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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第七章 魔女ノ目指しタ芸術ノ果テ

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罪ノ報イヲこの俺ガ

(さて……あの女が、魔王軍の名を穢しているのは確かな訳だが……どうするか)


 シャーロットの悪逆非道の行為の数々、一部の事情を知る者達の間で「リー家は、魔王軍の協力者だ」などと言われている。

 実は、問題行動があったのは彼女だけではない。彼女の夫や兄弟、従兄弟、叔父など……本来ならば、その命をもって償わなければならない行いをした者が多くいるのだ。ただ、その身分故に見逃された者や大した罰を受けずに済んだ。無知な人間達が、深く考えもせずに、彼女らの行動から魔王軍に結び付けるのは仕方がない。


(シンプルな人殺しを、魔王軍に押し付けて……まぁ、一度根付いた思想はそう簡単には消えないか。俺も気付くのに時間はかかった訳だし。仕方ない。観察は十分だ。この女が、全ての元凶。人間達では、罰を下せねぇんだろう。なら……俺がやってやろう。一人のみならず、一族のイカれた行為をまとめて魔王軍に擦り付けた。哀れな被害者と魔王軍の鉄槌を下してやる)


 魔王に仕事の成功を褒められ、自信に繋がっていた。今度は、納得のできる仕事をして、魔王に褒められたかった。成功は勿論、それ以上の働きをしたかった。


(前みたいに殺るだけじゃ、あの女の罰にはならんだろう。どうしたもんか……)


 正しいのは、魔王軍。そう刷り込まれたオースは、正義の味方になった気分で思考を巡らせる。


(あいつは、いっつも絶望に興奮してた。女の血が流れる度、目を輝かせて……掻き立てられた創作意欲って奴を、絵にぶつけてた。絶望を浴びながら、希望を感じて……そうだ! その工程を邪魔したらどうなる? 例えば、女だって思ってた奴が男で……搾取するだけだと思っていた相手に、地獄へと突き落とされたらどんな顔をする? やったことを、そのままやり返されたらどう感じる?)


 彼女には、強いこだわりがある。それを妨害された挙句、騙されたと知ったらプライドを踏みにじることができるだろう。その上で、彼女がやってきたように痛めつけて、じわりじわりと殺されていったら――。


(いや、でも待て……この計画だと、俺が女にならねぇといけねぇ流れじゃん。マジかよ、う~ん……)


 人形の体だったとはいえ、魔王に女装している姿を見られてしまったトラウマは消えない。今度は、女装を自分の体でやってしまったらやっぱりそういう趣味だったのだと思われてもおかしくはない。


(でも、そのまんまやり返してやったら気持ちいいのは間違いねぇし……う~)


 どうしても、そのまま作戦を遂行したかった。そして、考えに考え抜いて、オースはあることを思いつく。


(俺には、無限の可能性がある。魔物として、進化していける。なら……)


 生きたいという思いが、回復能力を強く、邪魔者を排除したいという思いが、炎を操る力を手に入れた。思いが、能力の開花に繋がっている事実を思い出したのだ。


(テウメに貰った、残り1体の魔物の形を変えられたら……良くないか? 随分とあの召使い達も追い詰められてるようだし、女に化けさせれば潜入できるかも。どっかの貴族の娘に成り代わって……アリかも? よしっ!)


 そして、魔物を用意して強く念じる。


(変われ!)


 だが、魔物は変わらず、生物兵器としての姿のまま。間抜けな顔をして、ぼんやりと宙を眺めている。


「くっ……流石に、こんなに単純に力は発現しねぇか。どうしたもんか……」


(いやいや、こんなことで諦めてられねぇ。絶対にこの力を発現させて、使いこなす!)


 オースは、気合を入れる。


(イメージ力が足りなかったかもしれねぇ。ふわっと女の姿をイメージするだけじゃ駄目かもしれねぇ。もっと具体的にはっきりと……!)


 最初に、浮かんだ女性の姿は――母だった。一番身近で、生まれる前から共にあった唯一無二の女性。少しずつ薄れていく過去の記憶の中でも、彼女はまだ鮮明であった。それ故、イメージは問題はないはずだった。しかし、魔物は相変わらずのアホ面だった。


「なんでっ! なんで、何も変わらねぇ! 何が足りねぇってんだよ! 力さえ俺のものになれば、すぐに進められるのに! こんなんじゃ、駄目じゃねぇかっ!」


 苛立ちから、何の罪もない魔物を強く揺すってしまう。それに対し、魔物が何か反応を示したりはしない。ただされるがままである。


「こんなんだから、俺はあいつに負けちまったんだろ!? 欲しい時に、何も手に入れらねぇ! 魔王様にも恩が返せねぇ! 仕方ないで終われねぇんだよ!」


 焦燥、憤り、不快、虚しさが胸を渦巻く。魔物への八つ当たりも強くなる。爪が食い込み、折角の魔物の体の一部を破損させてしまう。


「だから……変われって言ってんだよおぉぉっ!?」


 それに気付かないくらい気持ちが高ぶり、より思いが強くなった時――全身に何かを駆け巡る感覚を覚えた。


「――はっ!」


 その姿を見た時、怒りが静かに引いていった。


「お袋……」


 虚ろな様子で、そこに立つのは在りし日の母。両肩が欠けている以外は、最後に見たそのままだった。外は母でも、中身は魔物。呼びかけに応じることはない。それはオースもわかっているのに、思わず母を呼んでしまった。


「上手くいったか……なんか、すっげぇ疲れたなぁ。エネルギーめっちゃ使ったって感じだわ……」


 力の発現には、どう足掻いても負担がかかってしまう。また力を使うのにも、魔力を消費する。体の疲労感を少なくするためには、経験と慣れが必要だ。


(でも、もしかしたらまぐれの可能性もあるよな……他にも、ちゃんとできるかどうか試してみねぇことには……)


 たった一度の成功では、安心し難い。この作戦において重要なのは、正確さだ。


(変化しろ)


 心を落ち着かせ、今度はシアンの姿をイメージしながら念じてみる。すると、母の姿がシアンに変わっていく。これで、能力に問題はないとはっきりとした。


「おぉ! やったぜ! 発現の基準は……必死さ、か?」


 少々追い詰められた状態だと、発現しやすくなるのかもしれない。ただでさえ疲れるのに、より疲れるシチュエーションだ。


(まぁ、とにもかくにも、これで先に進める。後は、呼ばれた貴族の娘に成り代わらせるだけ。お喋りができねぇことだけが課題だが……多分、奴らなら違和感を感じたりはしねぇだろ)


 満たされた気持ちで、オースは水晶に視線を向ける。


「さて、もうひと踏ん張りしますかねぇ」

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