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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第三章 地の魔物

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もしかしたら

一話分飛ばして投稿してしまっていました。

すみません!

今週は二話分投稿しますので、来週はお休みさせてください。

教えて下さり、本当にありがとうございます……

 レイの話を聞きながら、ぼんやりと後に続く。何やら色々と説明してくれていたが、ちっとも頭に入ってこなかった。


「――あ、やっと要塞がはっきりと見える位置に来た。うん、ここがちょうどいいね」


 そう言って、要塞を指し示す。気が付くと、高台の見晴らしのいい場所に辿り着いていた。


(確かに、この位置からだとよく見えるな。明かりがついてる。人がいるってことか……)


 当然だが、人間にとっての敵は魔王の勢力。その支援を行うオース達も敵である。同じ種族でありながら、立場は真逆。これから、ずっと敵だ。


(あの塔……見張りがいる。こんな夜に、ご苦労なことだな)


 当然ながら、要塞では人間達が脅威がないか見張っている。特に、夜というのは休まる時間で視野も悪くなる。その虚を突かれることがないよう、交代制で見張りを置いて警戒していた。


(あぁ、あそこで誰かが休んでる。火にあたって、温かそうだな)


 庭っぽい場所で、何人かが火を囲っている。今日は、番ではないのだろう。椅子に座り、何やら楽しそうな声も聞こえる。彼らは、警戒心が皆無の様子だ。襲撃される可能性など、これっぽっちも今は頭にないだろう。

 

「……なぁ」

「うん?」


 動く人影を見ると、あそこには生きている人間がいるのだと実感する。


「レイは、どうとも思わねぇのか」

「何が言いたいの?」


 もしかしたら、明日、家族と食事をする者もいるかもしれない。

 もしかしたら、恋人と会える日を待ちわびている者がいるかもしれない。

 もしかしたら、生まれた子供の顔を未だ見れていない者がいるかもしれない。


 奪われた日常を取り戻すため、役目のために仕方がなく――各々がそれぞれの事情で前線に立ち、武器を持つ。しかし、果たして一体何人が朝を迎えられるのか。

 何も知らない彼らの姿を見ていると、かつての自分の屈辱が脳裏によぎった。


「今から、俺達は人殺しの手伝いをするんだろ。直接的じゃないにしても……どうして、そうゆったりと構えてられるんだ?」


 心の準備はできていない。覚悟ができていない。怖くてたまらない。この位置でも、平常心を保っていられる気がしなかった。

 しかしながら、隣のレイは非常に落ち着き払っている様子。何故なのかと問うと、彼は目を伏せて言った。


「もう、何度もこなしてきた。最初の頃は、葛藤もあった。けれど、職務放棄をすれば、後から酷い目に遭う。最近は、割り切れるようになってきたんだ。私は魔物で、彼らは人間。仲間ではなく、敵なのだとね」


 何も最初から、全てを受け入れていた訳ではない。最初は、レイも同じように苦しみ悩んでいたという。

 だが、そんな告白よりもオースには気になることができた。


「まさか、お前も……魔物の細胞を?」


 年齢、出身、種族、性別は完全に一致。ここに連れて来られてからの境遇まで似通っているとなると、シンパシーを感じずにはいられない。


「とはいっても、オースとは雲泥の差だよ。テウメ殿から聞いた。君は強力な魔物細胞に、唯一耐えた子だと。可能性と未知性に満ちているんだってね。私は、君と同じ細胞を移植したら右腕が壊死しちゃってね……何とか治して貰ったけど。生命力を吸収する細胞だけで、私は限界だったみたいだ」


 自身の右手を、物悲しそうに撫でながら語る。彼が言うことには、魔物細胞はいくつかの種類があり、オースが適応したことは中々に珍しいことらしい。


(詳しい説明を受けてねぇからなぁ……そいや、俺が第一人者とか言ってたような、ないような)


