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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第八章 ソノ天使ハ、命ヲ操ル

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私ハ魔王様のタメニ在ル

 体調は万全ではなく、身を休める日々。オースは、いつもの空間で携帯を眺めていた。


(暇だからかな。気が付いたら、携帯をいじってる。スポットって奴がねぇから、検索とかは全然できねぇが……)


 淀む陰湿な空間ながら、慣れるとリラックスして過ごすことができる。加えて、今は持ち帰った特別な物がオースにはある。暇を潰すには、もってこいの物が。


(まさか、これがカメラになるとは。説明を受けた時は、半信半疑だったが……しっかりと写ってるんだよな。しかも、なんか写真の雰囲気を変えられる。これをして何になるのか、俺にはさっぱりだが……)


 折角だからと、シアンに教えて貰った機能を色々と試して遊んでいた。その中で、オースに刺さったのがカメラ機能だった。


(どうせ、暇だ。使い方を覚えるには、使うのが1番だしな。しっかりと使いこなして、今度あいつに会った時にビビらせてやろう)


 撮り溜めた写真を眺めながら、オースはにやりと笑う。


(今日は、この絵をどういう構図で撮って、どういう雰囲気にするか……)


 そして、目の前に置いたキャンバスに視線を向けて、構図を考える。


(前は斜めから撮ったし、今回は正面からか? いや、何枚か前にも正面から撮ったような……まぁ、いいか! 今日は、正面から撮りてぇ気分だ)


 携帯を構え、その絵を正面から撮影した。どんよりと暗い空間は、その陰惨な絵を引き立てる。


「いい感じだ。じゃあ、これを……」


 続いて、写真加工の作業に入ろうとした時、背後に馴染みのある気配が現れたのを感じた。


「へぇ、いい暇潰し方法ですね。そうですね……最初の頃に比べたら、それっぽい写真になってきたんじゃないですか?」

「……はぁ。なんで、知ってんの」


 水を差され、オースの気分はすっかり落ち込んだ。


「魔物の行動を、管理する私が知らないとでも?」


(え、それって……俺が、俺じゃない体で外出してることも知ってる?)


 背筋がぞくりとした。逆らうつもりは毛頭ないが、把握されるという恐怖があった。それに、魔王との約束を知らず知らずの内に、反故にしてしまっていたのではないかと。


「しかし、予期せぬことが起こっています。何故、貴方が携帯を持っているのでしょうか? 絵は、あの時持ち帰った物ですよね? でも、それはどこで? それは、庶民には迂闊に手を出せる物ではありませんし、貴方にはお金を渡していません。行動に、それを手に入れた履歴が見当たらなかったのですが」


(そうか、あの体は、テウメの管理する魔物じゃねぇんだ。魔王様が作った魔物……人形だから、か? どうしよう、どう誤魔化せば……魔王様とのことは、約束だから言えねぇし……)


 あくまで、テウメが把握できるのは、彼女の作った魔物の行動のみのようだ。だからこそ、彼女は直接尋ねに来たのだろう。


「それは、よくわかんねぇけど……魔王様に誓って、俺は変なことやってねぇから!」

「ううん……」


 彼女は納得しきれない様子で、小首を傾げていた。


「そ、それより! 俺、テウメに聞きたいことがあったんだよ!」


 これ以上追求されると、ボロを出してしまいそうだった。オースは、話を変える。


「聞きたいこと?」

「今……じゃなくてもいいから、教えて欲しい。礼儀とか……相手の揺すり方とか」

「……どうしてでしょう?」


 何を企んでいるのかと、疑いの眼差しを向けられる。それを跳ね除けるようにオースは言う。


「全ては、魔王様のためだ! 今回のことで、俺は力不足を思い知ったんだ。少しでも多く色んなことを身に着けて、それを武器にしていきてぇんだよ! 頼む!」


 その瞳には一点の曇りもなく、彼女のオースを疑う気持ちは晴れた。


「いいでしょう。その忠誠心を評価します。少し後になると思いますが、助力しましょう」

「マジか! やったぜ!」

「……骨が折れそうですが」


 喜ぶオースを尻目に、彼女は空間を移動するのだった。


***


 移動したテウメが現れたのは、魔王のいる空間。彼女は即座に跪き、魔王に声をかける。


「魔王様」

「おぉ、テウメか。最近、忙しそうじゃのぅ」


 彼女は立ち上がり、にこやかな笑みを向ける。


「いえ、これくらいのこと、魔王様のことを想えば当然のことですわ」

「しかし、無理は良くないぞ。テウメも、休暇を取れば良い。リフレッシュは大事じゃ」

「いいえ、私にとって魔王様に尽くすことがリフレッシュです。何もしないことが、1番の苦痛なのです」

「うむ……強情じゃのぉ」


 何かと働き詰めな彼女を、魔王は労る。ありとあらゆる業務をこなす、彼女の体を心配していた。


「そうでしょうか?」

「して、何用か? まぁ、用もなく訪れてくれてもわしは一向に構わぬが」


 その問いかけを受け、彼女は表情を引き締め答える。


「アレについて、ご報告があり参りました。アレの体の状態ですが、この空間にいるお陰で良くなってきています。もうすぐ、仕事に戻すことも可能になるでしょう。魔王様への忠誠心も、問題なく作用しております。成長速度は、想定の範囲内です。じき、私達の求める働きを自然とこなすかと」


