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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第三章 地の魔物

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ボロボロの体

「お、おい……!」


 既に、オースの声はレイには届いていなかった。意識を全て、要塞に向けていたからだ。他のことに気を取られてはならない。人間から、殺さない程度に生命力を奪うことが仕事だから。これ以上の失敗は許されない。


(これが、あのレイかよ……?)


 その気迫に、オースはたじろぐ。


「……っ! う、ぅう……!」


 じわじわと流れ込んでくる生命力の影響か、彼は苦痛に満ちた表情を浮かべる。それを、オースは想像することしかできない。


(どんな感じなんだ? 生命力が流れ込んでくるのって……)


 記憶の中にある、嫌な経験を思い返す。


(服着たまま、水の中に入ると来るぞわぞわって奴か? あれ、気持ち悪いんだよな。でも、痛いって感じじゃねぇか……)


 最初に思いついたのは、川で溺れたルースを助けようとした時のこと。寒いし、体は重いし、服はべっとりと体につく。実に、嫌な経験だった。

 だが、表情を見るとそれではなさそうだった。ならばと、別の記憶を探る。


(素足で尖った物を踏んづけた挙句、滑って頭をぶつけて……痛かったなぁ)


 幼い頃、靴を履くのが嫌だと駄々をこね、部屋の中を走り回った。結果、ルースが置きっぱなしにしていた木彫りの人形を踏みつけ、その拍子に滑って転んで頭を打った。痛みと共に、今でもしっかりと覚えている。


(でも、そのレベルの顔じゃねぇんだよな。ずっと苦しそうで、ずっと痛そうだ。あぁ、魔術とかマジで知らねぇからクソみたいな想像しかできねぇ。理解しきれてないから怖過ぎる。つか、そもそも生命力って何だよ。そのフワフワとした言葉は。もっと、知らねぇ奴にもわかるように説明するくらいの努力はしろよ。それくらいやってから、能力を使えよ!)


 レイの額には汗が浮かび、顔色がどんどん悪くなっていく。聞いていなかった事態に、ただただ焦ることしかできない。わからないから腹が立つ、教えてくれなかったことにもストレスを感じる。この無力感が、本当に苦痛だった。


(こんなおっかないものを、レイが暴走しだすまで、ただ傍観してろって……)


「はぁ……はぁ……」


 ついに、彼は肩で呼吸し始める。


(ヤバくね? でも、暴走って感じじゃねぇ……下手に触って、俺までおかしくなったら元も子もねぇ?)


 このまま放っておいた方がいいのか、それとも構うべきなのかと葛藤する。しかし、そうしている間にも、彼の状態は悪化の一途を辿る。


「ア、アァ……」


 ついに、彼の口から、銀色の液体が零れ落ちた。


「何!? え、え……ヤバくね?」


 それでも、彼は術の発動を止める気配はない。少しずつ量が増え、あっという間に銀色の水たまりが完成する。さらに、彼の顔にひびが生じ始めた。


「いぃぃぃっ!?」


 そのひびは深くなり、顔の破片が一部ぱらぱらと落ちていく。覗くのは肉でも骨でもなく、見慣れぬ銀色に光るスライム状の何か。あまりの以上さに、オースは後退りする。

 すると――。


「生命力……まダ、ある」


 魔術を使い始めて、彼はようやく言葉を発した。だが、何か様子がおかしい。目は虚ろで、声にも心を感じない。まるで、人形のよう。


(もしかして、これが制御できねぇ暴走状態ってか!?)


「欲しイ……魔王様ノ為に……」


 怪しげな笑みを浮かべると、さらにひびが深くなる。そして、落下して覗く銀色の部分が増えていく。


「生キる、生きる、生キル、イキル……!」


 様子がおかしくなってから、さらにそのスピードが高まっているのがわかる。どういう訳かはさっぱりだが、こういう時のためにオースが連れて来られたのだ。何かがあれば、後でリュウホウにとんでもない目に遭わされてしまう。責任を問われるのは勘弁だった。

 それに、このままではレイが怪物になってしまうような気がした。人間という皮が綺麗さっぱりなくなって、レイがいなくなってしまうような気がした。


(俺が助けてやらねぇと……こっちも酷い目に遭っちまうしな!)


