冷エ切らヌ愛なラバ
「――で、話を少し戻すけど」
(全然見えなかったんだが……何で切られた? 魔術? いや、そんな感じじゃなかった。ほんの一瞬だが、金属っぽい煌めきが見えた気がする。攻撃の予備動作が全然なかった。リュウホウとかとは、また違う。しかも、こいつ何事もなかったみてぇに……)
シアンの手元には何も握られていないが、両手にはいつものようにガントレットがはめられている。ただ、それだけ。オースは、それを武器を扱う上で必要な物だと捉えていた。騎士や兵士も、似たような物を身に着けていた記憶があったのだ。彼らの共通点は、武器を扱うこと。故に、特別な物に思わず、ガントレットに秘密があると気付くことはできなかった。
「どうして、そんなに情報を欲しがってるの?」
「え? あ、あぁ……」
動揺したオースは、素直に応じるしかできない。
「シャーロット=リーって奴の事件のことが、気になってて……」
「あー! ヤバいよね。あたしも、びっくりしちゃった。あのシャーロットが、女性連続失踪事件の首謀者かもしれないってね。流石のアマラでも知ってるんだ」
シャーロットの名前を出すと、シアンは半笑いで言った。
「あ? どういう意味だ?」
「だって、常識にも疎いし、色々なことをあたしに聞くじゃない。そんなアマラが、そんな時事ネタを知ってて、かつ興味まで持つなんて意外だなぁって。ファンなの?」
「……馬鹿にするのも大概にしろ。俺は、俺の常識の中で生きている。俺の知らないことは、知る価値がないから入ってこないだけだ。あと、ファンじゃねぇ」
「はいはい、そうですか」
相変わらずの傲慢さを、こなれた様子で受け流した。
「で、お前は何を知っている?」
「事件については、記事に書いてあることくらいしか知らないわよ。いくら有名な人とは言え、他国で起こったことだもの」
「そうか……」
事件に関して言えば、彼女よりもオースの方が詳しい。そこに関わり、本人とも直接言葉を交わし――殺した。恐らく、どこにいる誰よりも詳しいだろう。ただ、その後の経過はどこにいる誰よりも知らない。どうなっているかわからず、不安なのだ。そんなオースの表情を見て、彼女は励ますように話し出す。
「でも、まぁ……一応、これでも商人やってるからそれなりに情報は入ってくる。事件じゃなくて、彼女自身のことになるけど。それでもいいなら、聞かせてあげてもいいかもよ?」
「……いいだろう。上から来たのは、目を瞑ってやろう。言ってみろ」
「お互い様よ。えっとね、彼女の描く絵は独特で、人によって好き嫌いがはっきりしてたのね。特に、芸術界の重鎮みたいな人達は毛嫌いしてた。だから、おぞましい絵を描く彼女を魔女と呼んで、何かと差別したの」
この世界において、魔術の実力もあり功績を残した者はその尊敬の念を込めて「魔術師」と呼ばれる。しかし、一方で人の道から外れるような行為をした者や魔術の発展を脅かした者は「魔女」と呼ばれ、人々から忌避された。故に、「魔女」は、軽率に言ってはならない貶し言葉。それくらい、「魔女」という言葉には力があった。けれども、権力争いや自分のプライドを守るために、その言葉で特定の誰かを貶めるために使われることがあった。
「まぁ、財力も地位も名声を元から持っている彼女には、気にもならないことだったみたい。グループ展とか公的な支援を受けられないことなんて、大したことじゃない。それが、余計に気に食わなかったのね。彼女の一族と手を組み、芸術活動をできないようにしようとした。彼女は、実の家族にすら疎まれていたみたいだから」
(確かに、あの絵は怖い。俺の知ってる絵とは全然違った。嫌いな奴は嫌いだろうな。でも、まさか……実の家族に嫌われていたとは。どこまで複雑な家庭環境なんだよ、あの女)
どこまで行っても敵だらけ。八方塞がりだ。オースが殺さなくても、遅かれ早かれ誰かに殺されていたのではと思ってしまう。
