狙う者
命令に従い、オース達はがれきの中から使えそうな物を手当たり次第に集めていた。魔物は、そこら中に転がる遺体を回収している。
「オースも、すっかりこの光景にも慣れたみたいだね。元からたくましかったけど、よりたくましくなるなんて心強いなぁ」
「慣れる訳ねぇだろうが……」
ぼそりと、オースは呟く。今この瞬間は耐えられるようになったが、後でその反動が来る。
(余計なこと言ってきやがって……)
オースは手を止め、ため息をつく。
(どういう根性してんだよ)
あのルースですら、無視されると、下手につきまとったりしなかったのに。こうなると、馬鹿らしくなり、諦めて口を開いた。
「で、お前はなんで俺の後ろをついてくるんだ?」
「なんでって、単独行動は危険だからだよ」
当たり前だろうと言わんばかりの表情で、彼は断言する。
「はぁ……ただの後片付け。それに、今までも生き残りとも出会ったことがない。経験的に、何の問題もねぇ」
規模に差はあれど、十数に及ぶ拠点を潰す活動を傍観し、後片付けに身を投じてきた。あれ以降、生者と遭遇してはいない。
「その経験は、役に立たないと思うよ」
しかし、その自信をあっさりと切り捨てる。
「あぁ? なんでだよ」
「広い世界では、何が起こるかわからない。いつまでも、同じ経験は通用しないよ。あまりにも踏んだ場数が少な過ぎる。それを、経験として語るのは……時期尚早さ」
彼は空を見上げ、不敵に微笑んでみせる。
「て、てめぇ……俺だって、お前がいねぇ間に10か所以上巡ってんだぞ」
「なるほど、だったらますます危険だね」
その笑みを浮かべたまま、視線だけオースに向ける。
「はぁ?」
「短期間に集中的に、敵の拠点を狙う……相手からして見れば、随分と挑発的じゃないかい? そろそろ、向こうも本気で対処しようとしてくるんじゃないかな。例えば、神聖騎士を呼び出してね。彼らは、あちこちで求められて忙しいから、簡単に動かせない。けれど、ここまでの被害になったのなら、こちらの優先順位も上がるはず。今頃、次に狙われる可能性がある場所を絞り込んでいるかもしれないよ」
事実、魔王軍は挑発していた。被害をじわじわと広げ、甚大な被害を出せば、神聖騎士も動かさるを得なくなる。そのため、あえて場所を絞りやすいように特定の地域に集中させていた。
他の雑兵では許されない。神聖騎士でならなければならない理由がある。それは、オースにとって、簡単には越えられない壁とするため――。
「でも、生き残りはいねぇ! 襲撃を受けた情報だって伝わってねぇかもしれねぇじゃねぇか。完全な戦地で、人の気配はこれっぽっちもなかった!」
普通の神経をしているのなら、戦場に入りたがる一般人はいない。兵士も殲滅されている以上、情報が伝わる余地はない――それがオースの考えだった。
「う~ん……でもね、彼らだって生きている。生きていくには資源がいるだろう。頻繁ではないだろうが、人の流れはあるはず。人がいる限り、途切れたりはしないものさ。もし、決まった時間や日程があるのだとしたら、穏やかではいられないだろう」
受け取り場所に現れない。届けに行けば、拠点はひっそりと静まり返っている。それで、何もないとは片付けられないだろう。
「人目に触れないというのは、そろそろ限界に近付いている……そう思わない?」
「じゃあ、もういつ来てもおかしくねぇってことか? さっき集合かけられてる時に、騎士が現れてもおかしくなかったってことか?」
彼は向き直り、オースの心臓部分を指差す。その顔からは、笑顔は消えていた。
「まぁ……そういうことにはなるよね。もしかしたら、どこかで君にもう狙いを定めているかもしれないよ」
「や、やめろよ。そんな風に脅すの」
そう言われると、どこかで誰かに見られているような気がして、思わず周囲を見渡す。
「脅しというか、説明というか……いずれ訪れる真実だよ」
