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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第七章 魔女ノ目指しタ芸術ノ果テ

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死ハいつだッてそコにいタ

 目を開けると、そこは電子音が響く空間に戻っていた。


「哀れ……俺が?」


 呟いた言葉は、現実で独り言として漏れる。


(何を言ってるんだ? 俺は、哀れじゃねぇぞ。哀れなのは、死んだてめぇの――)


「何、ぼーっとしてるんですか。ほら、貴方。そこに寝転がって下さい」


 テウメは、いつの間にか先程の椅子に腰掛けて何かの作業をしていた。まるで、何事もなかったかのように。


「え? なんで俺? 俺より、あの女を……って、あの女は!?」


 振り返ると、そこに横たわっていたはずのシャーロットの姿はない。


「あぁ、彼女ならあちらに」

「うぉっ!? ほんとだ……なんで? 情報取るんじゃねぇのかよ」


 テウメの指差した先で、彼女は保管されていた。透明なケースの中で、液体に浸され安らかに目を閉じている。壊れた体からは、もう出血はない。まるで、そこだけ時が止まっているかのような奇妙さがあった。


「聞きたいことは聞けたので、ほぼ用済みなんですよね。本体はあれば後からでもできますし、焦ることはありません。それに、遺体の状態が悪いので……流石に、このまま返す訳には。他者に、貴方の姿が目撃されてしまっていますし、あんな残忍な姿で発見されたとなれば、魔王軍の悪い噂に拍車がかかる未来しか見えませんので」

「あ~……あいつらね」


 シャーロットの城に乗り込む際、体をコピーさせて貰った2人組。少女の方には手出しはしていないが、男性の方は炙って軽く脅した。あの間に、コートの背面に刺繍された魔王軍を示す紋章を見られている可能性は大いにある。


「彼女らをシャーロットの被害者にしなかったことが、いいように作用してくれればいいのですが。こればかりは、わかりません。人の心というものは難しいですから。私ができることと言えば、シャーロットさんの遺体を安置するくらいのことですね」

「殺せば良かったのか? それくらいしなけりゃ、やっぱり――」


 彼女は、善人だと感じ取った。ここで殺すのも、これから殺されるのにも違和感しか抱けなかった。オースとしては、体が欲しかっただけ。戦闘員でない者から無意味に命を奪うことは、魔王軍の方針にも反するし――と決めたことだったが、結果としてテウメを悩ませてしまうことになった。間違えていたのかもしれないと落ち込んだが、彼女は即座に否定した。


「いいえ、彼女らは戦闘員ではありません。あの従者の方は、少々攻撃的ではあったようですが……それでも、魔王軍から見れば一般人。むやみに、殺害することはあってはなりません。あそこで、彼を殺さなかったのは評価に値します。今回の数少ない評価ポイントでした。もし、殺害していれば……その事実だけが独り歩きしていきますからね。どれだけ、あちらが手を出してきても悪いのは私達になってしまいますから。殺さずしてどうにかできるのであれば、その方がいいに決まっています。まぁ、権力者相手に揺さぶりをかける際には……ね」

「ハハ……」


 意味ありげな笑みに、思わず愛想笑いを返してしまう。もし、あそこで殺していたら、もう2度と仕事に携わらせて貰えなかったかもしれない。こればっかりは、あの少女の隠し切れない善人感に感謝するしかなかった。


「で、その際に違和感はありませんでしたか?」

「違和感?」

「ほら、彼女らをコピーした後のことです。例えば、眠たいなとか倦怠感とか」

「あぁ! そういや、あの後から体がおかしかったんだ。能力をいっぱい使ったからなのか、それとも新しい能力を――」


 その時の感覚を思い出し、オースは考察を巡らせようとしたが、それを彼女は遮る。


「能力が目覚めたばかりなのに、次から次へと能力を使ったからですよ。魔物細胞は素晴らしいですが、完全ではありません。特に、新しい能力を覚醒させたばかりの時は」

「えっと、どういう意味?」

「貴方にも、わかりやく説明するなら――」


 テウメは、モニターに映像を表示させる。そこには、可愛らしいイラストと図があり、彼女の言葉に反応するように動き出す。


「細胞には、能力を収める箱のような部分があります。新たな能力が目覚める度、その細胞が分裂します。分裂したばかりの際は、当然ながら元の細胞は半分のサイズに、生まれたばかりの細胞も半分です。その状態で能力を発動させると、負担がかかって……必然的にパフォーマンスに影響が出ます。貴方の体は、よく耐えたものですよ。ですが、心配です。よって、点検を行います」


 彼女の目が、怪しく輝いた気がした。ぞわり、と体全体に寒気が走る。


「俺の体を点検だと? なんか、怖いんだが……」

「いいから、そこの台に寝転がって下さい」


 待ち切れないといった様子で、近くにある台を指差す。オースに、拒否権などない。


「……わかったよ、もう」


 仕方なく、その台の上に寝転がると、冷たさが体全体を包み込む。


(冷たっ!)


