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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第七章 魔女ノ目指しタ芸術ノ果テ

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恥ズかしサを乗リ越えテ

(あ~……あんな姿を、よりによって魔王様に見られるなんて。違うって弁明したつもりだけど、ちゃんと信じて貰えたんだろうかな。声しかわかんねぇけど、苦笑いしてたよな。そういう趣味とか思われてたらどうしよう。最悪。あぁ、殺して欲しい。やっぱり、断るべきだった。つか、そもそも町になんて行こうとしなけりゃ良かったんだ。行こうとしなけりゃ、あんな姿を晒すことにはならなかった。あぁ……悔やんでも悔やみきれねぇ。もう、色々とどうしたらいいのかわかんねぇよ。恥ずかしい。全然笑えねぇ。楽しむつもりがこんな羽目に。生きた心地がしねぇ)


「――ちょっと、聞いてます? ちょっと!」

「はっ!」


 後悔を、テウメの声が引き裂いた。そういえば、仕事の話をされていた最中だったと思い出す。


「はっ! じゃないですよ。大事な仕事のお話をしている最中に、何ぼーっとしてるんです。まったく、もう。いるべき所にいないし、何をしていたんですか? 魔王様と共謀して……二人っきりになるなんて……」


 話を聞いていなかったことよりも、魔王とオースが2人でいたことが気に食わずイライラしているようだ。


「ぼーっとなんかしてねぇよ」


 話は聞いていなかったが、ぼーっとはしていない。真剣に色々考えていたのだから。


「なら、先ほど私が言ったことを述べて下さい」

「……お仕事お疲れ様です、とかかなぁ」


 違うとは思っていたが、適当に答えてみた。


「何を言ってるんですか。私は、これっぽっちもそんなことは言っていませんよ」

「だよなぁ」

「聞いてないじゃないですか。ぼーっとしてたんですね?」

「聞いてなかっただけだ。ぼーっとはしてねぇ」


 彼女の怒りを感じながらも、気付いていないフリをする。


「……はぁ、もういいです。魔王様肝いりの仕事ですから、ぞんざいに扱うことはできません。もう一度説明します。今度は、しっかりと聞いておくように」


 そんな屁理屈を聞いて、彼女は大きくため息をついて諭した。


(え~……もう仕事かよ。さっきのダメージがでか過ぎて、全然そんな気分になれんのだが。あぁ、こんなことを思ってたら、駄目なんだ。魔王様のために尽くすことが、最大の恩返し……)


 終わったばかりなのに、すぐに始まる。それに憂鬱さを覚えたものの、こんなことでは駄目だと慌てて気持ちを切り替える。


「わかった。ちゃっちゃと頼む」

「まず、この仕事に最終的に必要となる人間のおおよその数が算出されました。グレースィット=アルミノワから取り出せた情報量を基準に出された値の最大量……10人。この数であれば、取り出せる情報量にムラがあっても問題はありません」

「10人!? そ、そんなにいるの!?」

「えぇ」


 驚くオースに対し、彼女は冷静に返す。


「あの子供一人に、めっちゃ時間かかったのに……どうにかなる未来が見えんのだが」


 オースの実力では集める前に、世界が終わってしまうような気がした。


「ですよね。なので、リュウホウさんとお仕事を分けて貰います」

「ん? え?」


 その名を聞いて、オースの顔は強張る。


「ちょうど、5人ずつ。キリはいいでしょう。負担量も減りますし」

「あいつと一緒に仕事をやれってことか?」


 もしも、そんなことになったらサンドバック化は避けられないだろう。短時間関わっただけで、一体どれほど暴力を受けたか。行動を共にするとなると――想像するだけで身震いした。


