天ノ声ノ導きノまマニ
「――数値に問題はありません」
テウメは、モニターに表示された数値を確認しながらそう告げた。
「つまり、それは……」
「えぇ、復帰です。おめでとうございます」
「よっしゃ! 今度こそ……魔王様のために!」
勢い良く飛び上がり、体中に繋がる管が抜け落ちる。高揚感から、痛みは感じなかった。
「浮かれて、同じような過ちを繰り返さないようにして下さいね」
落ちた管を拾いながら、戒めるように言った。
「うっ……わかってるよ。だから、お前に色々と教えて欲しいって言ったんだろ」
空いた穴が閉じていくのを眺めながら、オースは恥ずかしそうに呟く。
「ふふ、向上心があるのは良いことです。では、早速教えて――」
「本当か!?」
話を被せられたテウメは、不快感を露わに咳払いをして続ける。
「早速教えていきたい所ですが、ある程度仕事を終わらせて貰わないと。話は最後まで聞いて下さいね。そういう所から、ですよ」
「うぅ~あ゛あっ!」
痛い所を突かれ、オースは髪をかき乱す。
「ほら、イライラしてないで。水晶を使って、ターゲットを探し出して下さい。感情に左右され過ぎるのも――」
「もー! わかったっての! 何回も何回も言ってくんのやめて!?」
「はぁ……」
(ため息つきてぇのは、こっちだっての)
色々と思う所はあったが、とりあえず水晶を手に持って、近くにあった椅子に腰掛ける。
「で、今回はどこの国で探せばいい訳?」
「特に指定はしません。水晶が活用できる所ならば、どこでも。魔王軍の名を汚す無礼者を炙り出して下さい。見つけ出したら、私の特別授業を行います。まずは、礼儀作法にしましょう。正しい在り方というものを教えて差し上げます。敬うべき魔王様への無礼は見過せませんからね。ですから、頑張って下さい。もうこれくらいのこと、時間をかけずにできますよね?」
彼女は白髪をなびかせ、満面の笑みで問いかける。当然のように言ってくるが、水晶は仕事を簡単にしてくれる訳ではない。逆に、手間もかかっている可能性もある。
「……結構、大変なんだぞ? 何でもかんでも拾ってくるから」
「あらあら、できないんですか?」
不満を漏らすと、彼女はわざとらしく煽ってくる。
「できねぇとは言ってねぇだろ。できねぇとは!」
オースに、煽り耐性などない。煽られれば煽られるまま、いとも簡単に手玉に取られてしまう。
「そうですか。じゃあ、頑張って下さい。私、ここで待っていますから」
そう言うと、オースの隣に腰掛けて足を組んで観察体勢に入る。
「え? お前、仕事は?」
「これが、私の仕事。前回のことがあります。取り返しのつかないことになるんじゃないかって考えると、不安で不安で……業務に支障が出てしまうんです。だから、いっそこの場で見届けたいんです。貴方の仕事っぷりを。これは、再テストです。しっかりと評価し、これからどうするかを考えていきたいと思います」
「これから……どうするか」
その言葉が、オースにさらなる緊張感をもたらす。この仕事で、テウメの期待に添えなかったら――と肝が冷えた。
「またあのような失態をするようなら、貴方を前線から外すことを検討し、魔王様に相談しようかと考えています。私は、貴方を助けるために魔王軍に属している訳ではありませんから。自分の過ちくらい、自分で拭えるようになってくれるなら、話は別なんですけど。それにすら気付けないってことを考えると……」
(俺が不甲斐ないばかりに……俺は、まだ何もできてねぇのに。きっと、魔王様を失望させてしまう。そんなの駄目だ、絶対! なら、俺にできることは、1つだけだ)
「……やってやるよ。さっさと見つけ出して、礼儀も身につけて、仕事もこなして、自分のことは自分でできるように! そして、お前にギャフンと言わせるために!」
オースは決意を露わに、そう宣言する。
「いえ、魔王様のためにやって下さい」
