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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明
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いッ刻モ早くこノ手デ

 それから、オースは村も形成し始めた。ただ想像するだけで、どんどん出来上がる。上手くできない所は、とてとてが補助する。


(う~ん、ここにはどんな野菜があったかな。村長んとこは、やたらと育ててたからなぁ。流石に、全部は把握しきれねぇ。豆と芋は確実にあったんだけど……)


 家をある程度完成させたオースは、村にあった畑の再現を始めていた。しかし、植えてあったものまで正確に思い出せるはずもない。そういう時は、とてとてだ。


「おい!」

「は~い!」


 呼びかけると、家の中からとてとてが飛び出してくる。


「とてとて、ここの畑」


 雑に指差して指示すると、とてとては嬉しそうに頷いた。


「わかった! 命令を実行するね。解析……最適なコマンドを実行、兄様の記憶に接続! 類似する記憶みっけ! 補完するね!」


 最初は驚いたが、何回か見ると慣れてしまうものだ。1つの作業として眺めていた。


「よろしく」

「完了!」


 畑が完成した所で、抱いていた疑問をぶつけてみる。


「にしても、お前のそれはどういう仕組みだ? 違和感なく再現してくれるが、俺はすっかり忘れてるんだぜ。俺の記憶に、本当にそれがあるのか?」


 すると、とてとては耳を垂れ下げ、少し困ったように答える。


「う~ん、えっとね……過去にあった記憶にもアクセスできるんだ。今、兄様の所になくても、兄様の記憶としてあったものをボクは知れる……感覚としては、そんな感じなんだ」

「よくわかんねぇが……まぁ、俺の望むようにできるなら問題ねぇ」

「うん!」


 オースがそう結論付けると、とてとては安心した様子であった。能力について追求されても、上手く説明できる自信がないのだろう。

 そして、逆にとてとては質問してきた。


「それにしても、本当に凄いね! さっきまで何もなかった場所とは思えないよ! ここは、兄様にとってどんな場所だったの?」


 とてとては、純粋に尋ねてきた。だが、オースにとってそれは地雷。眉間にしわを寄せ、無愛想に答える。


「……記憶を見てんだろ? 少し察しはつくだろ」


 流石のとてとても、オースのテンションの下がりように気まずさを覚えたようだ。


「えっと、あのね……ボクは、記憶を絵として見てるんだ。それだけじゃ、ボクにはよくわからない……」


 申し訳なさそうに、そう言った。


「ふ~ん……」

「だから、お願い! ここは、兄様にとってどういう場所なの?」


 普通なら、これ以上追求するのをやめようとするだろう。しかし、とてとては魔物。そういう価値観ではないようだ。ここで黙っても、追求をやめないだろう。仕方なく、オースは答えることにした。


「俺が、生まれ育った村。今はもう……ないけどな」

「どうして? どうしてないの?」


 遠慮や気遣いというものはない。聞きたいから聞いている。そんな感じだ。


「燃えた。村ごと、まとめて何もかも燃やされた。俺自身も。お前風に言うなら、姉に。まぁその時は、俺はまだ人間でだったけど」


 過去の記憶は徐々に薄れていくのに、その日のことは鮮明に覚えている。臭いも熱さも、絶望も。


「何があったの?」

「さぁ、詳しいことはよく知らん。テウメが言うことには、俺は巻き込まれる予定ではなかったらしい。つまり、村とか村人を燃やすことに変わりはなかったんだ。んで、巻き込まれて黒焦げになった責任を取って貰った結果、俺は魔物になった」


 軽く経緯を説明すると、とてとては恐る恐るといった様子で尋ねる。


「じゃあ、兄様は……嫌いじゃないの? 魔王様達のこと」


 オースは驚いたが、少し考えるとその疑問には納得できた。


(考えたことなかったな。なんでだ? そうだよな……理由はどうあれ、俺の村は魔王軍に燃やされた。どうして、俺は恨んでないんだろう? 今も……怒りが湧き上がってこねぇんだろう? 村はなくなることも、俺以外の奴らが殺されることは前提だったはずなのに……何故?)


