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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第七章 魔女ノ目指しタ芸術ノ果テ

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気ガ付ケば穴ダらケ

「ふーっ……」


 高揚する気持ちを落ち着かせるように、息を大きく吐き出す。そして、魔物に命じる。


(変われ)


 すると、何の問題もなく、魔物は令嬢の姿へと変化する。まじまじと観察した甲斐もあり、寸分たがわぬものになった。


「よし、問題ない」


(俺ほどじゃねぇけど、治癒機能があって良かった。でも、元通りになるまで丸1日かかっちまうとは。古い型だから、しょうがねぇっちゃしょうがねぇんだが)


 砕いた両肩も元通り。もし、間に合わなければ、適当に魔物の体をこねてそれっぽくするか、肩部分に石でも詰め込んで固定させるか悩んでいたが、それも杞憂に終わった。


(つか、なんか……すんげぇだりぃ。いっぱい能力使ったからか? それとも、新たな力を手に入れたからか?)


 だが、1つ心配事が消えても、また別の心配が湧いてくる。この疲労感は何なのか。思い当たる節はあるが、それとはまた少し違う感覚。状況も違う。頑張り過ぎの影響かもしれない、そうオースは思うことにした。


(でも、ここで休んだりはできねぇ。多分、あの女が帰ったら大騒動になる。さっと終わらせる。スピード勝負だ。そして、罰を与える)


 シャーロット城の敷地に入るための道で足止めをした。少しでも時間稼ぎするため。城は見えている。進んでいけば、すぐに到着する。


(行くぞ)


 魔物の手を引っ張り、オースは駆けていく。命令された通り、魔物も慣れぬ足で走る。そうして走り続けていると、あることに気付く。


(待て、このまま行けば門。門には、見張りみたいな奴がいるのを見た。つまり、そこで色々やり取りをして、この魔物を中に入れて貰うって訳だ。だが、この魔物は喋らない。喋れねぇ。うめき声みたいな声しか上げん。ってことは、俺が上手いことやらねぇといけねぇ。だが、肝心の俺がこんな姿では……不審者だ。しかも、後ろには魔王軍のエンブレム。知れ渡ったこれを見られたら、意味がなくなる。どうすれば、どうしたら……)


 城を目指していた足が、自然と止まる。強い不安に襲われ、思考がぐるぐると駆け巡る。思いだけが先走り、真剣に考えたはずの計画には小さな穴が空いていた。それに、直前になって気付いてしまったのだ。今更、なかったことにはできない。ここでやるしかない所にまで、進んでしまっている。焦燥と緊張の最中、自分が今できることを考えた。


(そうだ! 魔物を擬態させたようにすれば……! 力の向きを、この俺に!)


 そこで、オースは思いつく。力を自分自身にかけることができれば、このピンチは切り抜けられると。藁にも縋るような気持ちで、オースは念じる。


(変われ、あの男に!)


「う゛……おも」


 力を発動させた途端、熱せられた石を乗せられたような感覚を覚える。そして、結果は――。


(上手くいった……みたいだ。ただ、なんか……体が熱い。でも、俺はやらねぇと、これくらいのことで諦めてられねぇ……!)


 手がしわしわで、服装も変わった。顔に触ると、肌の質感を感じられる。


(走るぞ!)


 熱くて重い体と魔物を引っ張って走り、少しすると大きな門が現れた。オースの身長の何倍もあるような高さと、馬車が何台も通れそうな幅。


(うわ、でっけぇ門! こんなに大きくする必要ってあんのか? 見栄か何かか?)


 その門の前で見張りをしていた男性が、オース達の存在に気付いて声をかけた。


「お2人か、何用か?」


 杖のような物を持ち、それを地面に叩きつけて鈍い音を響かせる。客人を持て成す態度ではない。


「招待状……それだけ言えば、わかるでしょう」

「……何家の者か」


 鋭い視線が、2人に注がれる。


(えぇっと、確か……)


