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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明

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契ヤく者コト兄さマ

 オースは戻り、いつもの闇に包まれた空間で思い返していた。


(我ながら、見事な演技力だったなぁ。いや~色々なかったけど、どうにかなって良かった! しかも、メチャクチャな要求をしても、全部OKだったし。これは、ラッキーだな。あの人形……アマラとしての活動の幅が広がるかも)


 シアンの兄は、あの感動の面接について少し疑念を抱いているようであったが、オーナーの決定に従い、スタッフとして受け入れてくれた。


(ただ、あれだな。ちゃんと、アマラの人生について決めた方がいいよな。ボロが出たら、折角のチャンスがチャラになっちまうし……そうだな……っ!?)


 どうするべきか考えていると、闇を切り裂いて光が差し込んできた。突然眩しくなったものだから、オースは思わず顔を背けてしまう。


「なんだっ!?」

「おめでとうございます。貴方は自由です」


 光が差し込んできた方向から、テウメの声が聞こえた。


(自由? 俺が……? どういうことだ?)


 その言葉の意味を考えながら、ゆっくりと視線を向ける。眩しかったが、先ほどよりはマシだった。目をすぼめて、テウメに問いかけた。


「自由ってのは、どういう意味だ」

「そのままの意味です。この空間を、貴方の所有物として認めます。そして、魔王様の空間と人間達の住む空間を自由に行き来する権限も付与しましょう」


 そう言うと、オースの元にゆっくりと歩み寄る。そして、額にそっと触れた。刹那、電気が走る感覚を覚える。


「いっ……!」

「はい、これで付与できましたよ。良かったですね~。1つ、成長した証ですよ」

「ビリッってしただけなんだけど……」


 本当にそんなことができるようになったのか、感じた衝撃があまりにも小さくて不安を覚えた。


「細胞に処理を施したので、それくらいのことはあるでしょう。これで、貴方は水晶は卒業ですよ」

「ってことは、つまり……」

「自分の足で、見つけなければいけなくなるということです。町を移動するということですから、戦う回数も増えるでしょう。そして、いずれは神聖騎士とも戦うことになるでしょう。リスクと隣合わせになりますが、頑張って下さいね」

「はっ! 余裕だわ。それくらい」


 仕事の成果を認められ、第2段階へと進むことを許された喜びを隠しきれない。


「ですが、今までずっと小さな世界で生きてきた貴方を、突然広い世界で1人歩きさせるなんて……不安です。なので、この子をサポートとしてつけます」


 調子に乗るオースを見て、確信を得たように言った。


「あ?」

「とてとて~!」


 その言葉を理解するより前に、白い生き物がテウメの大きな尾の中から飛び出してくる。


「なんだ、この白くて小さい毛むくじゃらは!?」


 うさぎのような耳が生えていて、オースの周りを無邪気に飛び回る。状況についていけないオースは、視線でその生き物を追いながら尋ねた。


「とてとてちゃんです。可愛いでしょう?」

「可愛いとかマジどうでもいいんだよ。なんで、サポートがいるんだ、この俺に! お前らにはいねぇじゃん!」


 テウメやリュウホウの周りを、とてとてと言いながら飛び回る変な動物は見たことがない。成果を認められたのに、何故自分だけがそんな扱いをされるのかと不満をぶつけるも、彼女はあっさりと切り捨てる。


「貴方は、いつも無謀なチャレンジをする。仕事の成果は認めますが、無理に力を引き出すなという言い付けを破りました。これから、より厳しい戦いをすることになるでしょう。その度に、無理をされては困ります。しかしながら、何もできず毎回死にかけというのも困ります。ですので、この子がいるのです。この子は、サポート型の魔物。契約によって、その細胞を変化させて主となる人物に足りない能力を補うことができるのです」


(それを言われると……反論の余地ねぇぜ……)


 能力を無理やり覚醒させると、細胞や能力に甚大なる影響が残る。その辛さは理解していたし、気をつけるようにと言われていた。オースとしては、覚醒させるつもりは毛頭なかったのだが、結果としてそうなってしまった。

