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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第六章 久しブりトさよナらを

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かつテ、そこニは村があッた

 降り立った大地で、オースは息を吞む。村を追い隠すようにあった森のほとんどが焼失し、僅かながらに炭になった木々が点在するのみになってしまっていたからだ。


(森まで燃えちまったのか。あぁ……まぁ、当然か。あれだけの火事だ。燃え広がらない方が不自然だよな)

 

 火の恐ろしさを、改めて思い知らされた。

 

「……大丈夫?」


 何も言わず突き進んでいくオースを心配して、シアンが声をかける。


「別に」

「でも……」

「大した思い入れはねぇって、ったく」


 しかし、オースはぶっきらぼうに返すだけ。それが、余計に彼女の心配を煽った。


(あんなに森って感じだったのに。木がなくなると、見通しが良すぎて……空しくなる。あの森があるから、俺達は苦労してたってのにさ……)


 通り道は整備されていた。だが、それ以外はまさに未知。最近では動物に加えて、いつどこから現れるかもわからない魔物に危機感を募らせていた。そんな森に包まれていたこともあり、村は孤独だった。それが、まとめて消えた。炎が真っ新にしてしまった。


「変に気遣ったりすんなよ、ムカつくから」


 また何かを言いそうな気配を察し、彼女を睨みつける。すると、彼女は肩をすくめる。


「そう言われてもね……じゃあ、静かにしとこ。その分、心の中で色々思っておく!」

「はいはい、どうぞご勝手に」


 話しかけられずに済むのなら、とオースは雑に流した。そして、奇妙な静寂の中で歩み続けていく。すると、見えてきた――茶色い地面が。本来なら、そこには家が構えているはずだった。


「あぁ……」


 変わり果てた故郷の有様を見て、思わずオースは声を漏らす。村は、嘘のように綺麗さっぱりなくなっていた。あったという痕跡すらない。その代わり、入ってすぐの所に大きな石碑と小さな石碑が建てられていた。オースは、恐る恐るそれに近付いていく。


『レイトヴィーネ村大火慰霊碑。3月19日未明、魔物の襲撃を受け、村人34名の内、32名死亡、1名行方不明。1名は村の外にいたため生存。発見された遺体は、ことごとく惨たらしく殺害された痕跡があり、被害者の苦しみは想像を絶するものであったと思われる。この悲劇を忘れず、平和を願い、我々は共に戦う。レイトヴィーネ村の村人よ。天の加護の下、安らかに眠れ。天暦(てんれき)4004年4月 神聖ランプト王国第12代国王オスバルド3世』


 大きな石碑に刻まれた文章は、王から村への哀悼の言葉だろうか。オースの知ることのなかった、村のその後の様子がざっくりと示されている。全員が残酷に殺され、燃やされた。その事実が、胸に突き刺さる。心が引き裂かれ、感情が溢れ出てしまいそうになる。オースは、慌てて言う。


「なぁ、ちょっと1人にさせてくれねぇか。お前の心の声が、聞こえてきてウザい」


 表情はなるべく見せないように、それでも作り上げた仮面をまとう。けれど、それも長く持ちそうにない。早く立ち去って欲しかった。


「えぇ……? 滅茶苦茶言うわね。わかったけど。ねぇ、ちゃんと戻ってきてね。店で待ってるから」


 苦戦を予想していたが、彼女はその要求をすぐに受け入れた。


「俺が歩いて帰るとでも? そんな訳ねーだろ」

「……うん、ちょっと安心。じゃあ、また後で」


 少々不満はあったようだが、歩を進めながらそう念を押した。ちらりちらりとこちらを見つめながら、武器屋に向かっていくのだった。


「あぁ」


 ついに、その姿が武器屋に消えた頃、オースはほっと付けた仮面を外す。


(やっと静かになった。やっと……)


 情けない表情で、もう1つの石碑に視線を落とす。そこに記されていたのは――。


『犠牲者名簿――』


 そこにある名前は、誰1人として知らない人はいなくて。名前を見るだけで、様々な思い出が蘇って。悲しみと悔しさと、それを遥かに上回る怒りが押し寄せる。


「くそっ!」


 その荒ぶる感情と共に、石碑を殴る。


「悲劇を忘れない? 平和を願う? 共に戦う? 安らに眠れ? ふざけんな……ふざけんなよ! 皆、皆っ! 死んじまったじゃねぇかっ!」


 何度も何度も、石碑を殴りつける。見たこともない王の顔に見立てて、自身の手が痛んでも気にせずに。


「今まで、俺らの村になんか見向きもしなかったくせにっ!」


 村は孤立していた。辺境にあるのだから仕方がないと、皆で結束して守り続けていた。ほとんどが素人で、武器も手作り。それでも、村が存続するように、いつか来るその日が来ないことを願いながら戦い続けていた。そこに、国の力なんてなかった。


