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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第三章 地の魔物

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怒りを剣に

(魔術師になる素質が、俺にある? それで、強くなれる? あいつに……及ぶ存在になれるのか?)


 レイの言葉が、ぐるぐると脳内を駆け巡る。

 あの時、生きたいと強く思い、魔の手を取った。出し抜かれた屈辱を払うため。どんな手段を使ってでも、兄としての威厳を保ちたかった。レイの見立てが確かならば、ようやくその階段を登れるということになる。


「俺の可能性……」

「あぁ、オースは可能性の塊さ!」


 魔術を操り、ルースを完膚なきまでに叩きのめす姿を妄想していた時だった。


『全軍に告ぐ。作戦は無事に遂行された。これより、生き残りの殲滅と物資の運搬を行う。ただちに、要塞前に集合せよ。集合前に遭遇した場合も、作戦は遂行するように。ただし、手間取ることは認めない』


 脳内に指令が響き渡り、一気に現実へと連れ戻される。

 

「……行こうか?」

「行こうか? って、お前歩けるんの?」

「それが……全然、力が出ないんだよね」


 腕の中、照れ臭そうに彼は笑う。案の定の返答だった。自力で立てなくなっているくらいなのに、歩けるはずもない。


「まさかとは思うが、俺におぶってもらうつもりじゃねぇだろうな?」

「いやいや、まさかそんな。大丈夫、何とか私自身の力で辿り着いてみせるさ」

「そうか、頑張れよ」


 オースは、彼を置いて立ち去ろうとした。


「う、うぅう……うう……」


 しかし、背後から聞こえるうめき声と地面をひっかく音が気になって、数歩進んだ所で足が止まる。

 振り返ってみると、案の定、土まみれになったレイがもがいていた。先ほど見た時と、位置はまるで変っていない。


(ですよね~。これで、こいつが来なくて連帯責任みたいな扱いされるの嫌だし……)


「はぁ……」


 オースは、深いため息をつく。


「しゃーねぇなぁ」

「あはは……」


 彼を担ぎ上げると、付着していた土が雨のように降り注ぐ。


(軽っ! 土がっ!)


「おえっ!? うわ、もう最悪!」

「ん? どうしたんだい!?」


 一体どうしたのか、とレイは体を動かす。すると、土が大量に開けた口に入った。


「わ! 動くな、馬鹿! ぺっぺっ! あ~! 土が口に入った!」

「ご、ごめん。口を洗うかい?」

「いい! 水場探すのもだるいし。今は時間が優先!」


 ぺっぺっと土を吐き出すと、オースは足早に要塞へと進む。


「あぁ……オースは、なんて優しいんだ。私を抱え、自らのこともいとわないなんて! 感動で、涙が……」

「俺を涙で汚したら殺す」

「おやおや、それは何ともおっかない……」

「それと、動くなよ。次に土が落ちてくるくらい動いたら、投げ飛ばす」


 こんなくだらない会話をしていないと、レイを抱えていることも忘れてしまいそうだった。


(……こいつ軽過ぎる。同い年の男の体重じゃねぇよ。ほとんどねぇようなもんじゃん)


 彼は華奢な部類だが、それにしても軽過ぎた。ぬいぐるみを抱えているのと大差ない。

 正確なことはわからなかったが、ちらりちらりと覗く銀色のものから、オースは推測する。


(中身がこれだから、体重がほとんどねぇ……のか?)


 疑問は聞かなければ、落ち着かない性分だ。何気ない会話を装い、オースは探った。


「つかさ、お前……軽いな」

「魔の細胞を受け入れた結果だよ。この人間の姿は、被り物。私の本体は、不気味な銀色の塊さ。だから、軽いんだ」


(人形に、大量の綿を入れ過ぎて溢れ出してきたみたいな感じなのか? いや、燃料注ぎ込み過ぎて軽く爆発した物みたいな……?)


「ふ~ん。でも、お前と練習してる時は、全然気付かなかった。今触れてても、骨みを感じる」


 スライム状の柔らかさはなく、確かな骨の感触を感じ取れた。しっかりと体を支えているのだと、言われても信じられないくらいだ。


「う~ん、これは中々説明が難しい。私も、完全に理解していないからね。元々、あったものをあったように再現できるというのは聞いたんだけど。骨から何まで……」

「つまり、お前の細胞の能力は、生命力の吸収と物体の再現か?」


(それを完全に使いこなせていねぇから、こんなことになっちまってるってことか? 生命力は見境なく吸い取っちまうし、体も再現できているのは感覚だから、すぐに修復できねぇ……)


 これまで見てきたことを参考に、オースなりに考察していく。


「多分……?」

「は~大したもんだ!」


 しかしながら、彼はあまりにも自身のことを把握していなさ過ぎた。よくそんなもので生きていられるものだと、オースは呆れ混じりに感心していた。


「力になれなくてごめんね……あ、そういえば道はわかる?」

「ったく、道案内できなきゃ捨ててたな。1回、下ろす」

「わっ!?」


 雑に彼を下ろすと、腕を引っ張り無理矢理背負う。その反動で、ほろほろと皮膚の破片が舞った。ちょっとした腹いせだった。


「体が崩れてしまうかと思ったよ」

「少々だろ。で、要塞までの道は」


 道がわからない。土地勘はまるでない。少しでも早く辿り着くには、彼の協力が必要不可欠だった。


「あの道はどうかな。少し道は悪いけど、たまに人が使うから通れはするよ。距離は近くなる。色々気遣いながらでも、リュウホウ殿が不機嫌になる程度で済むだろう。さっき来た道は、オースが全力疾走できなければ半殺しになるだろう」


