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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第六章 久しブりトさよナらを

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最悪ノ出アイ

 何もない空間で、オースは寝転がって物思いにふけっていた。仕事が終わってから、もうずっと。運ばれてくる食事にも、興味が持てない。気になるのは、グレースの言動ばかり。


(家族、家族って……家族のシャワー浴びすぎて、俺の頭まで家族でいっぱいだ)


 たまに考えるのは、弟であるルースのことくらい。そこに、想う気持ちなどない。それなのに、グレースの影響か急に村や家族のことが頭から離れなくなっていた。


(村は、家は、今一体どうなってんだろうな……)


 激しい炎に包まれ、燃え盛る村と黒焦げになった何かを見て以来だ。あの後、どうなったのか見聞きもしていない。


(誰か、生き残ってたりするのかな)


 もし、逃げる時間があったなら、何人かは近くの町で保護されたかもしれない。男性達は戦うために残ったかもしれないが、それ以外の者達なら可能性はある。


(親父とお袋は、死んでねぇのかな。あぁ、よく考えりゃ、俺1回も確かめたことなかったな)


 父は、戦いとは無縁の人間だ。前線で戦っている姿など想像もできない。母も、大人しくて虫すらも殺せないような人間だ。村に残る理由がない。生存者になっている可能性はある。


(いつか見た、あれは……)


 だが、ある日に見た光景が不安を誘う。葉の裏にある妙な卵に触れた時、心配して身に来た父の顔を見た時に目前に広がったリアルな幻。炎の中、逃げ惑う村人達と蝶の魔物に惨殺される両親の姿。偶然と片付けるには、妙に現実との共通点が多いことに気付いた。まるで、オースがいない間に起こることを見せられていたかのような。


「ふっ……馬鹿か、影響受け過ぎ、俺」


 そこまで行きついた所で、ふと我に返って鼻で笑う。随分と深い所にまで来てしまったと。


(確かめるか、真相のほどを。また深い所に辿り着いちまう前に。夢か現か幻か……ってね)


 オースは仰向けになり、何もない空間をぼんやりと眺める。


(でも、もし、生きていたら……生きていたら、俺はどうするんだ。戻るのか?)


 生き延びた村人と再会したら、両親に抱き締められたらとオースは空想する。あんなにも鬱陶しくて嫌気が差す存在だったのに、あったらと期待している。

 

(いや、戻れない。今更、戻って何になるんだ。もう、俺の居場所はここなんだ。魔王様に受けた恩を返さねぇと。魔物として、俺は生きていかねぇといけねぇんだ。それに、あの頃の俺の夢は村を出ることだった。うっかり顔を見せようもんなら、一緒にいようと泣きつかれるかもしれねぇ)


 心の中は誰にも見られていないのに、オースは1人で恥ずかしさを覚えて咄嗟に否定した。

 あの頃の気持ちを掘り返し、確認はしても姿を見せることは決してないと強く決意する。人間だった頃の自分は村で死に、今は魔王に尽くすためにあるのだと。


(様子を見に行くくらいならいいよな? 俺だって、あの村に生きてたんだ。その後、どうなったかを知る権利くらいはあるはずだ。声をかけたり、戻ったりなんかしなけりゃ問題ない。村がどうなったかを見れたら、気持ちも晴れるはずだ)


 しかしながら、オースは自由勝手に外出する術を持っていない。ならば、頼るべき相手はたった1人。


「魔王様の所に行ってみるか……よっと」


 オースは起き上がると、すぐさま念じる。もはや、これくらいのことはお手の物だった。ぐるぐると変化していく景色を眺めながら、手を握り締めた。


「……魔王様」


 魔王のいる空間に移動が完了する。魔王は、変わらずそこにいた。やはり、姿をはっきり認識することはできない。オースが目の前に来て、跪いたのを見ると不満そうに言う。


「そんなにかしこまるなと言っておろうに……」

「え、あ……つい。もうそういうもんだって、体が……」


 オースは、慌てて立ち上がる。刻みつけられた忠誠心故、どうしようもないことだった。


「まぁ良い。して、何用じゃ?」


(……セーフ)


