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竜星の流れ人  作者: null
二部 二章 炉と工芸の町 シュレトール

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菫青石の瞳

菫青石、アイオライト…。


こうした言葉の美しさには脱帽です。


一体、誰が考えたんでしょうね。

 それから二日間は、ひたすら情報収集に走った。


 他に目撃者はいないか、騎士団のほうで掴んでいて、こちらが知らない情報はないか。とにかく聞いて回った。


 初めは、「何だか面白いわ」と呑気なことを言っていたミルフィだったが、二日目も同じことをすると伝えてからは、明らかに笑顔が減って、淡々と作業をこなし始めた。


 方々を歩き回ったおかげで、何となくこのシュレトールの町の全容が把握できた。


 ほとんどの家屋が平屋であること。

 作業場があちこちにあって、ほとんどの住人が何かしらの製造に関わっていること。

 作業場に閉じこもる人が少なくはなく、繁忙期でもない限り大通りであろうと、閑散としていることも珍しくはないということ。


 関係の有りそうな情報から、まるで無さそうな情報まで、ありとあらゆるものを記録した結果、一つのことが判明した。


 自分たちが歩くことで生じた砂煙が目に入る。目を擦ると逆効果なので、近くの水場で洗い落とす。もう昨日二日間で嫌というほどした経験だった。


 それから、宿屋の前のベンチに座っているミルフィの隣に腰を下ろす。その眉間には、何を考えているのか小さな皺が刻まれていた。


「八方塞がりだな」目の前の道路を見つめる。「情報が少なすぎる」


 ミルフィも地面を見つめてそれに軽く頷く。


 そう、二日間あちこち聞き込みして分かったことと言えば、ろくな情報がないということだけだ。


 こうなってくると、そもそもこの町にいるかどうかも怪しいと踏んで、フォージのところに話をしに行ったのだが、偶々居合わせた騎士団によると、まだ町を出て行っていないことだけは間違いないと言うのだ。


 シュレトールの町は高い外壁に囲まれているせいで、門以外の場所からの出入りはまず不可能らしく、その二か所の門も、事件当日以降、欠かさず見張りをつけているとのことだった。


