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REGULATION(レギュレーション)  作者: 凸凹天神
12/30

【REGULATION】《12話》「珈琲」

『ガチャ』

扉を開けると、そこには見慣れた真っ暗な空間が広がる。

外廊下から、わずかに差し込む光を頼りにスイッチを押し、電気を付けた。

「ただいま…」

毎日のルーティンである、独身特有の独り言を吐き、俺は…いや、俺達は帰宅した。

「すー、すー」

彼女は、俺の背中で寝ている。

俺は彼女を起こさないよう、ゆっくりとベットに下ろし、布団をかけた。

彼女は起きる事なく、ぐっすりと眠っている様だ。

「さて…」

俺は冷蔵庫を開け中身を確認する。

「結局、水も買ってきてないし、食べ物何も無かったよなー。買い物行くか」


──三十分後。

『ガチャ』

「よいしょっと」

俺は近くのスーパーで買い物を済ませ、大きな袋を両手に帰宅した。

部屋の中はまだ暗い。彼女はまだ寝ているのだろう。

俺は、小さく細い廊下に買い物袋を置き、彼女が寝ている部屋の扉を閉めた。

──迎え酒するか…。

んーいや、明日は仕事だし今日は大人しく飯食って寝よう。

スーパーで買ってきた、ビールに水、冷凍食品やその他もろもろを冷蔵庫にしまい、大量に買って来たカップラーメンやつまみを棚に並べた。

そう。俺は自炊がめっぽう苦手だ。

と言うか正確には〝苦手〟では無く〝全く出来ない〟。

これは食わず嫌いならぬ、やらず嫌いでは無く、本当に出来ないのだ。

何度か挑戦した事はあったものの、やはり料理とやらの工程すら理解出来ない。

仮に自分で料理を作ったとしても、とてもじゃ無いが〝食べ物〟とは呼べない〝異物〟が出来上がってしまう。

自分で作っておきながら、食べずに捨てる。

食材に失礼だ。

だから俺は、一人暮らしを始めてから自炊は一度もした事が無いし、試みた事も無い。

調理器具?包丁、まな板?

そんな物、この家にある訳が無い。

あるのはお皿が数枚とコップ、お箸、あとはカップラーメン用のポットだけだ。

俺は、寒い廊下で手早くカップラーメンを作り、手早く平げ、音を立てない様ゆっくりと部屋に戻った。

「すー、すー」

相変わらず彼女はぐっすり寝ている。

俺は毛布に包まり、この日はソファで眠りについた。


──

──

──


「──ね。…ね!ねーてば!!」

「ん…」

俺は、鉛のように重たい瞼を少しだけ開いた。

「こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ!」

カーテンの隙間から、僅かに月明かりが差し込む。そこには女性の姿があった。

──あぁ。彼女か。

「…あのな、俺だって好きでこんな所で寝てたんじゃないんだよ。君が…」

「私が…!」

「──!?」

「私がベットで寝てたせいでしょ!?」

彼女が、食い気味に言葉を被せてきた。

「そ、そう…」

「本当…ごめんなさい!」

──驚いた。天真爛漫、破天荒、利己主義。そんなイメージだった彼女の口から、まさか素直に謝罪の言葉が出るなんて…。

「お、おう…」

「…どうぞ。ベットを使って下さい」

彼女は、申し訳なさそうに部屋の隅へと下がった。

「あり…がとう…」

俺はベットに入り、彼女に背を向け横になる。

「……」

「……」

「──気になるな!」

「あ、ごめんなさい!」

「ずっとそこに立ってるつもりかよ。別に怒っちゃいねぇし、君も起きたんだったらまた調査?とやらにでも行ってこいよ」

「そう…。だけど…もう朝みたいだし、目立ってしまうのはあまり良くないかなって思って…」

──朝?

