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愛しかった世界

愛しい世界が終わる

作者: 雷ライ

『愛しかった世界の終わり』タイヴァスよりの視点です。


三人称にチャレンジしているのですが、苦手でおかしなところや、誤字脱字があるかもしれません。

なんでも許せる方のみ、お読みください。


また、あらすじにも書きましたが、自殺描写があります。注意してください。


はじめて見たとき、こんなにも愛しい存在は他にないって、

心から思ったの。









カールステッド侯爵家の長女、タイヴァスには妹がいる。


黒紫の髪とお揃いのアメジストの瞳を持つ妹は、

タイヴァスにとって愛しくて愛しくてしょうがない存在だった。


妹、ハーヴが姉である自身のことを誇れるように、ハーヴが躓いたとき、手を差し伸べることができるようにと、勉学も、礼儀作法も、武芸も自身にできることは何もかも習得した。



「お姉様、ありがとうございます」



そう妹に言ってもらうのだけが、タイヴァスの生き甲斐だった。



しかし、月日が流れて行く中で、タイヴァスは気づいた。

ハーヴの笑顔が作りものであることに。



タイヴァスはそれが酷く悲しかった。


(妹の笑顔が見たい)


そんなことを思いながら、日々を過ごしていた。






見かけたのは偶然。


ハーヴと2人で、人気のない裏庭でランチを取っているときのことだった。



ハーヴを大切に思っているタイヴァスだから、気づかことができた。


ハーヴの視線の先に、ダンタール伯爵家の嫡男である、

アールト様がいることを。




ハーヴはすぐに視線を逸らして、私に作りものの笑顔を見せてくれる。


「お姉様、どうかなさいまたした?」


ハーヴに対して何でもないと答えながら、アールト様について調査を進めることにした。





調査の結果、アールト様もハーヴを気にしてることがわかった。


タイミングが悪いようで、2人の視線が交わることはないが、アールト様もハーヴもお互いの存在を気にかけていた。


しかし、ハーヴには婚約者がいる。


このままだと、ハーヴの恋は実らない。


(そんなのダメ)


タイヴァスは、妹を愛している。

妹には幸せになってほしい。


ならどうすればいいかなんてはっきりしている。


ハーヴの婚約を破棄すればいい。








タイヴァスはまずアールトと自身が仲良くなり、

兄に紹介しようと考えた。


私の友人であるより、兄の友人であるほうが父の覚えはいい。



「アールト様、今お時間よろしくて」


家格が上のタイヴァスに話しかけられたアールトは、最初こそ警戒していたが、ハーヴとも話せる機会を設けると徐々にその警戒を緩めていった。


交流を持つようになり、タイヴァスは本当にアールトがハーヴを気にかけていることがわかった。

タイヴァスの中で、アールトが笑っているのは、ハーヴと話しているときか、ハーヴの話をしているときだけだった。


そして兄に紹介し、兄が父へと紹介した。

思っていた通りにことが進む。


(待っててね、ハーヴ。お姉様が必ずハーヴを幸せにしてあげるから)


目的を達成できれば、ハーヴは幸せになれる。

自分にも本当の笑顔で笑いかけてくれるかもしれない。


タイヴァスの頭はそんな考えでいっぱいになり、

そのとき、好きな人と姉が一緒いることと、好きな人と姉の噂が、ハーヴをどれだけ傷つけているかまで考えられなかった。



タイヴァスの努力のかいあって、ハーヴの婚約は破棄することができた。


アールトもタイヴァスが当初想定していたよりも優秀な存在だったようで、王太子殿下とも仲が良かった。

そのおかげで、優秀なのに一匹狼気質のあるタイヴァスとハーヴの兄も、王太子殿下と仲良くなることができた。


そのため、ハーヴの元の婚約より、アールト様との婚約の方が、カールステッド侯爵家にとっても有益だった。


父は野心家だから、より旨みのある方に行くだろうと考え行動にうつして正解だったとタイヴァスは満足していた。


途中、タイヴァスとアールトを婚約させようとしていることがわかった時は、かなり焦ったが。



ハーヴには、サプライズにしようと卒業パーティーまで、

隠しておいた。


アールトにも、卒業パーティー当日にダンタール伯爵から、伝えられることになっている。


(2人への私からのプレゼント、喜んでくれるかな?)




今思えば、婚約がなくなったところだけでも伝えておくべきだったことタイヴァスは後悔することになる。








広間でカールステッド侯爵とダンタール伯爵がアールトを呼び寄せているのを見て、そろそろだと思い、タイヴァスは少し早足気味に広間でハーヴを探す。



広間にはおらず、テラスへと向かう。


談笑している人が多い前方のテラスにはおらず、後方の薄暗いテラスでハーヴを見つけた。



ハーヴは1人、テラスから夜空を眺めていた。


「ハーヴ!見つけたわ、こんなところにいたのね」


これから妹が幸せになれることを想像するとタイヴァスは少し興奮気味だった。


「……お姉様こそ、こんなところいらっしゃってよろしいのですか?」


ハーヴは不思議そうに、タイヴァスをみる。


「あのね、ハーヴ、改めて紹介したい人がいるの。だから、一緒に広間に戻りましょう」


嬉しそうに言うタイヴァスに対して、ハーヴは酷く悲しそうに言う。


(悲しそう?どうして?これから貴女はしあわせになれるのよ?)