 それがどれだけ信頼できる見張りか分かったものではないが、そこを疑い出したらキリがない。


「これってさ、もしも、見張りをすり抜けて出て行ってたとしたら、私たちのやってることって何なの?」


 同じことを考えていたらしいミルフィが、低い声で言う。口元は曲がってしまい、不満を隠すつもりもないらしい。


「それを言い出すとキリがないぞ」

「分かってるけどさぁ」背中に垂らした三つ編みを体の正面に持ってきて、指先で弄る。「もう探してない場所なんてないよ」


 ふぅっとため息を漏らすミルフィを横目に、自分も肩を落とした。


 そうなのだ、探せそうな場所は全て探した。


 路地裏、廃屋、ダーティーな雰囲気のある建物の中…。二日目はほとんどその時間に費やした。だが、全て空振りだった。


 次の一手がまるで浮かばない。昨日迷い込んだ袋小路のような現状が、二人の前に姿を覗かせていた。


 いい加減ミルフィの愚痴が面倒になり始めて、泣き言ばかり言うなと一喝した瞬間、思わぬところから声が降ってきた。


「何かお困り?」


 気配に全く気付かず、びくりと体が跳ねる。同時に腰の太刀に手が伸びるが、その高い声の持ち主を見上げて、その手を止める。


 自分たちの頭上で光を放ち水分を取り去る太陽を背に、女がこちらを覗き込んでいた。


 フードを被っていてはっきりとは分からないが、年齢は十代後半、いや半ばぐらいだろうか。とにかく、精神的な幼さを感じさせる瞳に注意が引き寄せられる。


 この乾いた空気の中、どうやってそんな潤いを保っているのかと不思議になるくらいキラキラとしたガラス玉。

 菫青石のように青みを帯びた菫色が、好奇心を臆することなく放出していた。


 不審者を見るような目つきをしていたミルフィは、ハッとした顔つきに変わり少女を指さしながら声を上げた。


「あ!この間、宿にいた子!」


 ひらひらと手首だけでミルフィに手を振ったかと思うと、残った右手で彼女の指先を摘まんだ。


「きゃ!」変な声を上げて手を引っ込めたミルフィに、太陽のような笑顔で答える。


「ねぇ、お姉さんたちぃ、何か困ってるんでしょ?」


 頭が砂糖で出来ているのではないかと疑いたくなるほどに、甘く、鼻にかかった声だ。


 少女の問いかけに言葉を濁していたミルフィは、何も言わない燐子を怪訝に思ったのか、顔だけでそちらを向いて、意見を仰ぐようにじっと無言で見つめた。それに引きずられたように少女の視線もこちらに向く。


 純粋で一切の澱みがない、歳相応の目だ。


 だからこそ、どうしても気になる点が一つだけある。


 燐子は一度止めた手を再び動かし、太刀の柄に手をそっと添えた。右手は、鞘を押さえる。


 これで、いつでも抜刀できる。


 彼女の視線をじっと見返す。「フードを取れ」


 太陽光を吸収したいと言わんばかりに黒々とした外套を、指先でつまむ。


「えぇ、日焼けしちゃぁう」


 少女は燐子の指示を聞くと、不服そうに声を漏らしたのだが、燐子がぴくりとも表情を変えなかったため、ぶつぶつ言いながらフードに手を伸ばし、取り払った。


 少女のそれは、エミリオやセレーネの、自ら光を発しているのではないかとさえ思える金髪とは違って、やや暗い色をしたブロンドだった。


 前者の金には素直に美しいと言わしめるものがあったが、この少女の金にはそれがない。アイオライトの瞳や、その純朴さからは想像できないような薄暗さを感じる。


 燐子よりも額に近い位置で切り揃えられた前髪、その横を波打つように肩下まで伸びた髪。


 よく分からない装飾の付いた白の上着は、肩から先が露出されていて、下も丈の短い白のスカートである。白が主体の服装だが、それと同時に肌の露出が目的なのではないかと勘ぐってしまうほど、露出度が高い。


 幼く、好奇心が旺盛というのが容姿に関する素直な印象だ。


「暑ぅい。ねぇ、もう被っていーい?」

「人と話しをするときは、帽子やフードは取れ」


「うわ、おじさんみたい」と隣でミルフィが言う。「ねー。お姉さんってば、おじさんみたい」


 きゃっきゃっと楽しそうに笑う少女を、もう一度険しい目で見つめる。


「無礼な」


 だが、その一言はかえって彼女を喜ばせたようで、再び甲高い声で笑われただけだった。それを見ていたミルフィが、かすかに張っていた警戒を解いて息を吐く。


「燐子、子ども相手に大人げないわよ」

「そうそう、大人げない、大人げない」


 ミルフィは、途端に柔らかな雰囲気に包まれつつあった。きっと、弟のこともあって彼女の母性が刺激されたのだろう。意外なことに、時折母のような顔をして見せるミルフィなのだ。