俺は時計を確認する。

時計の針は七時を少し回った所だった。

「あぁー。もう、なんか目覚めちまった」

俺は勢いよく布団を剥ぎ、ベットの横にあったボタンで部屋の電気を付けた。

『ピッ』

「……」

「──で?昨日の事は覚えてんの?」

「ひっ…」

彼女は自身の体を抱き寄せた。

「嘘…。もしかして私…貴方と…」

「…してねぇよ。本当に何も覚えて無いんだな。ったく、どんだけ呑んだんだよ」

「違うの!お酒何て呑んでないの!ただ…昨日ここで目を覚まして、貴方に貰った黒い飲み物を飲んだ所から思い出せないの…。はっ!まさか貴方…!そんな卑劣な方法で私を…」

「だからしてねぇって!」

「……」

彼女は目を細め、俺を見ている。

「なんだよ。俺がそんなゲス野郎に見えるのかよ?」

「見える…」

「何だと!!」

「…あははっ」

彼女は笑い今始めた。

「今のは冗談。よく覚えて無いけど、昨日はありがとう」

不意に彼女は、俺に対し微笑みかけた。

「お、おう…」

──何だよ。その急な笑顔…。反則だろ。

「ん?ちょっと待てよ…。そう言えばさっき黒い飲み物って言ったよな?もしかして、コーヒーの事知らないのか?」

「こーひぃー?」

彼女は首を傾げた。

「やっぱり…」

俺は部屋の扉を開け、台所に置いてあるインスタントコーヒーの入った瓶を手に取り、彼女に振って見せた。

「これ。コーヒーって言うんだけど、見た事ない?」

彼女は、俺の持ってきたインスタントコーヒーを瞬きもせず、穴が開くほど見た後、ようやく口を開いた。

「知らないわ…」

「へー。なるほどな。って事は、君の星にはコーヒーは無いんだな。んでもって、君は恐らくこのコーヒーに弱いみたいだな」

俺は、彼女の前にあるテーブルの上に、インスタントコーヒーの入った瓶を置いた。

「確かに変な匂いがするなーとは思っていたのよね。それにすっごく苦かったし」

彼女は舌を出した。

「別に無理して飲まなくても良かったのに…。と言うか、君にコーヒーを出した時、飲まずに寝てたからてっきり嫌いなのかと思ってた」

「私は、熱いのは苦手なの」

「ふっ。なるほどな。猫舌なんだ」

──見た目通りだな。

「あ、そう言えば何か食べるか?昨日、君が寝てる間に色々買って来たんだ」

「なになに!」

彼女は台所に飛んで来た。

「腹減ってたんだな…。ってもカップラーメンとかしか無いけど…どうかな?これとか?」

俺は彼女に、醤油ラーメンを見せた。

「何それ。見た事ない食べ物だわ」

その他のカップラーメンも見せてみた。

「これとか、これとか、これとか?好きなの選んでいいよ」

「んー…」

彼女はあまりぱっとしない様子だった。

「あ、じゃあこれとかどうだ?」

俺は、冷蔵庫からアロエヨーグルトを出した。

「うゎー!何それ!これが良い!!」

「良かった…良いの見つかって」

俺は、プラスチックのスプーンとアロエヨーグルトを彼女に渡した。

「これって…ここから開けるのよね?」

「そそ」

「んー…。んー…。やっぱりダメだわ」

「あ、そっか、そっか。確か君はこの星に来て、力が無くなってたんだったよな。にしてもこれすら開けれないんだな」

「うるさいなー」

俺は、彼女の手からアロエヨーグルトを取り、蓋を開けて渡した。

「──ほい」

「ありがとう!」

「向こうのテーブルで食べな。俺もコーヒー入れたらそっち行くから。君には色々と聞きたい事があるん…」

「美味しいぃぃぃい!!」

彼女は急に大声を出した。

「びっくりしたー。もう食べてたのかよ。まーお口にあって良かった」

「何この白い食べ物!!甘くて、柔らかくて、冷たくて!!もう最高!!」

「はははは…」

俺はお湯を沸かし、彼女のテーブルに置いてあるインスタントコーヒーをコップに入れ、お湯を注いだ。

「さてと…。まずはどこから聞こうか」

部屋のカーテンを開け、コーヒーを飲みながら彼女の隣に座った。

「おかわりある?」

「早っ!!もう食ったのかよ!!」

以後、彼女。ルティナ・サンタ・ビトニュクスの好物は〝アロエヨーグルト〟となったのであった。



 ──【…まであと三日】──

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