 大きく機嫌を損ねなくて良かったと、オースはほっと胸を撫で下ろす。そして、ここに来た理由を伝える。


「……外出したい、っす」

「ほう! まぁ、遊びたい年頃じゃろう。どこに遊びに行きたいのじゃ?」


 それを聞くと、魔王は一転して声を弾ませる。


「遊びたい訳では……ちょっと、俺の国の様子をゆっくり見てみたいなって」


 嘘をついた訳ではない。村は、国にあった。村があった場所を見たいと、抽象的に伝えただけだ。具体的に伝えたとしても、魔王は笑って見送ってくれるだろうが、オース的に気まずさと申し訳なさがあるのでぼやかした。


「それは、良いな。あぁ、そういえば、テウメから聞いておるぞ、一仕事を無事に終えたとの。うんと羽を伸ばして来ると良い。じゃが、前言ったことは覚えておるのぅ?」

「あ、ありがとうございます! 勿論、覚えてます!」


 決して、完璧とは言い難かったが褒められると嬉しかった。認められた気がして。やっと報えた気がして。


「うむ、良かろう。ちと、目を閉じておれ。パチンという音がしたら、目を開けて良いぞ」

「はい」


 目を閉じ、身を委ねる。数秒後、魔王の言った通りパチンという音が体内で響いた。と、同時に喧噪に包まれ、まぶたの向こうから光が伝わってくる。目を開けると、そこは――。


(ここは……俺の村に1番近い町だ)


 幼い頃に見た景色と同じだ。多少の変化はあれど、おおよそは変わっていない。まごうことなき、ロブの町だった。


(とは言っても、馬車に乗っても半日はかかっちまうがな……)


 徒歩で行けば、1日以上はかかってしまう。最短を考えるなら、馬車が最適解。

 しかし、オースにはお金がない。御者も善意で馬を走らせている訳ではない。料金がかかる。この体で大暴れするつもりもない。つまり、歩くしかないということだった。


「――どけよ! ど真ん中に突っ立ってんじゃねぇ」


 そんなことを考えていると、オースは背後からガラの悪い男性に突き飛ばされた。体勢を崩し、オースは前方に倒れ込む。


「っ!? いってぇな!」


 大暴れはしないが、騒ぎはする。大人の体を貰っても、中身はオース。寛大な心で、場を収めることなどできるはずもない。抱いた不満を、ぐっと堪えることなどできるはずもない。すぐさま立ち上がり、彼に迫る。


「邪魔なんだよ!」

「は!? 誰に向かって言ってんだよ!」


 邪魔者に怒る男性と、突き飛ばされたことに怒るオース。睨み合い、言い合いを続けていく。その騒ぎを聞きつけて、野次馬が集まってくる。


「あぁ!? やるっていうのか!? こっちは、傭兵なんだぞ!」

「知るか! 俺は――」

「ちょっと! 公衆の面前で何やってるのよ! いい大人が!」


 一触触発の雰囲気に、誰も仲裁に入れないでいると、1人の女性が箒を持って間に入った。


「「あ!? 誰だよ、てめー!」」


 部外者の乱入に、2人は声を揃えて声を荒げた。しかし、彼女は怯まなかった。それどころか、持っていた箒を振り上げて――。


「誰がどうだとか関係ないでしょ! このっ!」

「てっ!? ひゃぁぁぁうっ!」


 1発目に、男性の大事な所を。彼は顔を青くし、大事な所を押さえながら崩れ落ちる。


「馬鹿共がっ!」

「ぎゃっ!? くぅぅぅ……!」


 2発目は、オースのみぞおちを。悪魔のような所業を目撃し、唖然としていた所にクリティカルヒットした。


「痛がってる暇なんていないわ。逃げるわよ」

「逃げる? なんで、この俺がお前と逃げなきゃ――」


 まだ、男性に反撃ができていない。1発でも1蹴りでも食らわせたかった。しかも、危害を加えてきた相手と逃げるなど言語道断だった。


「ああ、もううるさいわね! 行くわよ! 傭兵の奴みたいになりたいの!?」

「それは困る……おい、ちょっ!」


 場に留まり続けようとするオースを脅し、彼女は腕を引っ張って進んでいくのだった。それは、まさに最悪の出会いだった。

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