 しかし――。


「子どものくせに、随分と気配を消すのが上手なんだな」


 水を打ったような静けさが加速度的に周囲に広まった。柔和な笑みをたたえていたミルフィの顔が、瞬く間に引き攣るのが分かる。


 別に忍でもないので、気配を完全に察知できるとまではいかないが、それでも人並み以上に空気の動きには敏感だ。


 なのに、二回とも接近に気が付かなかった。


 曲がり角はまだしも、今回は眼前にいて、声をかけられるまで気が付かなかった。


 こいつは、ただの子どもではない。


「何者だ、お前」燐子が冷たい口調で問う。

「へぇ、お姉さんよく見てるね」唐突に、少女の声がワントーン低くなる。


 太刀に掛けた手に、力を込める。隣でも、ミルフィが腰に差したナイフをいつでも抜ける体勢に入っていた。


「でもぉ、内緒にしておいてほしいなぁ」


 くるりとその場で回る。翻るスカートや上着の下にも、武器らしきものは見当たらない。


 丸腰か、それとも暗器でも持っているのか。少なくとも大太刀はない。


「今ばれたら色々と面倒なんだよね、ほんと、洒落にならないもん」

「それは聞けない」


 ゆっくりと立ち上がる。

 少女との距離は目測一メートル。


「盗んだものを大人しく返すか、抵抗して斬られてから返すか」右手の親指で、太刀の鍔を押し上げる。「選べ」


 往来に人が少なくて良かった。ここなら、相手が抵抗しても周りを気にせず戦える。


 一触即発の空気が辺りに立ち込める。少し遅れてではあるがミルフィも立ち上がり、二対一の状況が確定した。


 それでも、向かってくるのか。


 燐子は岩のように静止して、相手の出方を窺った。


 ――…子どもだぞ、斬るのか。


 自分の中の何かが、そう問いかける。


 焼け付いた記憶がそれらによって呼び覚まされる一歩手前で、事態に動きがあった。


 少女は一つため息を吐くと、両手をスカートのポケットに突っ込んで口を開いた。


「はいはぁい、返しまぁす」


 次の瞬間、少女が素早く両手をポケットから取り出した。


 やはり暗器の類かと、予測される攻撃から庇うようにミルフィの前に飛び出す。


 しかし、ポケットから取り出されたのは自分の想像していた物とは全く違った。


 ジャラジャラと音を鳴らし、小袋が地面へと落ちる。それに続いて光放ついくつもの宝石が、落涙のように零れた。涙のように砂に吸収されないそれは、太陽の光を浴びてキラキラと極彩色のプリズムを放射している。


