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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第三章 地の魔物

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敗北を糧に、未来のために

「――動き出したようです。遅くとも2日後に、拠点に到着するかと」

「そうか。それは良かった」


 リュウホウが自室で酒を飲んでいると、前触れもなくテウメが現れる。彼は、適当に相槌を打って返す。


「あら、随分と素っ気ないですね。そのお酒が、成功の美酒になるというのに」


 顔を覗き込んで、彼女は笑う。


「……貴様が目の前に現れた時点で、既に酒が不味い」

「酷いですねぇ、私達は同僚なのに」


 しばらく居座る気だと察し、彼は酒瓶を置く。


「1つ言っておくが、作戦は完全に遂行された訳ではない。成功と呼ぶには、不十分だ。浮かれるな」

「一段落がついたのですよ? ここまでの道のりも、決して平たんではありませんでした。少しくらいいいじゃないですか」


 敵を挑発し、騎士をおびき出す。テウメとリュウホウが役割を分担し、絶妙にオースをコントロールする。実に、手間と時間のかかる作戦だった。それを、ここまで成し遂げたのだから浮かれても仕方がないと彼女は思っていた。


「そういった油断が、無様な敗北を招いたのではないか?」


 しかし、彼はそうではなかった。最後の最後まで、気を抜くべきではない。最後までやりきり、かつ成功するまでは喜ぶことはできなかった。

 このように、価値観がまるで違うため、2人は相容れない。

 

「お言葉ですが、それは貴方もでしょう? 誰ですか? 華奢で愛らしい女性に負けたのは。それはそれは、無様でしたけど?」


 馬鹿にされて苛立った彼女は、かつてのリュウホウの失敗を掘り返す。無様な敗北をしたのは、自分だけではないと訴えた。

 それに対し、彼も負けじと言い返す。


「言っておくが、あの女は素晴らしかった。確かに、線は細く、力も弱い。しかし、それをカバーするかのような素早さと手数の多さ。あの勇者の片割れよりも、ずっと将来有望だ。我も、あの戦いから成長することができた。意義のある敗北だった」


 かつて、神聖騎士の1人である女性に、コートを切り裂かれた挙句、敗北した。油断でも怠慢でもなく、実力差。弱点を強みに変えていた姿に、彼は感銘を受けた。数少ない評価する相手だった。

 だからこそ、どう言われようとも恥ずかしさは感じなかった。


「敗北に意義なんてないんですよ。もっと恥じて下さい」

「ただ恥を切り捨てるだけでは、一向に成長できないだろう。切り捨てた恥の数だけ、貴様はあのオロとかいう騎士に遅れを取り続ける」


 彼女のコートを切り裂いたのは、オロ。その後、何度か戦っているが、勝利を確信した瞬間に大逆転を食らい、敗北を喫している。彼は平気で死んだふりをしたり、わざと追い込まれる。追い込まれれば追い込まれるほど、何かが彼を強くしている。長期戦こそ、彼の真価が発揮される。それに気付いたのは、保存された情報を見たリュウホウだった。

 結果、記憶領域にただ蓄積されていくだけだった情報が、ようやく意味を持ち、役立てられるようになった。ただ、それはそれ。


「はぁ……成長の味を噛みしめている暇があるなら、1回くらい騎士の彼女に勝ってみて下さいよ。それから、私に色々と言って下さい。私と同じように敗北をしている方にああだこうだと言われても、何も響きませんから」


 失敗を糧にしても、失敗を切り捨てていても、立っているステージは同じ。偉そうに、自分が正しいと説く彼の姿が気に食わなかった。


「だから、貴様と同じ敗北ではない。我は価値のある敗北を――」

「あぁ、もう結構です。そもそも、私はこんな話をしに来た訳ではないので」


 彼女は面倒になり、手を出して制する。さっさと本題に入ることにしたのだ。


「そうか、ならば帰れ。貴様とは、仕方なく連携しているだけだからな」

「そうもいきませんよ、最終確認をしたいのです。作戦の肝ですから」

「ならば、簡潔にしろ」

「はいはい。まず、騎士の到着を確認してからの作戦開始になることはご存じですよね?」


 彼女は適当にあしらい、詳細を話し始める。


「あぁ。事前に、それは聞いている」

「恐らく、彼は拠点にいる兵士を逃がすでしょう。今回も単独で行動しているようですし、防御や他人との連携が得意ではないようですからね。少しでもリスクを減らそうとするでしょう」


