん。〝地球〟は俺達が住むこの星の名前だよ」
「へー。地球って言うのね」
彼女はアロエヨーグルトを頬張った。
「私達はこの星を〝WEL-No.585-B〟通称、惑星ネムと呼んでいるわ。そして私達が住む星は〝リプト星〟って言うの。確かに貴方の言う通り、この星に似ているわ。ただ…」
「ただ…?」
「──いいえ。何でもないわ。細かい所を話せばキリがない」
「何だよ。勿体ぶるなよー。すっげー興味あるんだ。頼む!教えてくれ!」
「……」
「ん?」
彼女は窓の外を見ていた。
「貴方は…、そこら辺を飛んでいる鳩に、自分の文明を説明出来る?」
「…鳩に?んー、そりゃ説明する事くらいは出来るかもだけど、理解させるのは無理かな。だって言葉も通じないし」
「──そう言う事よ」
「なっ!?俺を鳩だって?馬鹿にすんなよなっ」
「ごめんなさい。今のは例えが悪かったわね。でも、要はそう言う事。恐らく今の貴方に、いくら私達の文明と、貴方達の文明の差異について話した所で理解出来ない」
「そんな事聞いてみないと分かんないだろ…。鳩とは違って、少なくとも言葉は通じてんだからさ」
「例え言葉が通じ、私から話を聞いたとしても、その膨大な情報の前にひれ伏す事になるわ」
「おぉ…。やけに強気な物言いだな…」
「おかわり」
彼女は空のカップを差し出した。
「またかよ!!」
俺は冷蔵庫から、再、再度アロエヨーグルトを取り出し、蓋を外して彼女に渡した。
「ほら。これで最後だからな!もうねぇぞ」
「えー」
「ねぇもんは、ねぇの」
「はーい」
彼女はアロエヨーグルトを頬張る。
「よし。じゃあ次の質問だ。君達リプト星?の人達はいつからこの星に出入りする様になったんだ?」
「驚いたわ。この星の貴方達は、本当に何も知らされて居ないのね。いいわ。教えてあげる。私達がこの星を発見したのは、今から二十ニ年前…」
「二十二年前…」
「科学者により、突如として発見されたこの星はWEL-No.585-B通称、惑星ネムと名付けられた。この星は恒星から絶妙な距離であり、気体でも個体でも無く、液体が存在する事、さらに惑星ネムの周りには、人工物と見られる衛星が多数発見されたことから、知的生命体の存在が期待され、一大ニュースになったわ」
「恒星ってあれだろ?太陽の事だろ?ネカフェで少し勉強した甲斐があったぜ。あ、って言っても伝わらないのか…。今窓の外を明るくしてるやつのことを俺達は太陽って呼んでんだ」
「太陽…?」
「ま、それは置いといて、知的生命体が期待されてニュースにもなったんだ。へー…そして、それが俺らって事か。なんかこうして聞くと照れるって言うか…いや、俺が照れる必要は全く無いんだが…なんか面白いな」
「そうね。私も未確認生命体と話すは初めてだから、退屈しないわ」
「未確認生命体って…何か嫌だな…」
「……」
「ごめん。何でもないです。どうぞ、続けて下さい」
「それから二十年…。不自然なまでに化学者達の間から発見や報告は一切な無く、世間は政府が何か隠して居るのでは無いかと疑心を抱くようになった」
──政府が裏で…。って、やっぱりどこも考える事は一緒だな。
「そして昨年二千二十一年。ついに化学者らが、惑星ネムの知的生命体との接触に成功したと政府が発表。それと同時に民衆は落胆した…」
「へ?なんで?そこは新発見だ!ってみんなで喜ぶ所じゃないの?」
「いいえ。重要なのはそこじゃ無いわ。私達はこれまでにも、リプト星外生命体は多数発見している。しかし、私達が求めているのは〝知的生命体〟の発見、及び〝エネルギー〟の収集なの」
「へー。え?じゃあ、俺らの星にはそれが無かったって事?」
「そう。…だと公表されていた」
「──!?」
「政府の発表では、惑星ネムにはレベルIIの知的生命体を発見したものの、エネルギー源は既に使い尽くされ、見込みが無いと公表。さらにネムの知的生命体は、我々に敵意を向け、古典兵器を用いて攻撃して来た事から、政府はネムに許可無く近づく事を禁止した」
「俺たち地球人が攻撃した!?君達を…?」
彼女は首を横に振った。
「いいえ。それは恐らく、デマ。私達民衆を欺く為、政府がでっち上げたのよ。だから私も驚いたわ。この星に降りたって見れば、警戒している素振りはおろか、私達に攻撃出来るだけの文明すら発展していないもの。これじゃレベルIにも満たないわ」
「そ、そうなんだ…」
「あの組織はこんな星に出入りして、一体何が目的なのかしら…」
「それはー…俺には微塵も分かんないけど、それにしてもさ、二十年以上前の話だろ?やけに詳しいよな。見た感じ君が産まれたくらいの年なんじゃないの?」
「──なに?私は今年で百二十歳よ?」
「あー…あははは…。そうなんだ…。すいませんでした」
驚くべき所である事は間違いない。
が、どうやら俺にも耐性が付いてきたようだ。
彼女の見た目は二十代前半。
しかし実年齢は、それを五倍程上回っていた。
そう。彼女は俺より遥かに年上だったのであった。