 先ほどの発言から、そのように結論付けていた。話を逸らそうとする怪しさはあったが、語る言葉に嘘はなかった。


「ほう、楽しみじゃの! 勇者達の絶望が見られる日が待ち遠しい!」

「それで、魔王様……1つよろしいでしょうか?」


 そして、彼女は話の本題に入る。


「ん? 何じゃ、言うてみよ」

「最近、アレが夢中になっているおもちゃについて何かご存知ではありませんか?」

「おもちゃ? オースは、そんなに無邪気に遊ぶ物を持っていたかの?」

「それは、あくまでものの例えで……アレには、使いこなせるような代物ではないように思いまして。それに、どうやって手に入れたのかと。あの携帯を」

「携帯……おぉ!」


 魔王は、ぽんと手を叩く。オースが携帯を持っている理由は、魔王が知っているようだった。


「ご存知なんですね」

「良いじゃろう? 携帯は、わしがプレゼントしてやったのじゃ」

「しかし、魔王様から頂いたことは言いませんでした。魔王様から頂くなど、今のアレにとっては身に余る光栄。言いふらしたいくらいの誇りでしょうに」


 彼女は、感じた不審な点を伝える。万が一のこともある。おかしいと感じた所は、洗い出しておくべきだ。


「うむ……それは、わしが内緒のプレゼントと伝えたからじゃろう。自分の思いよりも、わしの方を優先するとは素晴らしいことじゃ! 内緒は何となく言うてみただけじゃったが、律儀なことじゃのう」


 魔王は少し間をおいて、関心した様子で答えた。


「どうやって、手に入れたのですか?」

「わしの魔物が得た、いつしかの戦利品じゃ。オースが暇を持て余しておるようじゃったからの、くれてやった。とはいっても、この場所ではただの金属の塊になってしまうようじゃが」


 魔物は、テウメの生み出した魔物と魔王の生み出した魔物で構成されている。現在は、テウメの生み出した魔物が大部分を占めており、魔王の魔物は戦闘には関わらない。魔王が、たまに戯れで使役するするくらいのもの。

 そして、魔王の生み出した魔物は、テウメの管理外にある。


「そう……ですか」

「何を気にしておったのじゃ?」

「何か良からぬ手段で手にしていたらと……そのような事態は起こらぬよう管理しているつもりですが、万が一のこともあります。植え付けた忠誠心が、正常に作動していない不具合が起こっているのではないかと。メンテナンスも実施しましたし、これからも定期的に行う予定ですが、限界はあります。とりあえず、そうでないのなら……安心しました」


 彼女は、ほっと胸を撫で下ろす。オースは、前例のない存在だ。常々、おかしなことが起こっていないか注意を払っているつもりだが、不安で仕方がないのだ。魔王の計画が、頓挫するようなことになってしまったらと。


「それは、それで愉快じゃがの」


 しかし、そんな不安をよそに、魔王は楽しそうに笑う。


「魔王様……!」

「ハハハハ! 仕方あるまい? そう感じるのは、わしの本能。何にも期待していない者が、わしを裏切るために暗躍したりはせんじゃろう? 自分や誰かの欲望を叶えるために、足掻く者は素晴らしい。聞くだけでも、心が滾る。それが、実際、わしの足元で起こることを想像すると楽しくなってきてしまうのじゃ」

「私としては、気を張って仕方がないのですが……」

「少なくとも、オースとおるとわしの体が力を得ていくのを感じる。つまり、あやつは死ぬためにわしを裏切ろうとはしておらぬ。生きるために、わしを裏切る可能性はあるかもしれんがの!」

「理解はしていますが、共感できません。折角の駒が、魔王様に仇なすなんて……」


 少しでも最悪の事態が起こる可能性を減らすため、忠誠心を植え付けている。オースは、練り直された計画の根幹に深く関わっている。それを失うことを考えるだけで、恐ろしかった。


「フッ、近う寄れ、テウメ」


 すると、魔王は優しく呼び寄せた。


「……魔王様」


 彼女は、すぐに駆け寄って、魔王にそっと身を委ねた。大きな尾が、ゆらりと揺れる。


「テウメがそばに来てくれると、やはり力がみなぎるのう。わしのため、尽くしたいという想いをひしひしと感じることができる」

「あぁ、なんて有り難いお言葉……」


 まるで、彼女は愛でられる猫のように目を細めた。


「テウメの感じる不安や恐れ、それもわしの源となる。これからも永遠に、わしのために在ってくれるか?」

「勿論でございます。魔王様に肉体を頂いた日から、ずっと……私は魔王様のために在るのですから」


 夢のような時間にまどろみながらも、即座にそう答えるのだった。

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