 彼女は、記憶領域にある情報を参照しながら、オロの行動を予測していく。


「当然の行為だな。勝つ気があるのなら、自身にとって最高のパフォーマンスを実現できる場所を用意するはずだ」

「えぇ。ですから、何も知らないフリをして、いつもと同じ襲撃をして下さいね」

「あぁ、そのつもりだ。堂々と罠にかかってやる。魔物も、型落ちを持っていく。貴様のために、わざわざ敗北しにいってやろう」


 普段であれば、最先端でかつ良質な魔物を引き連れる。が、この戦いにおいてはそれは無意味かつ無駄。廃棄寸前の魔物を有効活用することになったのだ。


「えぇ。しかし、1つ課題が」

「なんだ?」


(これ以上、仕事量が増えるのは御免だな。一体、何を言い出す?)


 その言葉に、彼は身構える。何か面倒なことが増えるかと思ったのだ。


「どのようにして、アレを前線に出すかです。現時点で、彼らは後援。突然、前線に出すのはどうだろうと思っていて……」


(なんだ、その程度か……)


「どうでもいいだろう。あの男には、十二分に教えてやったはずだ。命令には逆らえぬ。力なき者は歯向かえぬ。無理矢理でも、動かせる」

「心は読めません。比較的、アレは読み取りやすいかもしれませんがね。それでも、リスクは減らしたいんですよ。作戦上で、勝利を収めるためです」

「なら、自分で考えろ。貴様の作戦だ」


 この作戦は、テウメの考えたものだ。協力も、魔王の命に従っているまでのこと。言われたようには動くが、根幹に関わるつもりはなかった。


「ご相談したかったんです。私は、本来前線に出て戦うタイプではありませんし……いまいち、どうすべきかイメージがつきにくくて困っているんです。ですから、魔王軍に入る前から前線に立ってきたリュウホウさんにお伺いしたかったんです。どうか、ご助力頂けませんか?」


 彼女は、深く頭を下げた。一瞬、何が起こったのかわからず、彼は硬直する。


(この女が、我に深く頭を下げるだと? どうせ、邪な考えが根底にあるんだろうが。どうしたものか……)


 そのまま脳天を見つめながら、しばしの間、考えを巡らせる。そして――。


「ふん……仕方ない。今回だけは、特別に助けてやろう。既に、我には1つの案がある」


 作戦の根幹に、僅かながら関わることを決めた。ここで、恩を売れば、次に生かせることもあるだろうと。


「教えて下さい」


 彼女は素早く頭を上げて、興味津々に迫る。


「こちらの見立て通りに奴らが動いてくれていれば、ひっそりと静まり返った拠点にはなっているはず。そこで、我が作戦の変更を命じる。敵がいないため、物資の運搬に留めると。そうすれば、自然と動かせるだろう」


 戦いではなく、片付けを導入にする。そうすることで、違和感を拭える。こちら側で起こり得るイレギュラーの確率を消せるはずだと。


「なるほど、それで鉢合わせも可能ですね。魔物も弱いので、あの騎士の前には無力。後は、アレと騎士が1対1にならぬように配慮するだけ」


 彼女は、納得した様子で頷く。


「あぁ、我も作戦を出すだけ出したら、その場を離れる。我に、意識が向くようなことがあれば面倒だからな。命令を出して以降の動きは、我には関係ない」


 神聖騎士は、彼にとって最大の敵。侮るような真似はできない。作戦の滞りない遂行には、潔さも必要だ。


「勿論ですとも。あぁ、本当にありがとうございます。非常に助かりました」

「ふん。結局、話が長くなったな。はぁ、折角の休憩が台無しだ」


 満面の笑みを浮かべる彼女に、早く出て行けと手で払う。


「あっさりしていると思いますけどね。まぁ、いいです。お疲れ様でした。それでは、当日お会いしましょう。楽しみにしていますね」


 そう言い残すと、発生させた歪の中に彼女は消えていった。

 それを確認した後、ぽつりと彼は言葉を漏らす。


「我も、そろそろ動き出さねばならぬな」


(これが終われば、もう我が時間を奪われることもない。我は、我が目的のために動けるはず……それまでの辛抱だ)


 彼は、懐にしまっていたペンダントを取り出して開く。そこには、写真があった。写真の中では、リュウホウと女性、幼き少女が笑っていた。それを、悲しそうに見つめながら、彼は一気に酒を飲み干した。

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