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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第二章 運命の時

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蝶の魔物

 迎えた翌日の朝、夜を徹して行われた作戦会議も終わり、魔物討伐に出発することとなった。オース以外は皆、大あくびを繰り返している。

 本来は出発を昼頃にする予定だったが、オースがあまりにもうるさく騒ぎ立てるものだから早めたのだ。


「猟銃良し! 刃物良し! 板良し! お日様良し! 絶好の魔物狩り日和だぜ!」


 朝日を全身に浴びながら、武器を楽しげにオースは振り回す。魔物討伐に行ける喜び、しんがりを任せられた喜びがあった。


「はぁ……行きたくない。というか、危ない」

「オースだけだぞ、そんなに元気なのは」


 そんなオースを後目に、村の男性達は大きくため息をついた。


「行くぞー! 行くぞー! 蝶だが蛾だか知らないが、さっさと討伐してやるー!」


 躊躇も制限もなく、思いをぶつけられる。選ばなかった天への憤りと、家族への不満――それらを考えるだけで、気持ちがたぎった。


「あまり調子に乗っていると、大変な目に遭うかもしれんぞ」


 その様子を見た村長が咎めるも、オースは軽く受け流す。


「大丈夫大丈夫! 調子のビックウェーブに乗ってりゃ、魔物も勝手に呑まれて終了だぜ」


(変えてやる。俺にはそれだけの力があると証明してやる)


 素手で、魔物は何度も倒してきた。普段見かける魔物と姿形が違えど、手には武器がある。加えて、それなりの人数もいるからとさらに自信に満ち溢れていた。


「……そういえば、オース。親父さんは?」


 気分も上がる中、何気ないその1言が水を差した。


「あいつが討伐隊に入る訳ねぇ。第1、あの状態だ。無理無理」

「あー……そっか。ま、適材適所って言葉があるからさ」


 明らかにテンションの下がったオースを見て、話を振った男性は困ったように頭を掻いて逃げるように去っていった。


(適材適所か……はっ、便利で生温い言葉だ。つまり、俺はこんな村の討伐隊でどっちゃんがっちゃんしてるのがお似合いってか)


 全てが皮肉に響く。自分という存在が、この村にあることで定義されているかのようだった。


「よし! では、今から魔物討伐のために森に入る! 決して、集団から離れないように! 魔物を見つけても、大騒ぎしないように! 息を潜め、作戦に乗っ取って行動すること! これらを絶対に忘れるな!」

「「了解!」」


 村長の掛け声に合わせ、村の男性達は緊張感たっぷりにそう返答する。それを見て、思わずオースは笑みをこぼす。


(堅苦しいぜ。さっさと魔物見つけて、銃ぶち込めばいいじゃん。ちんたらやってたら、先制攻撃食らうかもしれねぇのに。チキりやがって)


 計画と検討、事前に周到に準備することが苦手なオースは聞くだけでも不快感を覚える。


「気を付けてねー!」

「頑張ってー!」


 オースがそんなことを思っているなど露知らず、彼らは魔物が目撃された森へと向かっていく。残された村人達は手を振って見送った。そして、その輪の中に、オースの両親の姿はなかった。


(ま、家でどんよりしてるあいつらよりはマシか。情けねぇ)


 解決しようとする度胸と行動力。討伐隊の彼らには、少なくともそれがある。見送りにも来れない両親には、ひとかけらもないもの。情けなくて、どこか悲しい。けれど、現実だ。


***


 森に入り、しばらく経ったものの魔物は見つからない。すると、討伐隊の緊張の糸が自然と解けてしまう。


「蝶の魔物って、なんかおっかねぇな」

「見間違いだったらいいけど、絶対にいるんだろうなぁ」


 すると、村長が足を止めて、小さな声でざわつく彼らを咎めた。


「しっ、静かに。魔物は音や光に敏感だって噂があるんだ。なるべく、息を潜めろ」

「「すみません……」」


 はっとした表情を浮かべ、彼らは肩をすくめた。再び、周囲は沈黙に包まれる。

 そして、再び魔物を探して討伐隊は歩を進めた。


(あー、さっさと魔物現れねぇかな。さっとやって、さっと倒す。とにかくなんか思いっきりぶっ飛ばしてぇのに……!)


