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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第六章 久しブりトさよナらを

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もうソこにハないもノ

 少しの時が流れたが、オースは変わらずに景色を眺めていた。


「――ねぇ、そういえば」

「あ?」


 すると、何かを思い出したように、シアンは声をかけた。


「アマラって……あの傭兵団を作った人と同じ名前ね」

「あ、あぁ……そうだが」


 なんのことかわからなかった。が、当然の常識のように言われたもので、思わず知ったかぶりをしてしまった。オースが知っている「アマラント」は、たった1人だけ。


(俺の知ってるアマラントと同じ人間のことを言ってんのか? 確かに、あの人は傭兵だったが……まさか、そんなに有名人だったのか?)

 

 色々なことを考えて、関連性を探っていると、彼女は更なる情報を与えてくれた。


「アマラント傭兵団……実は、今、ロブの町にいる傭兵達はそれの所属なの」

「それが、何だよ?」

「発足者のアマラントさんは、レイトヴィーネ村の人って聞いた。それで、あの火事で亡くなったって」


 そして、彼女の言う「アマラント」とオースの知る「アマラント」は同一人物であることが明らかになった。と、同時に僅かな可能性が消え去ったことも。


(死んだ……? 村長が……あぁ、そうだよな。あの人は、戦うよな。でも、強かったのにな。じじぃにはなったけど、村の中じゃ1番頼りになったんだ。だって、傭兵上がりだったんだぞ? しかも、団作ってたって……)


 逃げ出すような人じゃなかったのは確かだ。きっと、最後の最期まで戦ったのだろう。可能性があると思っていた方が、愚かなのかもしれない。ただただ、ショックだった。越えたいと思っていた壁が、完全に消え去ったのだから。


「傭兵団は、死の知らせを聞いて……ロブの町に現れたの。あの辺りは、ほとんど国の手が行き届いていないっていうのと、初代の命を奪った魔物をこれ以上のさばらせてはおけないと」

「ふん、にしては随分とでっけぇ態度だったがな。善意を持ってるとは思えんが」


(村長は、そんな奴じゃなかった。きっと、変わっちまったってことだろうな。もう、村長が作った団はなくなったんだろう。そう思うと、なんか可哀想だな。名前だけが独り歩きして……)


 彼女は、ため息を1つついて言った。


「最初の内は……こんなんじゃなかったらしいんだけどね。それこそ、魔物退治とか、町の外に出る仕事を代わりに引き受けてくれたりとか。だけど、段々と傭兵達は変わっていったみたい。『守ってやってるんだから、飯くらいタダにしろ』『お前達のために頑張ってるのに、食事が貧相だ』『いい装備を作れ』『俺達の家をそれぞれ作れ』とかね。あたしが、町の人から聞いただけでもこれくらい。結構無茶苦茶で、本当は皆逃げ出したい。でも、町の外は魔物ばっかりで、傭兵達が町を守ってくれているのは確か。迂闊に町の外にも出られなくて、参ってるんだってさ」


 感謝される日々、やってあげているという優越感、元々の器が小さければ驕るには十分過ぎる状況だった。弱いと自覚する人間と、強いと錯覚する人間の性。


「本性って奴か? それとも、おだてられ過ぎて傲慢にでもなっちまったのかねぇ?」

「アマラがそれ言うんだ」


 彼女は、驚いたような口調で言った。


「は?」

「そういう感覚は持ち合わせてないのかと思ったわ。アマラも、傲慢だし」

「ふざけんな。俺は傲慢じゃねぇし、あいつらと同じにするな」


 同列に扱われることは、オースのプライドが許さなかった。


「いや、だったら……まぁ、いいわ。そういう話がしたいんじゃないもの」


 納得はしていない様子だった。ただ、話が横道に逸れ始めていると自覚し、追及は避けたようだった。


「したのは、そっちだろうが。で、何の話がしたかったんだ?」

「あたしが聞きたかったのは、アマラント傭兵団発足者とアマラは何か関係があるのかな? って、さっきふと思ったのよ。一応、同郷だし」


(関係しかない。だが、それはオースとしての俺。アマラントとしての俺じゃない。なんか、いいのあるかな……)


 生まれがレイトヴィーネ村だった男性にありがちなことを、オースは思考を巡らせて考えた。そして、それっぽい理由を作り上げていく。


「俺の……親が、その人を尊敬してたらしくてな。そっから、名前を取ったんだ。ま、その後はすぐに引っ越したから……要するに、村の有名人から名前を取ったってだけだな。特別な関係なんて、なんもない」

「そっかそっか」


 彼女は、安堵感いっぱいに頷いた。


「なんで、安心してんの」

「尊敬されるような人で良かったなって思ったの」

「他人なのに?」

「そんなの関係ないわ。今の状態のせいで、悪く言われるようなことがあれば、このあたしが反論できるでしょ」


 任せろと言わんばかりに、彼女は胸を力いっぱいに叩いた。一体、何の使命感があってそう言えるのか、オースは不思議でならなかった。


(無駄に正義感が強いってのは、こういうことを言うんだろうな)


「……変な奴」

「ひねくれ者の褒め言葉として、受け取っておくね」

「褒めてねぇ」

「またまた~」


 彼女は近付いてくると、オースの頬をつんつんと突いた。


「やめろって馬鹿!」

「あはは、ごめんごめん」


 手を振り払うと、困ったように彼女は笑った。


「ったく……」


 面倒な絡み方をしてくる奴だと呆れていた。その時、ふとある疑問がオースの中に降ってくる。


「なぁ……1つ聞いてみたいことがある。やたらと、正義感の強いお前に」

「ちょっと言い方。なぁに?」


 引っかかりを覚えつつも、彼女は応じる。


「お前にとって、あの町が傭兵に搾取され続けるのと、魔物に占拠されるの、どちらがマシに思える?」

「はぁ? 意味わかんないんだけど」


 思わぬ質問に、彼女は怪訝な表情を浮かべた。


「その選択肢しかなかったとして、どちらか一方を必ず選べと言われたとして……どの選択をしても、住民に死は訪れないとして……」

「どうして、そんなことを聞く訳?」

「俺が聞きたいと思ったから聞いただけ。同じ地獄ならどちらを選ぶのか。正義感の強いお節介さんの感覚の選択を知りたいんだよ」


 オースの真剣な眼差しに、彼女は困惑していた。意図が、意味がわからない。そんな質問をして、自分が選んだとして何になるというのか。


「意地悪のつもり? くだらないこと聞いてさ……」

「選べねぇってことか? つまり、どうでもいいってことか? 結局は、他人だから――」


 すると、すぐさま彼女は否定した。


「ありえない。あたしは、魔王を否定するわ。だって、やり方が気に入らないの。でも、同じくらいのあの傭兵達のやり方も気に入らない。その選択肢に、選択する価値を見出せない。だから、あたしは……そのどちらでもない方法で、あの町を救う。他人だからこそ、できることがあると思うから」


 人間である彼女にとって、やはり魔王は受け入れられるものではないようだ。あの下衆と同じように魔王を扱うことに、苛立ちを覚える。

 が、その怒りを表に出す訳にもいかず、心を落ち着かせるために再び窓から見える景色に視線を向けた。そして、見覚えのある風景と何もない真っ新な土地が見えた。


「あっ……」

「ん? あ、もう見えて……来たのね」


 オースの口から漏れ出た言葉から、彼女は察した。目的地は、もうそこにあると。


「降ろしてくれ」

「言われなくても」


 彼女は悲しい笑みを浮かべながら、壁に触れる。すると、空飛ぶ武器屋はゆっくりと降下していくのだった。

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