「紹介したい人?」


ハーヴの悲しそうな顔に気づきながらも、この後すぐに最高の笑顔を見るとができると考えていたタイヴァスは、気にかけながらも話を続けた。


「そうなの!ハーヴも何回か会ったことがあるでしょう?ダンタール伯爵家の嫡男、アールト様よ」


(彼がね、貴女の婚約者になるのよ!)


言いたいのをがまんしながらタイヴァスは、美し笑顔でハーヴと話を続ける。


「……私は遠慮します」


ハーヴの最後の抵抗だった。

しかし、もう自分が描く最高のエンディングしか見えていない、タイヴァスはそれに気づかない。


「どうして?遠慮なんていらないわ、いきましょう、ハーヴ」


タイヴァスがハーヴの腕を掴もうとする。

しかしそれは叶わない。

ハーヴは勢いよく、タイヴァスの手を振り払う。


ハーヴはタイヴァスを拒絶したのだ。


「……嫌だって言ってるのがどうしてわからないの」


「ハーヴ?」


「いつも、いつもそう、貴女は私の話に耳を傾けてくれない。善意という息苦しさを私に押し付ける」


「どうしたの?ハーヴ」


「お姉様、私は行かないと言っているのです。放っておいてください」


(ハーヴはどうしたのかしら?)


しかし、誰かに拒絶されたことがないタイヴァスにはそれが拒絶であるとわからない。


「放っておけるわけがないでしょう。ハーヴは愛しいこの世界のたった1人の愛しい私の妹なのだから」


(こんなところにいつまでもいたら、体が冷えてしまうわ)


「愛しい世界?愛しい妹?……ハッハッ、笑わせないでくださいお姉様、私はこの世界も貴女のこと大嫌いだ」


ハーヴの言葉にタイヴァスは目を見開く。


「貴女はこの世界を愛してはいないの?」


(ハーヴは私たち家族やアールト様が生きるこの世界を愛していないの)


酷く悲しそうな声が静かなテラスに響く。


「愛しているわけがないでしょう。

生まれた時から姉である貴女と比較され、

貴女と同じでなければ劣っている、

意地が悪い、愚かで卑しいと貶められる世界。

愛しても愛してくれなかったこの世界を、私はもう愛していない」


「ハーヴ、そんなに悲しいことを言わないで。

何か悩んでいるなら、私が力になるわ」


(あぁ、謙虚で優しい妹。誰が貴女を傷つけるの?私に教えてくれたら、いくらでも守ってあげれるのに)



「お姉様、ダメよ、絶対ダメ。これだけはあげられない。この悩みは私のもの。何もかもお姉様のものなるこの世界で唯一私の手元に残っている大切な私だけのものなの」



淡い紫の髪を持つ女性タイヴァスと

黒紫の髪を持つ女性ハーヴが

飛行船のテラスで対峙している。


彼女たちの瞳はともに美しいアメジスト。


しかし、淡い紫は唖然としており、

黒紫が纏う空気は冷たい。


(ハーヴは私を頼ってはくれないの?)


「さようなら、お姉様。

私は貴女が生きるこの世界が大嫌いよ」


タイヴァスが何か言おうとしていることがわかっていながら、ハーヴは言わせない。


ゆっくりと飛行船の端へと歩みを進めていたハーヴはその言葉を残し、テラスから身を投げ出す。


待つのは底の見えない奈落。


タイヴァスが駆け出し、ハーヴへと手を伸ばす。


(いやっ!ハーヴ!私の愛しい妹!)


タイヴァスだって、掴んでもらえないことは心のどこかでわかっていた。


しかし、タイヴァスにとっては、どんな言葉をかけられようとハーヴはこの世にたった1人の愛する妹。


嫌われようと、避けられようと、彼女は何かせずにはいられない。


伸ばした手は空を切る。


「ハーヴ!」


淡い紫の女性が黒紫の女性の名前を叫ぶ。


テラスから身を乗り出し、奈落を覗くと、

最後に見えたのはたった一度しか見たことがない

妹の心からの笑顔だった。





(こんなかたちで貴女の笑顔が見たかったんじゃない)












手すりを掴み、手を伸ばしていたタイヴァスの横をアールトが通り過ぎる。


アールトは迷わず、ハーヴが消えていった奈落へと落ちていく。


「えっ?」


タイヴァスが認識するより早く、後ろから声が聞こえてくる。


「タイヴァス様‼︎」


メイドによって、テラスへと体を戻される。


その後ろで、カールステッド侯爵とダンタール伯爵が指示を出している。


「おい!急げ!ハーヴとアールト殿が船から落ちたぞ!」


「アールト!なんて馬鹿げたことを!」



2人の指示で、小型飛行船に乗った騎士たちが次々と空へと消えていく。


その場にへたり込んだタイヴァスは、呆然と視線を柵の向こうへと向ける。


「ハーヴ?」


そんな一言は人々の怒号の中へと消えていった。


お読みいただきありがとうございます。




いつか、できればアールトとハーヴの馴れ初めを書きたい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続編をお待ちしてます!
[一言] アールトの父親が「なんと馬鹿げたことを」と言ってるので、実際に発表されるのは姉との婚約だったりしそうですね。
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