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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第七章 魔女ノ目指しタ芸術ノ果テ

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そノ灯火ガ消エる隨ニ

「はぁ……この話は、これでおしまいです。それで……その女性ですが、まだ生きていますね」


 大きくため息をつくと、後ろで倒れているシャーロットに目を向けて言った。


「は? そんな馬鹿な」


 彼女の体は傷付けられ、至る所から大量出血していた。普通に考えて、生きているはずが――。


「……生きてる」


(どういう生命力してんの?)


 顔は真っ青になっていたが、胸部が僅かに上下している。しかし、既に虫の息。いくらしぶとくても、彼女が死ぬのは時間の問題だろう。


「ちょうど良かった。彼女には、個人的に色々とお話を聞いてみたかったんです」


 テウメは、にやりと微笑みを浮かべて言った。


「聞くって何を?」

「そうですね、母親としてのあり方とか……」

「なんで、わざわざ直接? 情報は読み取れるんだろ?」

「欲しい情報が手に入るとは限らないんです。言ったでしょう? 情報量にはムラがあると。だから、対象が生きているのなら、話を聞くチャンスでしょう?」

「いや、でもこの状態で流石に話はできんだろ。遅かれ早かれ、こいつは死ぬ運命だ。確かに生きてはいるけど、まともに話せる状態じゃないぜ」

「あらあら、お忘れですか? 私は、死ぬ間際の貴方ともお話しましたよ。直接」


 彼女にそう言われ、オースは思い出す。黒焦げになり、後は死ぬだけだったオースは、意識の中で初めてテウメと出会った。そこで、魔物となる道を選んだ。


「……そういえば、そうだ」

「まだ生きている状態であるならば、お話は可能です」


 そう言うと、彼女はシャーロットの前にしゃがみ込み、額に手を当てる。


「こうすることで、生物の意識の中に入り込めるのです」

「俺ん時もこうやって……不法侵入した訳か」

「失礼な」


 オースが茶化すと、彼女は顔をしかめる。ちょっとした冗談のつもりだった。言いたくなったから言っただけ。くすりと笑うくらいはしてくれるだろうと思っていたのに。


「さっきの今で、よくそんなこと言えますね。清々しい神経です」

「も、もう終わった話だろ?」

「……変に引きずられるよりかは、全然いいんですけどね。えぇ、全然。それより、見学していきますか?」

「見学? 見学って……」


 提案の意味がわからず、オースは首を傾げる。


「彼女と私の対話を見ていきますかってことです。他人の仕事を見るのも、大事なことですしね。仕事への取り組み方も、何か変わるかもしれませんし」


 彼女の中では、仕事のごちゃごちゃはまだ終わりきっていないようだ。おしまいだと言ったのは、彼女自身なのに。


「だから、もう――」


 オースの言葉を遮り、彼女は言った。

 

「参りましょう」



***


「――おい、ちょ! って、もう来てるし!」


 この間、僅か数秒。現実で言ったつもりが、もう意識の中に連れ込まれていた。


「魔王軍は、本当にどこまでも失礼ね。私の家に入り込んだ挙げ句、私の夢を壊し、私を殺した。これは、精神に直接干渉する魔術ね。特別な資格を持った者しか扱えないはずなんだけど……まぁ、無法集団には関係のない話ね」


 オースが叫ぶと、呆れ混じりの声が響く。見ると、シャーロットがその場にしゃがみ込んで頬杖をついて、こちらを睨んでいた。


(お前も、無法集団の一員だったろ。それのトップだっただろうがよ……)


「あらあら、失礼なのはお互い様でしょう。それに、私達がこの世界の法に従う道理などありません。魔王様こそが、私達のルールなのですから」


 テウメは歩み寄りながら、そう言った。魔王軍は、世界という器の中に収まらない。収まることなどできない。けれども、シャーロットはこの世界に生きている。この世界に収まる限りは、法に従わねばならないはずだ。故に、無法集団という肩書が似合うのは彼女達の方だろう。


「そう。私は、私がルールだけれどね。それで? わざわざ、こんな魔術を使ってお話をしに来てくれたんでしょ? 機嫌はいいから、お話はしてあげるわよ。何も出してあげられないけど。ここに、お客様を歓迎するようなものはないみたいだから」


 言われて見てみると、この場所にあるのは絵を描く道具だけ。オースとしては、物があることに驚きだった。


(俺の意識の空間にも、何かあったのかな? あの時は、全然余裕なんてなかったし……)