 瞬間、オースの体を鉄製の拘束具が縛る。


「ぎゃっ!? 何だよ、これ!?」


 体を動かそうとしても、拘束具が固く微動だにしない。


「暴れられては困るので。少し――痛いですから」

「痛いって、別にそれくらいで暴れたりなんか……ぐぅっ!? だっ!」


 全身に、痛みが走った。気が付けば、管が全身に刺さっていた。刺さった場所には穴が空き、血が溢れてくる。魔王の空間に戻ってきたこともあり、魔力も回復してきている。が、まだ本調子ではない。


「ほら、暴れましたよ」

「馬鹿か!? 滅茶苦茶痛かったぞ! なんだ、この管は!」

「細胞を検査するのに必要なものです。破損箇所はないかとか、予期せぬ変化を起こしている部分はないかとか……異常を発見しやすくなるんです」


 そう言うと、テウメは小さい数字と文字が羅列するモニターを眺めて、険しい表情を浮かべる。


「ど、どうなってる……?」


 恐る恐る尋ねると、彼女はモニターを指差しながら解説を始める。


「細胞全体の破損はありませんね。ですが、やはり能力を司る細胞が通常とは異なる数値です。特に、1番最初にある能力の数値が高くなっています。これは、再生能力……何か、思い当たる節は?」

「そういえば、あの女に追い詰められて……ヤバいって時に、全部元通りになれって念じたんだ。そしたら、負ってた怪我も体の違和感も嘘みたいに消えた。でも、その後に炎で奴を炙ろうとしたら、全然発動しなくてさ。これって、それと関係ある?」


  思い当たることといえば、それしかなかった。普段勝手に発動するものを、強く意識したのはあの時だった。そして、それから能力が機能しなくなった。


「そうですね。元通りになるように念じたことで、再生能力が呼応したのでしょう。ですが、()()元通りにするには、相応の魔力が必要になります。()()元通りにするには、()()の魔力を使わざるを得なかったのでしょう。故に、貴方の体にあった魔力がなくなり、炎の能力が発動しなかったのでしょう。魔力の源は、生命力。時間が経てば、問題なく使えるようになるはずですよ」

「はえ~……俺の細胞は、よく頑張ったんだな」


 小さくなった細胞の状態で、いくつも能力を発動させ続けた。自分の中の意思もない細胞だが、ペットのように愛おしく思えた。

 

「危ない所でしたね。もし、相手が神聖騎士だったら、複数だったら、戦闘経験のある者だったら……殺されていたかもしれません」

「え!? で、でも俺は……」


 その思わぬ言葉に、オースは強いショックを覚える。


「貴方は、全ての魔力を用いて回復した。体は元通りになっても、魔力は皆無。もし、その状態で傷付けられたとしたら……回復ができません。それでも、魔物は生命力は強いですから回復はしますが、あまりにも微弱です。攻撃が続けられれば、追いつかないでしょうね。今回は上手くできましたが、使う場面は考えて下さい」


(それって、俺が死んでたかもしれねぇってこと……?)


「それから、もう1つ。3つ目の能力細胞が、正常な形をしていません」

「え……?」


 すると、モニターにオースの細胞の様子が映し出される。細胞は、刺々しい形をしている。生まれたばかりであるため、サイズも小さい。正常な細胞な形はよくわからないが、今の姿が歪なのはオースにも何となく理解できた。


「これは、無理やり能力を覚醒させたことによるものです。そして、この形になると最後……細胞の成長は見込めません。つまり、貴方の擬態能力は一生そのままということです!」

「え……1日も持たねぇ……」


 あの未熟な能力のまま、永久に成長しないということは、使う場面は限られてしまう。解ける時が近付くにつれて、あのしんどさが襲いかかる。絶望的だった。


「これに懲りたら、無理やり覚醒させないことですね。それから、能力が目覚めた時は、私に報告を。今回は、嫌な予感がしていた私が貴方を観察していたので助けられましたが、何度も何度もこうなると困ります」

「は~い……」


 こればっかりは、素直に従うしかなかった。


「という訳で、魔力が戻ってくるまではしばらくお休みですね。それに、能力を覚醒したばかりだと体にも大きく負荷がかかります。それで、パフォーマンスに影響が出て、仕事を中途半端にされても困りますし」

「まだ言うか……」


 恐らく、これはしばらく執拗に言われ続けるだろう。


「気になる部分は、これくらいですかね。かなりの無茶をしたというのに、流石ですよ。細胞が壊死しないというのは。やはり、貴方は特別ですね」

「はぁ……だよなぁ……俺は特別なのになぁ」


 死の可能性が頭の中を駆け巡り、オースにはまともに返答する余裕など残っていないのだった。これまでの経験から、驕っていた。自分は絶対に死なないのだと。けれど、それは大きな間違いだった。オースの再生力は、魔力ありき。それがなくなれば、再生は滞る。つまり、死ぬ。特別であれど、絶対など存在しない。どこか遠くにあると思っていた死は、気付いていなかっただけでそこにあったのだ。

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