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竜星の流れ人  作者: null
一部 エピローグ 竜星の流れ人

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竜星の流れ人 弐

 自分も行くか、と片足に重心を傾けて最初の一歩を踏み出そうとしたとき、遥か後方から声が響いた。


「いってらっしゃーい!」


 ドキッとして振り向くと、そこには小さな影と、腰の曲がったような影が村の入口のほうで大きく手を降っていた。


 ドリトンとエミリオである。


 静かに出たかったのだが、とも思ったが、いくら自分でも、それを口にするのはあまりにも無粋であると分かっていたし、正直なところ少し嬉しいという気持ちもあった。


 片手を上げて、二人に答えると、エミリオはさらに大げさな動作で手を振った。


 ちらりとミルフィのほうを見ると、彼女にはエミリオの声が聞こえていないのか、背を向けたまま歩みを進めていた。


「ミルフィ、見送りだぞ」


 彼女は、「分かっている」と短く返すと、それでもずっと遠く正面のほうを見つめていた。


 仕方がなく早足で彼女に近付いて横に並んだところ、ミルフィは鼻をすすりながら瞳をうるませていた。


 全く素直ではない、と燐子は彼女の肩に手を置いた。


 こちらの言いたいことが何となく分かっているのか、ミルフィはあえて意識して、私のほうを向かないようにしているようだった。


「こんなときまで強がることはない、泣かないことは、決して強いことではない」


「うん、分かってるわ」


 そう言ったミルフィはおずおずと村のほうを振り向き、大きく手を振った。


 それに気がついたエミリオがさらに大きな声を出して、上下に飛び跳ねながら手を振り返す。


「お姉ちゃん、体に気をつけてね!たまには顔見せてね!僕も、頑張るから!」


 ミルフィの唇が激しく震えて、とうとう涙を流す。


「エミリオ!お祖父ちゃん、行ってきます!また帰ってくるから、元気でいてね、お願いよ!」


「うん!あ、行く先々で問題を起こさないでね!」


「はあ?誰が起こすのよ!」


 一瞬で顔を険しくした彼女の器用さに、隣で聞いていて思わず苦笑いが出てしまう。


「今のは、お祖父ちゃんからの言葉!」


 それを聞いたミルフィはバツが悪そうに、「あ、そう」と呟いた。


 こんな大声でやり取りを繰り返しているのだから、当たり前といえば当たり前だが、騒ぎを聞きつけた村人たちが門の下に集まり、状況を理解したのか口々にミルフィを送り出す言葉を叫んだ。


 その中には少なからず自分への感謝の言葉もあって、何だかむず痒い気持ちになってしまう。


 さて、何か私も気の利いた言葉を返そうか、と頭を捻るものの、何も思い浮かばなくて、仕方なく手を高々と上げた。


 どうにもこういうのは苦手だ。


 しかし、そうこうしている間に、その一団が二つに割けて、中から暁の光を反射させた金糸が最前列に躍り出てきた。


 セレーネ王女だ。


 何事かを叫んでいたのだが、その姿をぎょっとするような様子で村人たちは遠巻きに見つめている。


「不味い」


「お姫様から逃げるのなんて、アンタくらいのもんじゃない?」何故か呆れた様子だ。


「いいから行くぞ!」


 馬に飛び乗り、ミルフィに片手を差し伸べる。


 彼女はその手を躊躇わずに掴み、自分の後ろに乗ると、意地悪く微笑んだ。


 彼女の瞳の色が滲んだように、目の周りが真っ赤になっている。


「あーあ、何か悪いことしてる気分。ねぇ、お姫様、恋人に捨てられる女の子みたいに、声を張り上げて呼んでるわよ」


「それは、まあ、私だって心苦しいが…。責任を取れ、というようなことを言われても、こちらだって困る」


 口を尖らせて燐子が言う。


 栗毛の馬が、草原の海を引き裂くように駆け出した。


 後方から聞こえていた彼らの声は次第に遠くなるが、最後にエミリオの声だけがしっかりと私たち二人の元に届いた。


「燐子さーん!お姉ちゃんをよろしくねー!」


 よろしくと言われてもな、と苦笑いが漏れる燐子に、ミルフィが不服そうに背中を小突く。


「何で笑ってるのよ」


「別に、大したことじゃない」


 草の根本から、名も知らぬ無数の鳥たちが舞い上がる。


「ミルフィまで、責任を取れだなんて言い出さないか心配になっただけだ」


 皮肉を口にした自分に「へぇ」とミルフィが体を斜めにして、横からこちらを覗き込んだ。


「責任取って、って言ったら、取ってくれるの?」


 振り返った彼女の顔が、朝日を浴びてほんの少しだけ赤らんで見える。


「…からかうな」


 私の返答に満足そうに微笑んでみせたミルフィは、「髪、また結んであげようか?」と言った。


「全く、勘弁してくれ…」


 ミルフィの高い笑い声が、天空へと舞い上がった鳥たちのハミングに共鳴するかのように響き渡る。


 不思議なものだ。


 前回二人でこうしてアズールへ向かったときの自分は、もう何もかもが終わって、先の途切れた道の上に立っていると思い込んでいた。


 だが今は、その終わりの先に続いていた、奇妙な道の上を歩いている。


 自分でも、どんな終着点になるのか見当もつかない。


 しかし、今は道が続く限り歩いてみようかとも思っている。


 まだ見ぬ世界を求めて、新しい自分と、彼女と共に。


 耳元を過ぎる心地の良い風が、二人を導くように道の先へと流れていった。


お付き合い頂いた方々、

本当にありがとうございます。


良ければ、もっとこういうふうにすれば良かった、

あるいは、次はこういうふうのはどうだろうか、という

希望があれば教えて頂けると幸いです。


何はともあれ、最後までお付き合い頂いたみなさまには、

本当に感謝しかありません!


少しでも楽しんでいただけたことを願っております。


話は変わりますが、サイコ風味の長編百合も、

こちらに掲載しております。

よろしければ、そちらもどうぞ!


それまで、お体に気を付けて。


ありがとうございました。


an-coromochi


https://ncode.syosetu.com/n6723he/

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