「こんな立派な石碑を立てる余裕があるなら……焼け跡を綺麗にする余裕があるくらいなら……」


 しかし、今はどうだろう? 国の力で、村は見違えてしまった。勇者出身の村となって、このような惨状に見舞われて、目立ってしまったから対応したと思わざるを得なかった。それを、許すことはできなかった。


「最初から、やっとけよおぉぉっ!?」


 村だった場所に叫びが響き渡り、叩きつけた拳が鈍い音を立てた。


「最初から……」


 怒りが爆発した後、押し寄せたのは――絶望と後悔。


(蝶女が勝手をしなければ、少しでも国が守ってくれてさえいれば、俺がしっかりしていれば。誰か助かったかもしれねぇのに!)


「親父もお袋も、村長も近所のジジババも……燃えちまった」


 ちらりと犠牲者名簿を見ても、名前が減ったり、実は書いてなかったりなんてことはなかった。


「名前がねぇのは、俺か。フフ……じゃあ、あいつは期待してんのかなぁ。俺が生きてるって」


 怒りや絶望が去った後、最後には空虚感だけが残った。乾いた笑いが、余計にそれを助長する。


「花……それと、ぬいぐるみ? このぬいぐるみって――」


 ふと、慰霊碑の下に視線を向けると、そこには食料品や花、工芸品などが供えられていた。その中には、見覚えのある物があった。薄い赤髪のぬいぐるみ、かつてルースから贈られたものだった。忘れかけていた屈辱的な出来事が蘇る。空っぽになっていた心に、再び感情が宿る。


『――兄さん!』

『あ?』

『これ……!』


 村を出るその日、ルースは自身を模した手作りのぬいぐるみを手渡した。離れ離れになってしまうのは寂しいから、お互いのぬいぐるみを持っていようと。それが、勇者として旅立つための渋々の妥協案。そして、彼はオースを模したぬいぐるみを持って村を後にした。

 が、そんな物をオースが喜んで受け取るはずもなく、見送りの後に森に向かって投げ捨てた。森は見事に焼けてしまっている。奇跡的に無事であるとは考え難い。となると、考えられることは――。


(あいつが、また作って置いていった? だとしたら、どんだけ暇なんだよ? そんなことに勤しんでる場合か? って、魔物に思われる勇者ってどうなんだよ。そんなに寂しいかよ。俺の欲しいもの、全部持ってってさ。こんなもん作ってよ……うっぜ)


 少し薄汚れたそれを、地面に叩きつける。


(あぁ、それでも俺は負けてる。俺は、足元にも及んでねぇ。早く、もっと……強くならねぇと。魔王軍として、この世界で認められ……同じく勇者として認められたあいつを倒す。そして、俺の方が強いんだって証明する。てめぇらが信じたものは、天が選んだ答えは間違いだったんだとわからせてやる)


 オースは、何の躊躇いもなく踏みつけた。決して薄れることのない憎しみを露に。


「今だけだ。今だけ……負けてやる。だが、最後に必ず俺が勝つ」


 そう呟くと、鬱屈としていた気持ちが晴れていくような気がした。


(さて……どうすっかな。まさか、ここまで何も残ってねぇとはな。もう、どこに何があったかもわかんねぇし……)


 辺りをどれほど見渡しても、村を想える物は1つも残ってはいなかった。ここで、できることなどオースには何もなかった。


(帰るか。あいつも待ってるし)


 遠くに見える武器屋に、視線を向ける。見えないが、見られているような気がした。それは、何となく。


(んで、町が大丈夫だったらちょっとプラプラして……魔王様の所に戻ろ。それで、村の皆がどんな風に死んだのか書庫で調べよう。いい感じに集められなかったら……仕方ねぇから、データバンクにアクセスだな)


「行くか……」


 一通り発散してすっきりしたオースは、足を一歩踏み出した。その瞬間だった。


【オ……モド、キ……テ】


 風に紛れて、か細い声が聞こえた――ような気がした。


「は?」


 それが、本当に聞こえたものだったのか、気のせいだったのか、確かめようもなく。


(気のせいか……)


 オースは小首を傾げながら、進むのだった。

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