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魂の喰らい方  作者: kanimaru。
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バー

「魂の食べ方を教えるって、具体的にどういうことなんですか?」


夜の街を男と歩きながら僕は訊いた。


「食べ方じゃねぇ、喰らい方だ」


男は訳の分からないところを否定した。


「……大事なんですか、そこ」


「基本だ」


「そう……ですか」


何が違うのか全く分からなかったがとりあえず僕は言った。


「…俺が直接指導してやるから安心しろ」


―――だからどんな指導かを聞いてるのに…


そう思ったが、言っても答えてくれなそうだったので、黙っていることにした。


「そう言えば、名前は?」


「お前は?」


「あれ、知らないんですか?」


「上に言われてきただけだからな」


「……大喜です」


「ダイキか……」


男はそう言うだけに留めて、結局名前を教えてはくれなかった。


「いま、どこに向かってるんですか?」


さっきから疑問形ばかりだなと思いつつ僕は言った。


「学校だ」


ようやくまともに答えてくれたと僕は思った。


「学校って……?」


だが男はそれを無視した。全く、最低限質問には答えてほしい。


そのまま少し歩いて、男はバーのようなものの前で止まった。

洋風なレンガ造りで、アルファベットで書かれた店名がチカチカ蛍光色に光っていた。

カランカラン、と音を鳴らして男は入店した。僕もそれに倣って、軽く会釈しながら入った。


中にはカウンターに囲まれた奥に一人の女性がいた。女性はなんというのか、妖艶な雰囲気を持っていた。


「あれ、新しい子?あんたがちゃんと連れてくるなんて珍しいね」


「うるさい」


男の言葉を無視して、女性は僕に突っかかってきた。


「僕?名前は?」


「あ…大喜です」


「ダイキくん。おっきいね。身長どれくらいあるの?」


「さぁ…大体百八十前後だった気が……」


「ダイキくんまだ中三でしょ?それだけ身長があれば、モテるでしょ?」


女性は僕にカウンターに座るよう手で促した。


「いやぁ…」


僕はカウンターに座りながら苦笑いを浮かべた。


「その体のせい?」


僕の様子を見た女性は言った。


すると今まで何も言わずに突っ立っていた男が女性に厳しい目を向けた。

女性は男を見向きもしなかった。


「…知ってるんですか、僕のこと」


僕は驚いて言った。


すると女性はさらに驚いたように、

「言ってないの、あんた」

といった。今度は男が無視を決め込む番だった。


女性は男の様子を見て一瞬呆れた顔をしたがすぐに僕のほうに顔を戻した。


「ここはね、きみとおんなじような人が来る場所なの。学校が始まるまでの仮ぐらしの場所。学校が始まったらそっちの寮に移ることになるから。それまで短いけどよろしくね」


「学校って、具体的に何を学ぶんですか?」


僕の問いに今度こそ女性は驚いた表情をした。


「ほんとに何も聞いてないの?」


「はい」


「ちょっとあんたねぇ……」


咎めるように女性は男をにらみつけた。


「あ、でも、食べさせてもらいましたよ、あの、魂を」


慌ててフォローしようと僕は言った。


すると女性は僕の方に思いきり乗り出してきた。


「あんたまさか、成仏させたの?一人で?」


「え…まぁ、はい」


女性の勢いに驚きながら、僕はうなずいた。


「ウソでしょあんた、何一つ学んでないような子にそんなことやらせたの⁉」


「でもちゃんと帰ってきた」


男が反論した。


「帰ってきたとかいう問題じゃないの。資格も持ってないで一人で行かせるなんて違反中の違反。バレたら資格はく奪だってあり得るんだからね。バッカじゃない」


女性は怒りっぱなしで、男はいまだそっぽを向いたままだった。


「資格?」


僕は思わず声を出した。


「ソウルイーターになるには、きちんと学校を出て資格を取る必要があるの」


僕の問いに女性は、さっきまでとはうって変わって優しい口調で説明してくれた。


「あいつは一人でやらせたみたいだけど、そんなのバレたら一発アウトだからね。しかも学校にも行ってないのに、ダイキくんは」


またとげとげしい口調で女性は言った。


「学校なんか行かなくてもできるんだから資格なんかいらないんだ」


「できるんじゃない、ダイキくんが特殊なだけ。普通出来るもんじゃないの。あんたでもない限りね」


男はフン、と鼻を鳴らした。


「あっ、ダイキくんがあんなやつみたいって意味じゃないからね」


僕が気分を害したと思ったのか、女性は慌てて言った。

別にあの人のことよく知らないのにな、と思いながら僕は苦笑いを浮かべた。


その時、チリンチリン、とバーの鈴が鳴った。


「いらっしゃい、あんたも新入生連れてきたの?」


女性は入ってきた金髪に金色のネックレス、指輪を何本もはめたザ・チャラ男のような男と、その後ろの長髪を後ろで結んだ少女にあいさつした。僕も軽く頭を下げた。


「あんたっていうのやめてくださいよ、アヤさん」


チャラ男は見た目通り底が見えないというのか、何とも軽い口調で言った。


「あなた、名前は?」


アヤさんと呼ばれた女性はチャラ男の言葉を無視して少女に話しかけた。


「あ、あ…カナデです」