 コート越しに見た情報を思い返しながら、オースは伝える。大体のプロフィールは、頭の中に叩き込まれている。


「ジュリアン=ハーソー。ハーソ―子爵の一人娘と、その……従者」

「何か本人だと示す物は?」


 そう言うと、彼は手を見せて何かを差し出すように促してくる。


「はぁ? 本人がここにいるのだから、それが証拠でしょう」

「今時、十分とは言えない。本当に高貴な身分の者か、甚だ疑問だ。奥様の手紙を見せてみよ」


 オースの発言に、彼は呆れ混じりにそう言った。


「て、手紙……手紙か」


 探すフリをしながら、必死で頭を巡らせる。次から次へと穴が見つかり、気はすっかり動転していた。門番の、2人を見る目がさらに鋭くなる。


(ヤバ、終わった。手紙奪うの忘れてた。あー、こうなったらもうこいつを殺して、さっさと中に侵入するしか……)


 幸いにも、門番は彼1人。残虐行為を知った者の大半が逃げ出したため、このような有様になっているのだという。近くにも、他の誰かが居合わせる気配はない。殺るなら今しかないと炎をまとおうとした時、魔物がひとりでに動き出す。愕然としていると、携えていたバックから紙を取り、門番に差し出した。


「む……」


 彼は少し驚いたような表情で、その紙に視線を落とす。


「え?」


(何が、何が起こっている? 俺は、こいつに何も命令してないのに……勝手に動き出した。それに、持っているのは手紙か? まさか……なんで!?)


 一連の流れに、オースは困惑していた。それでも、事は進んでいく。


「……確かに、このサインは奥様のものだ。失礼した。いいだろう、奥様が首を長くして待っておられる。歓迎しよう、ようこそ」


 仏頂面でそう言うと、杖を揺らす。すると、ツリーチャイムのような音が響いた。それに呼応するように、大きな音を立てて門が開いた。


(よくわからんが、ラッキー! ちゃっちゃと中に入ろう。行くぞ)


 痛い視線を浴びながら、敷地内へと足を踏み入れる。


(なんで、勝手に動いたんだろうか? しかも、手紙を持っているなんて。う~ん……)


 本物が、バックに手紙を忍ばせていたから、そこまで完璧に再現したのか。けれども、それをオースは見ていない。持っていたことすら知らなかった。当然、奥様のサインとやらも知らない。疑問を抱きながらも、オースは玄関へと向かった。


「ようこそ、いらっしゃいませ。ご足労頂き、感謝申し上げます」


 玄関の前に来ると、使用人が現れてにこやかに出迎える。先ほどの門番の対応とは打って変わって、歓迎の雰囲気があった。


「ハーソ家のご令嬢ですね」

「あ、あぁ……はい」


(わかんのか? こいつには名乗ってねぇけど。顔見たらわかる……みたいな? もしくは、さっきの門番からもう連絡行ってるみたいな感じか?)


「そして――おめでとうございます。ジュリアン様が一番乗りにございます。素晴らしい。招待状を送った中で、ハーソ家は遠方にあるはずですのに……奥様も大変お喜びになるでしょう。その心意気、大変評価されるはずです」


 彼は、関心した様子で大きく頷いた。


「それは……嬉しいことです」


(あ~なんか、こう堅っ苦しい雰囲気……面倒だな。テウメの言うこと、ちゃんと聞いておくんだった。丁寧な言葉遣いって奴ができれば、余計なストレスなく関われるのに)


 変なことを口走ったら、それがきっかけで全てが水の泡になってしまう。できる限りの努力をしているつもりだが、経験の浅さが余計な苦労をもたらしていた。わかるようでわからない、使えるようで使えない。もどかしい気分だった。


「では、ご案内致しましょう」


 そう言って、彼は門を開ける。中に入ると、権力と富を示すように豪華絢爛な装飾と広い部屋が出迎えた。


(綺麗だな、ここは。地下には、あんなキモい場所があるとは思えんな)


 水晶越しに見た光景を思い出し、少し吐き気を催す。


「いらっしゃったばかりで申し訳ないのですが、お嬢様は奥様の部屋でご案内致します」


 他の使用人が、ドアの1つを開く。そこに行けということだと理解し、オースは魔物の手を引っ張り進もうとするが――出迎えた使用人に阻まれる。


「おっと、貴方は……こちらで手続きを」

「何?」

「申し訳ございません。色々と事務処理などもございますので……」


(マジかよ……くそ! ついていけ、人間に促されるように動け!)


 そして、オースと魔物は、それぞれ別の使用人に連れられる。せめてもの足掻きに、魔物に今後の動きを命じて離れ離れになるのだった。

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