「は?」と間抜けな声が漏れる。「何なのこれ」


 そう問われた少女は、きょとんとした表情で小首を傾げた。


「何って…赤髪のお姉さんが言ったんだよ、盗んだ物を返せって」


 正確にはミルフィではなく、自分がいったことである。


 散らばる宝石を残念そうな顔で眺めていた少女は、くるりと目を回して曇り空を仰いでいた。


 あまりにも予想外の出来事過ぎて、硬直してしまっていた燐子だったが、体の自由が利くようになったミルフィが、再び指を差して叫んだ。


 今回は、人間に向けてではなく、床に落ちた小袋に向けてだった。


「それ、私たちの財布!」

「何っ」確かに、よく見ればサイモンに貰った財布だ。


 あのときか、と燐子は宿屋の曲がり角でぶつかった瞬間を脳裏に思い出した。


 …まさか、初めから盗むつもりでぶつかって来ていたのか。


「えぇ、何?もしかして、私しなくていい自白しちゃった?」


 目をぱちぱちさせて、体を左右に揺らす少女は、見るからに反省の色がない。


 それどころか、勿体ないことをした等と戯言をほざいていて、落ち着きのない動きを、バカにしているかのように繰り返しているばかりだ。


 貧しさ故の窃盗、ではないことが少女の顔つきからはっきりと分かる。


 さて、何から叱りつけようかと目を瞑って鼻息を漏らした燐子だったが、それより早くミルフィが言った。


「あのねぇ、何でこんなことしたの?」


 ミルフィは、あくまで子ども相手であるというスタンスは崩さないつもりのようだ。


「んー?それって教えて意味ある?」

「いや、何か理由があるならしょうがないけど…」

「別にないけど」


 ぴくりとミルフィのこめかみに青筋が走るが、何とか怒りを抑え込んだらしく、変わらず優しい口調で続ける。


 燐子は、彼女の様子が少し面白かったので、もう少し静観することに決めた。


「何かあるんでしょう?お金に困ってるとか、欲しいものがあるとか」


「宝石って綺麗だよね」地に落ちた宝石を拾い上げて、陽光に透かす。「私、綺麗なもの好きだなぁ」


 菫青石(きんせいせき)の瞳をうっとりと細めて、その赤い輝きを自身の瞳に投影させている。


 会話が通じず、頭を掻いたミルフィは、「でも、それじゃあ、お金を盗る理由にならないわよね」と尋ねた。


 少女は、宝石をいくつか拾い上げながらミルフィの質問を聞いていた。そうして宝石から目を離さないままで、どうでもよさそうに告げる。


「あー、お姉さんたちの財布は旅賃」ついさっきまで媚びたような声を出していたかと思えば、不意に鼻を鳴らして無感情な声音になった。「まぁ、はした金だったけどぉ」


「このガキ!」


 作り笑いで話を聞いていたミルフィにも限界が来たらしく、口汚く罵るや否や、少女の襟首を掴んで子猫のように持ち上げた。


 しかし、ミルフィにあるのは親猫のような遺伝子的使命感や母性ではなく、小生意気な子どもを罰そうという非常に人間らしい感情だった。


 面倒そうに両耳を塞いでいる少女に対して、語彙を振り絞って様々な説教、というか文句を叩きつけていたミルフィは、直ぐに弾切れになったらしく、肩で息をしながら少女を睨みつけた。