 そのような事態を防ぐための、とてとてちゃんらしいが、その風貌故に不信感が拭えない。


「こんな奴に……そんな大層なことができんのかよ」

「できますよ? 契約してみれば、すぐにわかることです」

「契約!? 紙にサインでもするのか!? 何にしても嫌なんだが」


 幸いにも契約の経験は既にあるが、彼女の言う契約はどうにも恐ろしく聞こえる。にこにこと笑うその裏に、いつも何かが隠れている。


「どちらにせよ、貴方の仕事の範囲が広がることに変わりはありません。自分で自分を傷付け、追い詰めたいかどうかですね。別に、貴方にとって悪いことではないと思いますよ? あ、怖いならいいんですよ。怖いなら」

「……怖くねぇよ! 契約くらいやってやるわ!」


 安い挑発に乗せられ、思わずそう口走ってしまった。根本的な成長は、まだ当分先のようである。


「そう言ってくれると思っていましたよ。では、早速――」


 言質を取った彼女は、指輪に触れる。すると、指輪に鋭い針のようなものがいくつか現れる。そして、容赦なくオースの頬に突き刺した。


「いっ!? 何するんだよ!」


 間もなく、その僅かな傷は塞がった。彼女は指輪についた血液を確認すると、指でそっと撫でて、とてとてちゃんの口の中に入れた。


「貴方の血液を……とてとてちゃんの口の中に。それと――」

「とてっ!」


 さらに、同じようにしてとてとてちゃんの体を傷付けると、どろりとした銀色の液体が付着した指輪を差し出した。


「とてとてちゃんの体液を、貴方に」

「え? これ……舐めるの? マジで?」


 悪趣味過ぎる展開に、オースは怖気づく。甘いスイーツのような味でもすればいいが、見た目からしてそんなはずはない。


「とてとてちゃんも飲んだでしょう? 体液とは言っても、そんなに汚らわしいものではありませんよ。さあ!」

「くっ……!」


 受け入れた手前、撤回することなどできず、オースは恐る恐る付着した体液を舐めるのだった。


(なんだこの味は、不味くもないが……上手くもない!)


 不思議な味が口いっぱいに広がる。美味しい、不味いに偏らないその味に戸惑いながら喉に流し込む。


「お味はどうですか?」

「良くないし、こんなもんを体を入れるってことが気分悪い」


 何とも言えぬ気持ち悪さを訴えるオースに、下の方から明るい声が響く。

 

「でも、これでお話できるね! 兄様!」

「別に、お前なんかと話をするつもりは……って、ふわっ!?」


 普通に会話をしかけた所で、その相手に気が付いてオースは驚愕する。


「あぁ、これでとてとてちゃんの言葉が理解できるようになりましたね」

「ちょっと頭が混乱してんだが……兄様ってなんだよ!?」


 先ほどまで、とてとてとしか言っていなかった相手の言葉を理解できるようになった上に、「兄様」という呼び方。受け入れることは、到底できなかった。


「管理者権限により、そのように登録されてるよ」

「ふざけんな! 早く変えろ!」


 怒りを露わに、テウメに詰め寄る。


「あらあら、どうしてですか? 貴方には、兄としての誇りがあったじゃないですか。そう呼ばれることが、モチベーションに繋がるかなと思いまして。勇者様のことが脳裏をよぎって」

「萎える! 変えろ! 契約者は俺だろうが!」


 気が付けば、彼女の胸ぐらを掴んでいた。そんなことで、彼女が怯むはずもないと理解しているのに。


「作ったのは、私ですから。ウフフ……」

「こんなことだろうと思った! 絶対になんか裏にあんだよ……あーくっそ!」


 余裕綽々な笑顔を見て、我を取り戻したオースは手を離す。ただ苛立ちだけが、心に残り続ける。


「まぁ、やるべきことはやったって感じですかね。少しずつ貴方が成長しているのは確か。とてとてちゃんと共に、魔王様のために頑張って下さい」


 彼女はそう言うと、背を向けて、切り開いた空間の裂け目から去っていこうとする。


「あ~くっそ、誰がこんな……」


 存在全てが気に食わない生物に、オースは視線を落とした。


「うわっ! 何するの! 兄様! わーっ!?」


 オースは、とてとてちゃんと呼ばれる生物を手に取って投げ捨てた瞬間。


「あぁ、言い忘れてたんですが……貴方達は一心同体です。守り合う存在。どちらか片方の痛みは、両方の痛みになります」


 テウメは、そう警告した。が、手遅れである。とてとてちゃんが床に叩きつけられると、同じ痛みがオースを襲った。


「いってぇーーっ!」

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