「別に必要ないです。長居するつもりはありませんから」

「それは、残念」


 テウメはしゃがみ、シャーロットの顔を覗き込む。


「もういいですか、本題に入っても」

「なぁに?」


 2人の声色は穏やかだったが、何とも言えぬ空気感が漂い始める。警戒心や緊張感や不快感、あらゆるものが合わさってそのように感じられるのかもしれない。


「貴方は、お子様が嫌いでしたか?」


 早速、テウメは尋ねる。その問いに対し、シャーロットは眉をひそめた。


「何故、そう思うのかしら」

「貴方は子供が生まれても、すぐに他国の知り合いに預けていたそうですね。1度も直接会ったことがないと把握しております。親というもの、子供は見守り育むものではないのですか」


 すると、シャーロットは俯きながら呟く。


「近くにいたら、あの子達を余計なことに巻き込んでしまうかもしれないでしょう。地球はね、ややこしいの。身分が、私の自由を守ってくれていたけれど、身分が子供達を殺すことになるかもしれなかった。敵は多かったから。それに、私は……子供への接し方がわからない。近くにいれば、私も傷付けてしまうかもしれない。だから、遠くから願っていたの。あの子達が穏やかに暮らせることを。私と関係のない所で、幸せを得られることを。私が実の母親ということは聞かされていたみたいだから、そのことで不幸を感じていた可能性は残念ながら否定できないけど」


 死の間際まで、オースに感謝を述べる余裕があった女性とは思えない。声色にも表情にも、自信はこれっぽっちも感じさせない。公爵夫人という立場と親からの愛を知らない自身の状況。子供を育てなかったのは、彼女なりに子供を守るための方法だったのだと伺える。


「……それが、貴方の愛の形ですか?」

「愛の形、ね。そんなに立派に言い表して貰えるなんて、最期の最後まで私は幸せね。愛の形、か。私は……愛せていたのかしら」

「貴方は、どう思いますか?」


 話を突然振られ、オースは驚く。ただ聞くだけの予定だった。しかも、話が結構難しい。愛だの何だのと言われても、困惑してしまう。


「あぁ! 確かに、貴方の意見が聞きたいわ。魔物だって言ってたけど、貴方はとても人間臭いもの。彼女とは、何かが違う気がするのよね。よくわからないけど」


 わざとらしく、シャーロットは匂いを嗅ぐ素振りをする。


(この距離じゃ、俺の匂いはわからんだろ。つか、この状態で匂いとかあるのか?)


「お、俺にそんなこと聞かれても……よくわからんし……」

「そうねぇ……例えば、私が、貴方の母親だったとしたらどう? 私の子供達の状況に、貴方自身を当てはめてみたり、貴方の母親に私を当てはめたりしてみて?」

「そうですね、やってみて下さい」


 2人の気迫に押され、オースは仕方なく想像してみる。


「わかったよ……」

 

(もし、こいつがお袋で、村で一緒に暮らしてたら……)


 家で、母親が夜な夜な血を使った創作活動に明け暮れている。しかも、人殺し。その手伝いを、家族総出でやらされる。片棒を担いだ以上、明るみに出てしまったら道連れ。家族ではなく、殺人集団として生きていくことになるだろう。


(きっと、周りの目が気になって、いつか俺も同じ目に遭うんじゃねぇかって怯えて暮らしてそうだ。一刻も早く自立……いや、家出するかもな。俺に対して普通に接してくれていたとしても、素直には受け取れねぇだろう。何か裏があるんじゃねぇかって思うな)


 続いて、シャーロットの子供の状況に置かれた自身の姿を想像する。育ての親に愛されていても、心のどこかにそのことがずっとあり続けるのだろう。


(もし、お袋が遠くに俺を預けて、それから一切会いに来なかったら……捨てられたと思うだろうな。愛されている感覚がねぇのに、愛せるはずもねぇ)


「……どっちにしても、俺は愛を感じねぇよ。愛の形どうこう言われても、こっちには何1つ流れてこねぇ。っていう結論になったけど……」


 必死に考えてみたものの、自分の意見の薄っぺらさに少し申し訳ない気持ちになる、


「無意味かどうかは私が決めることよ。少なくとも、私には意味があったわ。私の目線じゃなく、子供の目線で答えてくれた。私には想像もできなかったから……」


 シャーロットは、胸に手を当ててそう呟いた。


「まだ聞きたいことはあったのですが……残念。もう限界ですね。貴方は、もうじき死にます」


 テウメは立ち上がり、冷たく告げる。確かに、空間の所々に綻びが出始めていた。ついに、シャーロットの命の灯火が消えるという。


「もう逝かねばならないのね。私には勿体ないくらい、幸せな時間だったわ」


 彼女は、優しい笑みを浮かべる。今まで見せてきたものとは、まるで違う。狂気もおぞましさもない。幼子が浮かべるような無垢な笑顔だった。


(こいつ、こんな風に笑えたのか)


「さようなら、白き者と哀れな魔物君――」


 少しずつ空間が崩れていく中、彼女はそう言い遺した。

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