「兄様?」


 真剣にしばらく考えていく内に、オースの頭はぼんやりとしてくる。次第に、ルースに対する怒りが湧いてくる。


(……勇者は魔王軍にとっての敵。敵に少しでもダメージを与えるのは当然だ。あいつにとって、大切なものは村にあった。それを奪われれば、あいつは酷くショックを受けるだろう。それに、俺はあいつをより深く傷付けるために必要な存在らしい。それもこれも、あいつが勇者に選ばれたせいだ。あいつが選ばれなければ、何も……変わらなかったはずなんだ。何も……)


 魔物にとって、魔王を否定することなどあってはならない。そのように設計されている。何か不具合などが起きない限り、魔物は決して魔王を裏切らない。意思があろうがなかろうが、魔物細胞の力は絶対的だ。


「仕方なかったんだよ。勇者に選ばれるような奴が悪い。魔王様は、悪くない。これは戦いだ。弱みを見せた方が負ける……それだけのことだ。だから、俺は魔王様は嫌いじゃない。むしろ、敬愛している。俺が嫌いなのは、勇者の方だ。一刻も早く、この手で負かしてやりてぇくらいだ」

「そう……なんだ」


 オースから、その言葉を聞いたとてとては呟くように言った。


「なんでそんなことを聞く?」

「んー? えっと、知りたかったから。それだけ! えへへ!」

「あっそ。つか、何でもいいけど、さっさと完成させろよ」

「はーい!」


 木にもたれかかり、動き回るとてとてを眺めながら、身を休めた。それから十数分後――。


「終わったよ、兄様! あっちの家も、向こうの家も、そこの家も!」


 仕事を終え、とてとては意気揚々と戻ってくる。だが、まだ頭がぼんやりとして体がだるいオースは、乗り気にはなれない。


「わかった。じゃあ、俺はここで寝るから」

「えー!? なんで!? 折角、家の中にベットあるのに!」


 わざわざ、外として設計された場所で眠ることが理解できないようだった。


「外でこうやって寝るのもいいんだよ。作り物なのに、作り物とは思えねぇ。風やら太陽やら、雲の動きやら……本物と大差ねぇ。心地いいぜ」


 もし、ここで記憶が全部なくなって生きていくことになったとしても、きっとここが偽物だと気付けないだろう。それくらい、あまりにも自然だった。


「むー! ボクの成果も見て欲しいの!」

「だるい」

「すぐだよ!」

「眠いから」

「頑張ったんだよ!? 兄様のために!」

「はいはい、頑張った頑張った」

「む~……なら!」


 しばらく適当にあしらっていたのだが、突然とてとては自身の毛を毟り始める。


「って゛!?」


 毛が無理矢理抜かれる痛みが、オースにも襲いかかる。


「兄様が意地悪するなら、ボクだって意地悪するもん!」

「いってぇ! いってぇって!」


 結構な痛みなのに、構わず毛を抜き続ける。オースの目には、無意識に涙が溜まる。


「ボクだって痛いから!」

「じゃあ、やめろって!」

「やめないっ!」

「なんでだよ!」

「兄様が見てくれないから!」


 お互いに痛い思いをしながら問答を続けていたが、先にオースの方が折れた。


「わかった、もうわかったから! 頼むから、もう毛を無理に抜くんじゃねえ!」

「……ほんと?」


 そう言って、ようやくとてとては手を止めた。


「てめぇの毛がなくなるまで我慢してたら、こっちの気が持たねぇよ。ったく……ちっとも休めやしねぇな」

「わーいわーい!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、大喜びのとてとて。思うように事が進み、大満足の様子だ。


「はぁ……じゃあ、どこから見てやればいいんだ?」

「えっとねぇ、まずはあそこのおっきい家! それと、その向かいの家も! それ以外の所は……ちょっとだけ見てくれたらいいかな」

「はいはい。村長の家と、親父の親友の家ね。昔から色々と世話になったからな。他の所は、そんなにしょっちゅうお邪魔した記憶ねぇもんな。じゃ、行くか」

「うん! わかってくれて良かった!」


(……厄介な奴と契約させられちまった。なんで、こんなに意思があるんだよ。面倒臭ぇ。黙って俺の言うことを聞く奴だったら、良かったのに。逆に、こっちに言うことを聞かせてくるとかさ……ありえなくね?)


「お前さ、俺のことなんだと思ってんの?」

「ん? 兄様だよ!」

「ほんとかよ……」


 そんなこんなで、結局疲れ切った体で、渋々とてとての成果を確認する羽目になったオースなのであった。

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