「だけど、計画は頓挫した。理由はわからない。でも、こんな噂があるの。ラグランタイア国王は、シャーロット=リーの描く絵が好きだって」
「それって、つまり――」
「国王は圧力をかけた。彼女の芸術活動が奪われてしまったら、絵を見ることができなくなってしまうから。流石の公爵家も、流石の重鎮達も国王には抗えない。結果、彼女の芸術活動は守られた……みたいなね。これが、真実かどうかはわからない。噂なんて、誰にでも好き勝手できるから。もし、仮に真実だったとしても、国王は隠すでしょうね。彼女との繋がりは、国王としての立場を揺らがすかもしれないから」
「そういう……ものなのか」
あくまで可能性の話だが、そこには虚しさがあった。
「そういうものよ。作品と作者は、イコールで結ばれることが多い。もしかしたら、これから彼女の作品は価値を失ってしまうかもしれないわね。これから、少しの間は。作品を持っていると、彼女と同じ人間のように思われてしまうかもしれないから」
(じゃあ、俺が貰ってった最期の作品もただのゴミに? 何か使い道があればって思ったのに……)
「好きになって手に入れたのに、その程度の思いなのかよ」
「価値があるから欲しいっていう人もいるわ。でも……本当に好きな人は、愛し続けると思う。愛するものは、そう簡単には捨てられない。この騒動で、冷え切らぬ愛ならば、ね」
(……そうか! 使い道は、まだある。噂が、本当ならの話だが。確かめてみる価値はあるな。でも、本当だったとして……どうすればいいんだろうな? こういうことは、テウメとかの方が得意そうだ。後で、ちょっと相談してみようかな……)
シャーロットが最後の作品として発表するはずだったものを、オースは思う所があって持って帰った。あの絵に価値がなくなってしまっても、彼女の作品を愛する者には有用かもしれない。
「――ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「え? あ、あぁ……ごめん。ちょっと、考え事してた」
「ちゃんと聞いてなさいよ。もう興味なくなった?」
彼女は、頬を膨らませて不満をアピールする。
「違う。興味はある。他に、何か知ってることは?」
オースは慌てて、他の話もないか尋ねる。
「う~ん、あ! ちょっと興味深いなって思った話はあるわ。彼女には、子供が6人いるらしいんだけど、その消息が掴めないって。このことについて、彼女は自身の子に手をかけたっていう記事と、彼女の知り合いの下、遠くでひっそりと守られ生きているっていう記事があったわ。ま、どっちもこの携帯で見た記事で、噂をセンセーショナルに書いてるみたいだったけど」
前者は全くの見当違いだったが、後者は偶然かもしれないが、真実だった。
(噂も馬鹿にならんな。推測で書いただけかもしれねぇけど……ちゃんと調べる価値はあるってことか。まぁ、数が多いが……俺は、そこそこ真実を知ってる。だいぶ、ふるいにかけられるだろう)
「じゃあ、俺もこの携帯で調べてみるか」
オースは、箱を開けて早速使ってみようとする。しかし、携帯は真っ黒なままで動き出そうとする気配はなかった。
「おい、これ使えねぇぞ。壊れてんじゃねぇのか?」
「箱に入ってたんだから、電源がついてる訳ないでしょ! ここ、ここ! ここの横のボタンを2回連続で押すと、電源がつくから。というか、そもそもここじゃ使い物には――」
「つけ! あぁ? つかねぇぞ! どうなってんだ、これ!」
言われた通りにやってみるが、押す間隔が空き過ぎて反応しなかった。思い通りにできず腹が立ち、オースは携帯のボタンを激しく連打し始める。
「あー! 壊れる馬鹿! ちょっと貸しなさい!」
シアンは慌てて携帯を奪い、代わりに操作する。そして、携帯の扱い方を厳しくオースに教え込むのだった。