「マジかよ、俺ここに立ってるの奇跡じゃん。てか、生命力を吸収? 移植された細胞によって、機能が違う訳?」

「あぁ……そうさ。多種多様みたいだよ。魔は、生命力があればあるほど強くなる。形に囚われない。無限大なんだって」

「ふん。じゃあ、俺は滅茶苦茶強いってことか。で、レイはどれくらい強いんだ?」


 などと強気なことを返しながらも、内心はかなり焦っていた。


(俺にも、その魔の力が体内にある。これまでのことを考えると、俺には驚異的な回復力があるってことか? これから、どうやって可能性を広げて行けばいいんだ? これ1つで、あいつに勝てるのか? こんなんで、強力な魔物細胞持ってますって誇れねぇよ)


 焦げた体や、リュウホウにつけられた傷もほとんど元通りになった。が、それ以外で、今の所は特別なことを実感した覚えがない。これでは、勇者となったルースには到底及ばない。


「私は、短時間であれば体内に貯蔵することができるよ。限度はあるけれど……使いこなせれば、強力な魔術も使えるらしいよ」

「らしいって、使いこなせたことねぇの?」


 何度も戦いの場に出た経験があるというものだから、それはそれは大層なことができるのだと思っていたために、オースは拍子抜けしてしまった。


「生命力というのは、何も人間だけが持っているものではないからね。植物や物に宿る僅かな生命力まで、私は吸い込んでしまう。だから、自分の容量を超えた生命力の制御ができなくなって、敵味方問わず奪ってしまうことばかり。だから、よくリュウホウ殿に怒られるんだ」

「マジかよ……」


 なんと、生命力はあればあるほどいいというものでもないらしい。その器にあった量でなければ、制御できずに暴走してしまうとか。


「オースには……私がおかしくなったら、この手を握って欲しい。取り込み過ぎたものを、君に渡す」

「え!? 生命力を俺にくれるって? おかしくなるかもしれねぇのに? 勘弁してくれよ。そもそも、どうやってそんなことをやるんだよ」


 とんでもない提案を受け、オースは不安を覚える。暴走する彼の手を取ることも、溢れ出た生命力が自身に流れ込んでくることも恐ろしかった。自分自身に降りかかるリスクが、目に見えた。


「魔術だよ?」


 当然と言わんばかりの顔で、彼はオースを見つめる。


「はぁ……俺は、そういうことはできねぇんだって。生まれてこの方、魔術なんて風の噂で聞く程度だったんだから」


 魔術を扱うのは都会の人間、そういう認識があった。田舎に住む人間は、基本的に貧しい。魔力制御には、専門の知識が必要だった。とんでもない才能がない限り、無学で魔力は扱えない。

 そのため、一般的に知識を得るには、学校に通う必要があった。その日を生きるので精一杯な者には、高い学費を払うことは難しく、魔術とは無縁の生活を送っていた。

 貴族として、教育にもお金をかけてもらえたレイとは違う。煽られた気分だった。


「大丈夫! 生命力の主な特徴は、2つある。1つ目は、現在宿っているものに性質が近い方に寄って行くという特徴。2つ目は、触れる物があれば、絶対的にそれに宿る特徴。今、この場で私に近い性質を持っているのはオースだけ。そのオースが触れれば、事故は起こらない。だから、問題ないんだ」

「いやいや、むしろ問題だらけだが!?」


 指折り数えながら、理由を説明し始めるレイ。だが、ちっとも納得できず、思わず突っ込んでしまう。


「君は、何も気にする必要はないよ?」

「馬鹿なのか?」


『作戦を開始する。全軍、ただちに進撃せよ!』


 オースが呆れていると、突然、脳内にリュウホウの声が響き渡る。慣れぬ感覚に、オースは戸惑う。


「頭に声が……!?」

「テレパシーだよ。便利だよね」


 どうやら、その声はレイにも聞こえていたようだ。


「敵襲-っ!」


 本当に始まったらしい。下が騒がしくなった。慌ただしく影が動き回り、あちらこちらで爆発音が響く。


「見ていて、私の姿を!」


 彼は気合を入れるように叫ぶと、意識を要塞へと向けるのだった。

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