 それにしても、片手で少女を持ち上げたまま、罵詈雑言を吐き続けられる腕力と精神は素直に凄いと思う。


 そろそろ助け舟を出すことにしよう、と燐子がベンチに腰を下ろして声を発する。


「子ども相手に大人げないぞ、ミルフィ」


 意図せず、先ほど自分が言われたことへの意趣返しになったせいで、ミルフィがこちらにも怒りの矛先を向けた。


 ぐんと、自分の目の前に少女を持ってくる。


「元はと言えば、アンタがこのガキに盗まれたんでしょうが!」


 余計な火の粉を受ける羽目になった、と肩を落とした燐子は、目の前の少女が囁くように言葉を紡いだことで、その視線を彼女に向けた。


「綺麗なお姉さぁん」蕩けたような甘い声だ。「ねーえ?見逃してくれたら、色々とお礼しちゃうんだけどなぁー?」


 小娘が何を言っているのだと、呆れた顔をしていると、少女が自分の上着の首元を引っ張って、その白い肌を晒した。


 つい視線が吸い寄せられてしまったのだが、自分よりも豊かに感じられる体つきに、途方もない敗北感を覚えずにはいられなかった。


 女性らしさの象徴とも言うべき部分が、子どもにも負けているとは。


 それにしても、なるほど、今まで捕まったときはこうして相手を誘惑して難を逃れていたのかもしれない。


 淡雪のような柔肌についつい目線が行ったが、それも束の間。

 欲に任せて盗人を逃がすような真似はしない。


 いや、というかそんな欲求はない。


 大人として、何かしらの説教をしなければ。さて、何がいいだろう、と思考していた燐子の頭頂部に何か硬いものが勢いよく直撃して、悲鳴に似た声が口から漏れ出た。


 つむじが熱を帯びたようにズキズキと痛み、脈動する痛覚に声にならない声が勝手に零れる。必死に痛みから意識を逸らそうと、唸り声を出す。


「あ、アンタ!こんな子どもに唆されるなんて、見損なったわよ!」


 一瞬、何が何だか分からなかったが、彼女の左手が拳の形になっているのを見て、自分が鉄拳制裁を受けたのだということにようやく気が付いた。


 痛みと怒りが撹拌(かくはん)された、嵐の波浪のような感情が、胸の中を光の速度で駆けあがって来る。


「たわけが!誰が唆されたのだ、誰が!」

「とぼけんじゃないわよ、その子の胸!ずっと見てたじゃない」


「そんなものとんだ濡れ衣だ、一瞬しか見ていない!」

「やっぱり見てんじゃないの、この屑!」


「く、屑?」初めてここまで率直に罵倒されて、衝撃を受ける。「言い過ぎだろう!」

「あぁ、はいはいはい。燐子ちゃんはゆるふわな可愛い系が好きですもんねぇー」


 この子やセレーネ様みたいな、と補足で付け加えた彼女が何を言いたいのかも分からない。


 とりあえず殴られた箇所に手を当てる。


 腫れてきているではないか。相変わらずの馬鹿力め。


 痛みを自覚すればするほど、目の前で腕を組み、体を斜めにしているミルフィが小憎たらしくなる。


「そもそも、何故そこでセレーネが出る」

「うわ、王女様を呼び捨て?もう自分の女のつもりじゃない」ミルフィが揚げ足を取る。

「…お前、何が言いたいんだ?一体」


 自分でもよく分からなくなってきたのか、紅葉を散らした顔色になった彼女は、ぷいとそっぽを向いた。


 燐子が殴られた拍子にミルフィから解放されていた少女は、いつの間にか地面に散らばった宝石を回収し終わって、ちょこんと燐子の隣に座っていた。


 角度によって変化する光の反射具合を満足そうに眺めていた彼女は、ぽつりと呟いた。


「燐子ちゃん。うぅん、燐子ちゃんかぁ」

「何だ、気安いぞ」


 急に馴れ馴れしく名前を呼んできた少女へと視線を向け、その行為を咎める。しかし、聞こえていないのか、彼女はずっと指先で宝石を弄りながら燐子の名前を呼んでいた。


「燐子、燐子ちゃん。ふむふむ、燐子ちゃん…」


 熱に浮かされるように、あるいは微睡みの中の呟きのように。


 少女はようやくこちらを向いたかと思うと、指先で摘まんだガーネットに唇を落とした。


 真紅を飾る桜の花びらのような口づけは、わざとらしく音を立てて行われ、それがどこか艶やかだった。はっきり言えば卑猥という表現が近い。


「ねぇ、燐子ちゃん。提案があるんだけど」

「だから、気安く呼ぶな」


 燐子の指摘にくるりと目を回すと、ふっと笑った。


「燐子ちゃんたちが困ってるのって、コア泥棒のことでしょ?」


 泥棒、と耳にして一瞬、目の前の少女を疑う。しかし、手配書の情報と全く特徴が異なっている。


 ただ、と思うところもあって燐子は少女を横目で覗いた。その好奇心全開の眼差しとぶつかる。


 考えてもしょうがない。

 そうだ、考えてもしょうがないことが、世の中には星の数ほどあるのだ。


 一旦、思考を切り替えて、少女の質問に答える。


「そうだが」短く、低い口調だ。「ちょっと、何勝手に答えてるのよ」


 ミルフィが口を挟むも、間髪入れずに少女が囁くように言った。


「手伝ってあげよっか?」

「何か知っているのか?」


 その問いには何も答えずマイペースに話を進めていく。どこまでも勝手な奴だと思わず燐子は鼻から息を漏らした。


「んーん。でもほら、『餅は餅屋』って言うじゃん?」

「何よ、餅は餅屋って」


 浅学なミルフィが小首を傾げるが、誰も相手をしない。


 しかし、確かに一理ある。

 泥棒の思考は、泥棒のほうが読みやすいだろう。


「条件があるけど」少女が指を二本、天に向かって立てる。「言ってみなさいよ」


 そう言われた彼女は嬉しそうに破顔して、燐子に密着するように位置をスライドさせた。


 とても甘ったるい香りが漂ってくる。


「一つ、最後はちゃんと見逃すこと」

「何言ってんの、即詰所行きよ」


「えぇ、みんなが可哀そうだよぉ」泣き真似をする少女を冷めた目つきで二人は見守る。

「可哀そうなのはアンタだけよ」


「しくしく」いつまでも下らない真似事を続ける少女。「いいから続けろ」


 ちぇっと、舌を鳴らして足をぶらぶらさせた彼女は、猫のように丸々とした瞳を一度空へ向けて、それからミルフィに向ける。意味ありげにじっと見つめた後、ミルフィの吊り上がったまなじりに見下ろされて、よく分からない微笑みを浮かべた。


 やたらと短い丈の白のスカートからはみ出た両足は、明らかに自分とは違う種類の白さだ。


「んで、もう一つは何」少女が跳ね上がるように立ち上がる。細さの割に動物のようにしなやかな挙動だ。「私にも何かお礼してくれること」

新キャラ登場ですが、いかがでしょう?

この喋り方、お嫌いでしょうか?


意外と私は気に入っております。



何はともあれ、お読み頂きありがとうございます。

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