 不満を抱えながら周囲を舐めるように見回していた時、少し遠くの木陰で何かが動いているのが目に入った。


(なんかいる。魔物か? よく見えねぇ)


 正体までは掴めなかったが、それは暴れているようにも見えた。今すぐにでも駆けだそうと思ったが、脳裏に徹夜の作戦会議がよぎる。


(これで村八分とかなったら、生きにくくなるしなぁ……しゃーなし)


 はやる気持ちをぐっと堪え、足音を立てぬよう先頭を歩く村長の元へと静かに急いだ。


「……何かいる、あっちだ」


 何かがうごめく方へ指を差す。村長の位置から、それがはっきりと見えた。

 

「人? 女か?」

「いや、違う。蝶、蝶の羽だ……!」

「じゃあ、あれが魔物? でも、人に見える……」


 一見、それは人のようにも見えた。だが、その背中に生えている蝶の羽で違うのだと理解する。人の姿をした魔物。これまでの魔物と比べれば、明らかに大きい。

 それを見て、男性達は恐怖で騒いでしまう。だが、それは幸い魔物には届かなかった。何故なら――。


「――なんなのよ、なんなの! あの小娘! こんな意地汚い罠を仕掛けて、このあたしの足止めをするなんて! 見つけたらただじゃおかない! あぁ、もう朝になっているわ。怒られる……」


 その魔物は糸に絡まり、それを解くことに夢中になっていたからだ。独り言にしては大きかったが、少し離れた位置にいた討伐隊には届いていなかった。


(糸に絡まってるのか? なんで? まるで、罠みたいだ。でも、こんな所に人は滅多に来ない。でも、あの糸は人為的に用意された奴じゃ……)


 魔物が気を取られているのは幸運であったが、その状況には違和感を覚えた。


「まだ、こっちには気付いていない。構えろ、誰か今すぐに銃を撃てる者は」


 だが、解決する時間は残されていない。与えられている情報はほぼなく、未知の魔物。魔物と人間、不利なのは人間側。敵が気付いていない、今がチャンスだった。


「俺、行けるぜ」


 待ちに待ち侘びた時間、率先して前に行かないはずがない。報告した時点で、既に猟銃の準備は終えていた。

 

「よし、行け」


 やはりといった表情を浮かべ、村長はオースに討伐を任せる。


(やってやる。すぐにぶち抜いて……終わらせてやる!)


 オースは素早く構え、暴れる魔物に銃口を向けた。恐怖も迷いもな何もない。真っ直ぐに射抜けるはずだった。


「……っ!」

「きゃぁっ!?」


 ところが、狙撃の衝撃で手が震え、魔物を貫くことはなかった。猟銃を扱った経験は少ない、そこまで加味することを忘れていた。

 

「外したか。気にせず、撃て。猟銃を持っている者、全員!」


 そうなることを村長は想定していた様子で猟銃を構え、オース以外の男性達もそれに続く。そして、一斉に射撃を始めた。


「何!? 何なのよ、急に! あぁ、人間……人間の仕業ね! こんなくだらない物を使うのは、弱者しかいないわ! よくも、よくも……あたしの羽を!」


 乱雑であるが、数は確かだ。いくつかの弾が、魔物の羽を貫いた。


「こっちに来る!」

「気持ち悪いっ! あっちへ行け!」


 それでも、魔物は倒れなかった。それどころか、立ち向かおうとしてきた。


(そこら辺で見る魔物と違う。くそ、あの時に俺がちゃんと隙を突いて撃てていれば……! ここで、俺が決めなきゃ男が廃るっ!)


 自分の予想通りにいかなかったことは、全て失敗。そのままで終わらせるなどできない。オースは責任を感じていた。

 弾を込め、再び魔物に構える。徐々に迫り来る魔物。暴れていた先ほどよりは、こちらに向かってゆっくりと進んでくる今の方が狙いが定めやすかった。無数の銃弾が、動きをせき止める役割を担っていたのだ。


「食らえ! くそ魔物っ!」


 強い覚悟の元、放たれた銃弾は見事、魔物の左目に命中した。


「ぎゃぁぁぁっ! 痛い、痛いっ!」


 魔物は目を押さえ、叫びながら――消えた。


「よくやった、オース!」

「目を撃つなんて、凄いじゃん!」

「ま、まぁな? ハハハ……」


 彼らは銃を放り投げ、見事に決めてみせたオースを囲い祝福を送る。とりあえず、オースは笑ったものの内心は晴れやかではなかった。


(でも、倒したようには見えなかった。逃げられた感じ……いなくなったならそれでいいのか……? 本当に?)


 無数に転がる銃弾が、ころころと空虚に転がっている。それを見つめると、何とも言えぬ不安感に襲われるのだった。

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