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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第七章 魔女ノ目指しタ芸術ノ果テ

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見ルまデモなイ

 シャーロット=リーは、名門貴族の生まれである。ラグランタイア王国の公爵と結婚し、6人の子供を産み、華々しい生活を送っていた。それは、旦那の病死後も同じ。遺された財産と地位の元、魔物の襲来によって混乱する世を忘れさせるほどの豊かさだった。

 そんな彼女は幼少期から芸術に触れ、とりわけ絵画への造詣は深かった。名もなき画家達のパトロンとなり、支援を行った。彼女自身も夫の死後、城の地下にアトリエを作り、そこで創作活動に明け暮れていた。だが、そんな輝かしい功績と人生には似つかわしくない深い闇があった。


『シャーロット公爵夫人からは、血の臭いがする』

『消えた娘達は、夫人の城に囚われているらしい』


 実の所、その闇は一部の者の間で明らかになっていた。しかし、彼女が高貴な身分であることと、リー家のことを考え、直接的な手出しができないでいる状況だった。それをいいことに、彼女の行為の残虐性は増していた。


『や、やめて……下さい』

『やめてと言われて、やめる馬鹿がいる? 言っとくけど、私は馬鹿じゃないのよね~。いいじゃない、ほらもっと怯えてみせて! 恐怖が、血を美しくするんだから!』


 召使いに村娘を攫わさせ、拷問を行い、血を奪う。その血で、赤を作ろうとしているようだ。けれども、未だに求めるものは得られず、残虐行為ばかりが積み重なっていた。


『狂ってる! あんたは狂ってる! こんなこと、許されるはずがないっ!』

『何とでも言って? 真の芸術とは、狂気の果てにあるもの……そこに至るための礎になれるのだから、光栄に思いなさい』

『ふざけないでよっ!』


 村娘は、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶ。


『貴方の血は、美しくなったかしら? 楽しみだわ。最近、気付いたのだけれど……すぐに殺すよりも、じんわり殺していく方が楽しいわね。それに、恐怖が血を美しくしているようにも思えるの』


 シャーロットは、村娘からはぎ取った爪を見つめながらそう言った。もう、彼女の手足には爪は残っていない。毎日、ほぼこんな光景を見せられている。昨日の娘達は、針だらけの入れ物に押し込まれたり、体を一瞬で引き裂かれたりして亡くなった。そんな残酷な状況の中、笑っているのはシャーロットただ一人だった。

 

『今から、貴方の腕をこのナイフで切りつけるけど、良い血の色だったら終わりにしてあげる。ぜ~んぶね』

『嫌だ! 帰して! 私を家に帰らせて!』


 彼女の取り出したナイフを見て、村娘は半狂乱気味に叫ぶ。


『いいえ、帰さない。貴方はもうどこにも戻れない。残念ながら、この城はね、あいにく地獄の入り口しか用意されていないの。出口は、存在しない』


 しかし、彼女はそう即答した。そう、この城に連れて来られたが最後。生きて、ここからは出られない。死んでも、家には帰れない。


『あ、あぁ……』

『いい! その表情、最高っ! そう、その絶望が血をより美しくするの!』


 村娘の目から、希望の灯が完全に消え去った。その様子を見て、彼女は恍惚とした表情を浮かべて歩み寄る。


『どうして、どうして……どうして私なのっ!』

『さあ? そこに貴方がいたからじゃない? 選んだのは、私じゃない。私は、ただ生きている女なら誰でもいい。その血を得られるのなら、その血が私の芸術にそぐうのなら……なんでもねっ!』