しかし、テウメはそれに乗ることなく、至って冷静に言葉を返した。
「当たり前だ! 当たり前だから、あえて言わなかっただけだ!」
(ったく、揚げ足取りみたいなことしてきやがって)
苛立ちながらも、オースは水晶に目を落とす。
(まぁ、いい。さっさと見つけ出してやる)
「ふぅーっ……」
気持ちを落ち着けるため、オースは大きく深呼吸する。
(この水晶は、膨大な情報量だと機能しなくなる。ざっくり、悪事を魔王軍に押し付けてる奴で探すと「探索不可」とか出てくるからな。まずは、国を絞るか。さて、一体どこにするか……)
オースは、そんなに外国のことに詳しくない。知っているのは、ランプト王国と仕事で行ったことのある国くらい。大事な場面で、行ったことない場所に行く選択は難しい。
(ランプトは駄目なんだよな。機能しねぇことの方が多いからって……となると、サリーサンかラグランタイアか? どっちにしようかねぇ。別に、どっちでもいいからなぁ。そうだ! アレやるか)
どちらにするべきか悩んでいる時、有効な手段があることを思い出した。
オースは、右手をサリーサンに、左手をラグランタイアにして心の中で唱え始めた。
(1、2……どちらが、俺にラッキーをくれるのか。天の声の導きのままに)
村では定番の言い回し。個人でそれぞれ違いはあれど、大筋は同じだ。ちなみに、オースのものは父親がよく言っていたものだ。
そして、選ばれたのは――。
(ほう、ラグランタイアか。じゃあ、早速……ラグランタイアで、魔王軍に悪事を押し付けてる奴!)
いつものように念じてみるが、期待はしていなかった。いつも、最初はどうでもいい駄弁りが当たるのだ。
(まぁ、どうせ最初は……)
それでも、一応確認はしておこうかと観察を続ける。水晶に映し出されていたのは、室内で編み物をしながら談笑する女性達であった。
『――ねぇ、知ってる? 例の病院の話』
『例の病院? 何それ?』
『ほら、隣の家のおじいちゃんのこと聞いてない? キャンバーディグ病院に検査入院して……死んじゃった』
『あぁ……びっくりしたよね。あんなに元気だったのに』
『私ねぇ、聞いちゃったんだ。あの病院の噂』
『噂?』
『あの病院には、魔王軍の手先がいるんだって。あの病院、そろそろ退院できるかもって人が急に亡くなるってことが続いてるんだって。それも、魔王軍が現れてから!』
『う~ん、でもさぁ、最近、魔王軍がやってるって言われてた事件は、普通に人がやってたって結構あるじゃん。逆に、魔王軍が助けて被害者が増えずに済んだとか見たよ?』
『それはそれ、これはこれだよ。そういうの、あんまり大きな声で言わない方がいいと思う。魔王軍の思考にかぶれた異端者って扱いされることあるんだから』
『勘違いしないで! 私は、別に魔王軍を肯定してる訳じゃないから。ただ……その、なんか気持ち悪くない? ちゃんと調べればわかることかもしれないのに、最初から魔王軍のせいにするって。犯罪者が野放しにされてるってことだよ? 人間が人間を殺したり、陥れたりしてるんだよ。私は、ちゃんと考えるべきだと思うんだけどなぁ』
『じゃあ、実際に潜入してみればわかるかも?』
『潜入って、どうやるつもり? あんた、看護師でもないのに』
『大火傷するとか、骨折してみるとか?』
『ばっかじゃない? やめときな』
『ウソウソ! する訳な~い。怖いもん』
「――一応、確認なんだけど、病院で実験とかやってねぇよな?」
「失礼な。する訳ないでしょう。無意味じゃないですか。つまり、これは黒ですよ。珍しいですね。当たりをすぐに引けるだなんて」
「今回の俺は違うんだよ」
「まぁ、そういうこともあるでしょう。では、1度仕事は置いておいて、授業を始めましょうか」
オースは誇らしそうにするが、そこで彼女は褒めなかった。軽く受け流し、次の段階へと話を進めていくのだった。