「いえいえ、それぞれ分かれてやって貰います。私としては、彼に協力を仰いでもいいと思うのですが……」

「絶対に嫌だ! 俺は、5人ね! わかった!」


 最悪のケースは避けられたと、オースは安堵する。


「そう言うと思ってましたよ。やるからには、しっかりとやり切って下さいね」

「言われなくてもやるっての。当たり前だろ」


 オースに染みついた常識に成果を感じ、彼女は怪しげな笑みを浮かべて言葉を返す。


「……良い心がけです。今回も、前回と同じやり方でお願いします。誰も何もフォローしませんので、ご自分の力が真に試されると言ってもいいでしょう。テストのようなものだと思って頂ければ良いかと」

「テスト……ふん、悪くねぇ」


 テストは、村でも受けたことがある。高価な農機具をちゃんと扱えるかのテスト。合格すれば、それを自由に使うことを許される。オースは、全て一発合格。負けず嫌いには、絶対に負けられないイベント。テストという響きは、オースの気持ちを高ぶらせた。


「場所は、ラグランタイア王国。それだけ指定させて頂きます」

「あぁ……聞いたことはあるな。了解した」


 ラグランタイア王国。世界に強い影響力を持ち、この動乱の中で各国を束ねるリーダーのような役割を自然と担っている。そんな国にも、やはりいるようだ。魔王軍の名を穢す悪しき者が。


「良い結果を期待しておりますね」


 そう言い残すと、空間の歪の中に消えていった。


(下手をやらずに誰かを連れて来られたら、まぁOKサインは出るだろう。良い結果ってのは、母親を持ってくることなんだろうな~……正直、あんまり期待に応えられる気はしねぇが)


 まず、探す段階でつまずいていたらいけない。確証を得るまでに時間を要する。その時間の方を大事にしなければならない。下手をやってしまったら、魔王の名を穢してしまう。任せられる仕事には、一つ一つ重みがある。億劫な気持ちを、心の奥底に押しやって水晶を手に取る。


「さて……頑張るかね」


(ラグランタイア王国で、魔王軍の名を穢す奴はどこにいる?)


 試しに念じてみるが、やはり出てくるのは住人達のくだらない諍い。


(数打ちゃ当たるだ。何度だってやってやる。ラグランタイア王国で、魔王軍の名を穢す奴はどこだ?)


 雑念を消し、オースは何度も繰り返し念じ続ける。現れては消し、現れては消しを前とは格段に違うペースで繰り返した。


(これは……!)


 無心で念じ続けていると、ようやくそれっぽい光景が現れる。


『この赤は違うわね……』


 水晶の向こうに現れたのは、薄暗い石造りの部屋でぶつぶつと絵を描く金髪の女性。


『この赤も違う』


 パレットには、赤――いや、赤黒い液体が沢山入れられていた。さらに、周りには樽のような物も置かれていたのだが、そこからも赤黒い液体が溢れ出していた。中には、その液体の元となる原料がちらりと見えるものもあった。


(これは、ビンゴだ。間違いない)


『あぁ……駄目。今回は不作。この赤じゃ駄目。ぜんっぜん駄目!』


 そう言うと、彼女は机の上に置かれていたナイフでキャンバスを切りつける。


『どこにあるの? あの美しさは……こんな有様では、画家としての私の人生は終わってしまう! あの人が遺したものも守れなくなってしまう……っ!』


 散らばったキャンバスの欠片を踏みしめながら、彼女は苛立ちいっぱいに頭を掻く。


『誰か、誰かいないのっ!?』

『ど、どうされましたか奥様!』


 彼女がそう叫ぶと、すぐにやせ細った男性が姿を見せる。恐怖からだろうか、体が小刻みに震えている。


『新しい娘を連れてきなさいっ! 今すぐに!』

『で、ですが……』


 鬼のような剣幕でそう訴える彼女に対し、男性は少し困ったように言った。しかし、それが癪に障ったようで、彼女は苛立ちを男性に向けた。


『何!?』

『いいえ、すぐに連れて参ります!』


 そう言うと、彼は逃げるようにその場を後にした。それを見届けることもなく、彼女はボロボロになったキャンバスに視線を向けて、嘆くように呟く。


『これでは……シャーロット=リーの最後の作品として世には出せない……』

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