『きゃぁっ!?』


 村娘の頬を、ナイフで切り裂いた。返り血を浴びるも、それを気に留める様子はない。


『さて……どうかしら~』


 ナイフに付着した血を、目を輝かせながら品定めをしていたが、すぐに表情が暗くなる。


『……微妙。これを使うなら、前の女の方がよっぽど綺麗だったわ。元の血が悪いのか……味付けをして、これだけ? 熟成したら使い物になるタイプの血かしら……』


 そして、ぶつぶつと呟いていたが、雑念を飛ばすように首を横に振った。


『あ~駄目。元の血が悪いんだから、もう伸びしろなんてないじゃない。いらないわ、練習用に回しておいて』

『承知致しました』


 そう言い捨てると、控えていた召使いが扉を開けた。すると、外から体格のいい召使い達が現れる。


『いやーっ! やめて、やめてーっ!』


 召使い達は、泣き叫ぶ彼女を持って部屋の外へと消えていった。


『はぁ……嫌になる』


 キャンパスには、一人の女性が暗い床に倒れている姿が描かれていた。表情も暗く、目に光はない。女性は、何かを求めるように手を伸ばしている。その手が触れるか触れないかの所に、何者かの手がある。けれど、それより先はキャンバスの外。想像する他ない。

 さらに、もう一つ。その絵には所々、塗られてない部分があった。恐らく、その部分にシャーロットの求める血が入る予定なのだろう。


(いざ、キャンバスに塗っても思ってた色と違ったら、平気で切り裂くもんなぁ。画家ってのは、皆こんなもんなのか?)


『喉が渇いた』

『ティータイムに致しましょう』


 たったその一言だけで、召使いは全てを理解したように素早く椅子と机を用意し、カップに紅茶を注ぎ、お菓子の盛り合わせを置いた。


『はぁ……最近、連れてくる娘の質がどんどん落ちているわ』


 彼女は苛立ちを隠し切れぬ様子で、椅子に腰を下ろして不満を漏らす。


『も、申し訳ございません』


 召使いは、ただでさえ真っ青な顔をさらに青くして謝罪する。


『どうにかならない訳? 手間がかかってしょうがないわ』

『町全体の警戒が強くなっていて……良い場所に、女性が一人でおらず……』


 大事な娘を守るため、自分自身の身を守るため、リスクのある場所を避けるのは至極当然だ。しかし、その事実が気に食わなかったのか、彼女は冷たい視線を向ける。


『ふん、言い訳? 油断してたら、貴方も殺すからね?』

『ひっ!』


 冗談とは思えぬ脅しに、彼は身を震わせる。


『フフフ……まぁ、そうねぇ。足元で探すのも限界だって言うなら、ちょっと高い所に行くのもアリかもしれないわ。質の上昇も見込めて、赤探しも楽になるはずだから』


 紅茶に砂糖を入れて、スプーンでぐるぐるとかき混ぜながら言った。


『そ、それは一体どういう……』

『相変わらず鈍いわね。貴族の娘を使いたいって言ってるの』

『えぇ!? そ、そんなこと……我々には到底!』


 告げられた言葉に、彼は驚愕の表情を浮かべた。


『わかっているわ。だから、私が呼び出してあげる。公爵の妻である私に、歯向かえる貴族はそうそういない。のんびりしている暇はない。何としてでも、この作品を仕上げなければならないの。わかるでしょ?』


 立場を悪用し、さらうのではなく堂々と呼び込もうと言う。ラグランタイア王国において、身分は絶対。彼女に厳しく言えるのは、王か同じ立場にある他の公爵家くらいだろう。

 そこまでして、彼女が急ぐ理由――残念ながら、確かな情報は得られていない。水晶越しに、オースは色々と考察する。


(そろそろバレそうって思ってるとか? いや、そうだとしたら、続ける方が危険だ。急いでいるのは、完成。行為どうこうに関しては、悪びれてるって感じもねぇしな。すぐにでも最高傑作として完成させて、最後の作品として世に出そうとする理由……か)


『奥様が……望まれるのであれば、我々は付き従うのみであります』


 その提案を、彼は力なく受け入れた。


『楽しみねぇ』


 そう言うと、彼女はゆっくりと立ち上がる。


『こちらを』


 表情と動きで全てを察し、彼は鍵を差し出す。それは、さらってきた村娘達が閉じ込められている部屋の鍵だった。それを受け取ると、彼女は不敵な笑みを浮かべて、その場を後にするのだった。そこで、今度は何が行われるのか――見るまでもない。

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