 そう言いながら、彼は森の中を指差す。よく見てみれば、少し開けて道のようになっていた。先ほど来た道と比べれば、かなり歩きにくそうではあった。


「根拠は?」

「経験さ」

「よくもまぁ、その経験を自信満々に言えるもんだな。もしかしたら、とか思わねぇのかよ」

「そういった経験がないからね?」

「はぁ……もういい」


(俺まで馬鹿になりそうだ)


 いちいち返答するのにも疲れたオースは、彼の言葉には無を決め込んだ。しかし、時折、交じる道案内だけは聞き逃さぬように注意していた。


(たまに、人も通っていたっぽいな。この辺にも誰か住んでたのか? もしくは、兵士達が抜け道として利用しているかのどちらかか……)


 地面は、踏み鳴らされて硬い。獣が通るだけにしては、随分としっかりとしていた。見た所、この地は完全に戦場として機能している。とてもではないが、一般人には住めそうにもない。


(もしかしたら、逃げ延びた兵士とうっかり遭遇しちまったりなんかして……)


 特別焦ることなく、そんなことを考えながらオースは進む。

 これくらいの道ならば、森に囲まれた生活をしていたオースには当たり前。加えて、彼は軽い。なんてことはなかった。


「そう、そのまま真っ直ぐ! ほら、要塞が目の前にまで……おや?」


 レイの視線の先には、地面にうごめくものがあった。


(マジか……)


 近付くにつれて、それが人であることを認識する。格好から察するに、兵士のようだ。ダメージを受けている様子はないが、まるで亀のように地面を這う。

 

「なんかいるぞ」

「そうだね……生命力と意地が強い人だ。可哀相に、きっと独りで心細いことだろう」

「だろうな。でもまぁ、構っても仕方ねぇ」


 彼が、無力なのは明らか。わざわざどうこうする必要もないと、彼の横を通り過ぎようとした時だった。


「――がっ!?」


 両手足首、首をきつく締め付けられる感覚が襲った。激痛と窒息感に、オースはその場にしゃがみ込む。


「はぁ、はぁ、はぁ……な、んで……」


 首元を抑え、必死で新鮮な空気を取り込む。


「生き残りの殲滅を命じられたはずだよ。見逃すなんて、それに反する行為だ」

「こ……殺せってのか? この俺に!?」


 目の前に、生きている人間がいる。それを、自らの手でトドメを刺せと言う。意味がわからなかった。わざわざオースである必要はない。この場には、もう1人その役割をこなせる人物がいるのだから。


「私はこの通り。遂行できるのは、君しかいないだろう?」

「無茶苦茶言うんじゃねぇ!」


 彼は、半笑いで諭す。それが声だけでも十二分に伝わり、オースは怒りを露わにした。


「あ、あぁ……誰か、そこにいるのか」


 2人が言い合いをしていると、兵士が言葉を発した。非常にぎりぎりの状態で、オース達の姿は見えていないし、耳も随分と遠くなっているみたいだった。


「できるよね? オース」

「なんで、俺が……お前、べちゃくちゃ喋ってただろ!」


 明確に、自分自身が殺すという行為から逃げたかった。


「時間があまりにも足りない。こんな状態じゃ、明日になってしまう。そうしたら、きっとリュウホウ殿がお怒りだ。だから、オース。君にしかできないことなんだ」


 彼のボロボロになった腕が視界に入る。わかっている。この場で、命令を遂行できるのはオースだけなのだということくらい。


「で、でも……」


 けれど、決心をできずに口ごもっていると、非常に冷たい声でレイは言い放つ。


「自らの手で、人を殺めるのはそんなに嫌かい? でも、オースはもう既に人殺しの片棒は担いでいるんだよ。さっきまでのは直接的じゃなかっただけ。君は、もう魔王の配下なんだよ」

「そんなことは、わかってんだよ!」


 逃げ出したかったが、背中には彼がいるし、首という首を絞めつけられてしまう。葛藤の狭間で、オースは声を荒げた。


「いいや、わかっていない。わかっていたら、迷いなんてないよ。ほら、兵士さんは剣を持っているみたいだよ。一瞬で楽にしてあげよう!」


 レイは、兵士の息の根を止めるためのものがどこにあるかをわざわざ丁寧に教えてくれた。


「誰かいるんだよな? 大変なことになった。目と耳の調子が悪いんだ。貴方達も手負いかもしれないが、助けて欲しい」


 オース達の物騒な会話の詳細は、まるで聞こえていないみたいだった。ただ気配と話し声だけで判断し、助けを求めている。


(何も知らねぇ。死すら……わかってねぇ。俺達が敵だということすらわかってねぇ。でも、殺さないと……死ぬより酷い目に遭う! 逃げたら、負け……俺は、勝つ! 俺は、俺は……!)


 震える手を抑えながら、兵士の腰から剣を抜き取る。煌めく刃に、歪んだ表情のオースが映る。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 もう締め付けられていないのに、息が乱れる。


「ここで手間取っていたら、リュウホウ殿の怒りに触れるよ」

「うるせぇ、うるせぇ……うるせええええええっ!」


 露骨に煽られ、オースの脳裏に今までの屈辱が全て蘇った。それは、怒りとなって弾ける。体は勝手に動き、剣を振り上げた。


「くそがあああああっ!」 

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