人見知りなのか、目をそらしながら小さくつぶやいた。


「ちょっとアヤさん、無視しないでくださいよ~」


「うるさいよ、コウ」


なれた口調でアヤさんはチャラ男をあしらった。


「カナデちゃん、いい名前ね。誰がつけてくれたの?」


「あ、すみません。わからないんです。両親は生まれてすぐに私を捨てたみたいだし……」


「ごめんね、無神経なこと聞いて」


アヤさんは謝った。


二人のやり取りに僕は少し驚いた。

少女が親に捨てられたことに対してではなく、アヤさんがそれについて表情一つ変えなかったことだ。


「…ここに来るやつってのはそう言うやつばかりだ。お前だってそうだろ」


二人が来てから沈黙を貫いてきた男がボソッと呟いた。突然すぎて最初、僕に話しかけたのか分からなかった。


「あ、いたのか、マサル」


コウと呼ばれたチャラ男がたった今気づいたとでもいうような口調で言った。


「この子はお前がスカウトしてきたのか?マサル」


僕のことを見ながら、コウさんが男に訊いた。


「あぁ、そうだ」


「お前が連れてくるんだから、見込みはありそうだな」


「お前がスカウトする奴はろくなやつじゃない。毎度毎度、顔で決めてるんだろ」


「心外だなぁ。でもあの子はお前の子より素質はあるぜ、絶対になあ、君をけなしたわけじゃないからな、気分を悪くしないでくれよ」


「はぁ」


別に何も思っていなかったのだが、と心の中で呟きながら曖昧な返事を返した。


「おい馬鹿二人、早く二人を部屋に連れてってやんな。二人ともつかれてるんだよ」


アヤさんが辛辣な口調で命令した。


「え、部屋って……どこに?」

思わず僕はそうつぶやいてしまった。

周りを見渡しても、部屋につながっていそうな扉も、階段もない。


「見てればわかるよ。ほらコウ、早くやってあげな」


「はいはい」


チャラ男はアヤさんの言葉にそう返事をすると、レンガの壁の前に立って左手の中指と右手の人差し指を合わせ、手を握り目を閉じ、何やらぶつぶつ呟き始めた。


「彷徨う魂よ……鎮静と祈りを……命と…を……『開』」


チャラ男が呟き終わると、ゴゴゴ…という音とともにバーの中が揺れ始めた。

突然の揺れに驚きながら、何とか立っている状況をキープした。


「あ、二人とも、気をつけてね」


たった今思い出した、というような言い方でアヤさんは言った。

一体なにを、と言おうとした瞬間、レンガが顔めがけて飛んできた。


「うおっ⁉」


すんでのところで何とかかわしたが、どんどんレンガは飛んでくる。


そのうち一つが、アヤさんめがけて飛んでいった。


「危ない!」


僕は叫んだが、アヤさんに当たりそうになった直前にレンガが急に曲がった。


曲がったレンガは男に向かっていったが、男の眼前でレンガが真っ二つに折れ、そのまま床に落ちた。


そして数秒後、全てのレンガが飛び終わり、壁のあった先にはベッドが二つに床にカーペットが敷いてある部屋が出てきた。


部屋に僕とカナデさんを入れながらアヤさんが説明し始めた。


「壁の奥に部屋があるの。壁が飛んでったのは、コウの力。ソウルイーターって、人の魂を喰らうでしょ?人の魂って言うのは、ものすごいパワーを持ってるの。君たちの魂もね。もちろん個人差があるんだけど。それにさっき私やマサルに当たらなかったのは……」


「アヤ、今話すことでもないだろう。二人ともつかれてるんだったら早く休ませた方がいい」


口をはさんで言葉を遮った男に対して、アヤさんは不服そうな顔をしたが、何も言わなかった。


「今日は二人で一部屋にいてもらうことになる。ほんとはもう一部屋創りたいんだけど、あいにくもう力が残ってなくてね。我慢してくれ。部屋の左側のドアを開けたらトイレと洗面所。右側にはお風呂があるから、好きに使ってね。じゃあまた明日」


アヤさんの代わりにチャラ男が説明すると、チャラ男は腕をふわっと軽く上に挙げた。

すると床に散乱していたレンガが、綺麗に壁になって戻った。


壁が完全に閉まると、カナデさんと目が合った。

僕は何を言えばいいのかわからず、ちょっと困惑した。


「…とりあえず、お風呂にでも入ってきなよ。僕はシャワーでいいから」

数秒後、考えに考えてようやく言葉を絞り出した。


「ええ…でも……」


「いいよ、女の子なんだし、入ってきなよ」


「…わかりました。ええっと…」

カナデさんはうなずくと、困ったような顔をした。


「ああ、名前はダイキ。大きく喜ぶと書いて大喜」


「大喜…さん。ええっと、私はカナデ…です。可能性の可に撫でるで、可撫です」


「さんはいいよ、大喜でいいよ」

何かの漫画か本で、こんなこと言ってたよな、と思いながら僕は言った。


「じゃあ…私も可撫でいい…です」


「分かった。じゃあ、お風呂、入る?」


「いい…ですか?」


「いいよ、全然」


「じゃあ…」


そう言って、可撫は持っていた荷物ごと持って右側のドアを開けていった。



「はぁ…」


一人になって、思わずため息が出た。同年代の人と話すのなんて何年振りかもわからなかった。


もし可撫が僕と同じような人生を歩んできたならば、きっと可撫もそうなんだろう。


ついさっきのやり取りを思い出して、僕はそう思った。
















しばらく更新できずにいました。感想、レビュー書いてくれると嬉しいです!

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