「何を根拠にそんなことを……」
「説得力がないかい? まぁ、確かに魔物になってからは日は浅いからね……でも、人間時代も騎士として戦ってたんだよ。それなりに、知識はある」
「騎士? 貴族じゃねぇの?」
神聖ランプト王国の貴族で、命乞いをしたから魔王軍に拾われたという話だったはず。その話の中に、騎士どうこうというものはなかった。それに、騎士という風格はレイにはない。
すると、少しの沈黙の後、彼は口を開く。
「……貴族の騎士だったんだ。それくらい戦力が足りなかったみたいで、急遽発足した。歴史はない。実力も……兵士にも劣っていたよ。だから、胸を張れるようなものでもないのだけど……君よりは見てきたと思うよ」
真っ直ぐに見つめる黄色い瞳。嘘はついていない、と表情で訴えかけているようだ。どうしても、それがわざとらしく映り、オースは納得できなかった。
「……後から、そんなこと言ってきてずるいぞ。俺を納得させようと、嘘ついてんじゃねぇの? 証拠は?」
「証拠……証拠と言われてもなぁ。情報を管理するような所に入れれば……あるんじゃないかなぁと思うよ。私達は、到底行けない所だ」
決めつけたような言い方に、オースはむっとする。できないと、他人に限界を決められるのはしゃくだった。
「なんで、それをお前が決めつけるんだよ。お前は行けねぇかもしれねぇが、俺は行ける!」
オースは、目に炎を灯して宣言する。その姿を見て、レイは高らかに笑う。
「フフ……アハハ! そうだね。確かに、オースは強いし素質がある! 本当に成せた暁には、是非とも私の情報を見つけ出してくれ! そして、自らの目で確認して欲しい! 私の真実を! きっと、その時が……改めて君と向き合う日だね。フフフ……楽しみだよ。それまで、私が疑われているのも何とも複雑な感情を抱けていいね!」
そして、長ったらしく、一方的な思いを語る。そのほとんどの言葉を、オースは受け流した。
「気持ち悪いが……まぁ、そういうことだ!」
「楽しみだなぁ……フフフ! あぁ、本当に!」
狂気的な笑顔の裏にあるものを、この時のオースは感じ取ることができなかった。
***
一方その頃、襲撃を受けた要塞の被害を確認する人物がいた。
「――本当に、1人で行かれるのですか?」
「あぁ、1人で行くよ。これは、明らかに幹部連中の仕業だと思うからねぇ」
その人物の名は、オロ=トレント=ゲルラ。神聖ランプト王国の神聖騎士の1人。かつて、オースを本気で殺そうとした男性だ。
「しかし……」
「足手まといはいらないよ。正直、守りながら戦うのは得意じゃないしねぇ」
優しげな笑顔を浮かべながらも、荒れ果てた要塞を見据える彼の声は凍えるように冷たかった。神聖騎士の迫力と言葉に、兵士は黙って頷くしかなかった。
(売られた喧嘩はちゃんと買うのが、我がポリシー。さてさて、今回の売り手はどちらかな)
テウメとリュウホウ、2人の姿が脳裏をよぎる。どちらも殺したいほど、憎たらしい相手だ。今回の出来事で、さらにその思いが増した。
「一体全体、どういう魂胆なのか……やれやれ、こっちは勇者様のお世話に大変だって言うのに。手間をかけさせてくれるよねぇ。そう思うよね?」
「え? あ、あぁ……そうですね」
話を振られると思ってもいなかったため、兵士は曖昧な返事をしてしまった。しかし、これでは失礼だと慌てて言葉を付け足す。
「み、皆! オロ様に、全てを託します。どうか……ご無事で!」
「うん。でも、もし……私が数日経っても帰って来なかったら、彼女を呼ぶんだよ」
「そ、そんな……オロ様に限って、そんなこと――」
「例外だらけさ、この世界は。生きるとは、そういうことだ。さて、遺言はこれくらいにしておこう」
そう言うと、ようやく兵士に視線を向けて、微笑んだ。
「じゃあね」
そして、彼は獲物のいる場所へとただ1人で向かうのだった。