 どうなるかわからないリスクよりも、明らかになっているリスクの方が怖い。だから、助けてやるのだ。自分が他人のために動くなんてありえないし、恥ずかしい。決して、唯一無二の友達だからという訳ではない。

 

「戻ってこいっ! レイ! お前の溜め込んだ生命力、俺によこせっ!」


 頭をまっさらにして、暴走するレイに突進する。そして、力強く彼の手を握った。その瞬間、体に何かが流れ込んでくる。その感覚は、これまで一度も経験したことのないものだった。


「な、んだ……これ」


 体の奥を突かれるような痛み、自分ではない何かが体内を埋め尽くしていくような気持ち悪さ、胸を締め付けられて息苦しさを覚える。


(こんなに苦しいのか、そんな仕事を今までずっと1人で……)


「ああぁぁっ!」

「ぎゃああああ!」


 遠くでは、断末魔が響き続ける。誰も報われない。誰も彼も苦しい。これが、争いの本質。敗者は明日を生きられない。未来を描けない。思い描いた夢は叶わない。


「オース……?」

「レイっ!」


 過剰に取り込み過ぎた生命力から解放されたことで、レイはようやく自我を取り戻す。力を失い、崩れ落ちそうになった彼をオースは抱き留める。


「あぁ……そうか、やはり私は駄目だったのだね。ありがとう、オース」


 オースの腕の中で、彼は儚い笑みを浮かべる。崩壊は収まったようで、異質なものの面積は増えたりはしなかった。


「感謝するのは当然のことだが、勘違いするなよ。お前のためにやったんじゃない。俺のためにやったんだ。ったく、手間かけさせやがってよ」


 その様子を見て、オースはほっと胸を撫で下ろす。だが、彼を心配していたなどと思われるのが嫌で、ぞんざいな態度を取った。


「ごめんね。でも、やっぱりオースは凄いなぁ」

「え?」

「私の体は、ご覧の通り……ボロボロだろう?」


 ひび割れた腕を見て、悲しそうに彼は言った。


「あぁ、急に体にひびが入ってぱらぱらと崩れ落ちた。そんで、顔面から銀色の変な奴がちらちら覗いてんぞ」


 腕や首元はまだひび割れ程度だったが、顔部分は3分の1程度が銀色になっていた。


「私の貯蓄できる生命力の限界値を超えたんだ。私という器には、抱えきれなかった。また、奪い過ぎてしまったんだ」

「えぇ、結局? 暴走してんのかしてねぇのかよくわかんなくてさ。おかしなこと言い始めてから、止めたんだけど……」

「いや、問題はないだろう。吸い取り過ぎたことは間違いないが、味方に影響を及ぼすほどではなかったみたいだ。何かあれば、私達はとっくに元の空間に強制移動させられているだろうから」


 止めるタイミングは、遅かったかもしれないが、遅過ぎたという訳ではなかったようだ。


「はぁ……良かった。てか、お前はその体どうすんの?」


 無意識的に、本音が漏れた。が、そのことにオース自身気付かなかった。


「テウメ殿に修理してもらうんだ」

「ふ~ん、大変だな」


 レイの自然治癒は時間がかかるのか、それともこのタイプの怪我は治癒できないものなのか、どちらにしても大変そうだった。

 

「オースには、何ともなくて良かったよ。わかるかな? 君は、私が奪った分の生命力をほとんど自分のものにしたんだよ」

「へ!?」


 治癒できないことを特別嘆く様子もなく、すぐにオースについて語り始める。すっかり、いつも通りのレイだった。


「だから、私の体の崩壊も落ち着いたし、自分を取り戻せた。流石だ、凄いなぁ」

「でも、気持ち悪かったり、痛かったりしたぞ」


 外面にこそ異変はないが、内面は一気に異変が襲い掛かって地獄だった。


「そういうものだよ。でも、君の限界値は超えなかったんだ。崩壊も暴走も起こらなかった。つまり、君は……素晴らしい素質の持ち主だ」

「素質? なんの?」

「魔術師さ。魔力の源は、生命力。それだけの量を確保してなお、無傷なんだ。これは、テウメ殿に報告した方がいい。オース、君は強くなれるんだよ!」

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