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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明

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かッテニ、俺ヲ呪うナ

「――様、兄様っ!」


 強く呼びかけるとてとての声で、オースの意識は覚醒する。目が合うと、ほっと安心した様子でとてとては息を吐く。


「っ!? あれ、俺……」


(長い夢でも見ていたような……俺は何を……あっ!)


「あの女は……」


 起き上がり、部屋の中を確認する。すると、オースが座っていたソファーの近くで首から血を流して、倒れているウルがいた。

 記憶する限りでは、魔法陣を発動していたはず。オースに反抗する余裕はなかった。


「死んじゃった、ウルさん。自分で、首を切ったんだ。魔法陣を発動させた瞬間に」

「約束はしっかり守りやがったか。ったく……」


 大した苦労もなく、対象を捕獲することができた。彼女のような人間と戦うのは、骨が折れそうだったので助かった。


「うん!?」


 安堵していると、顔を覗き込んでいたとてとてが間抜けな声を漏らす。


「何だよ」

「兄様、その目!」

「目? 見えねぇよ」

「あぁ、そうか……えっと、ほら!」


 とてとては、鏡を取り出して見せる。


 

「……あ? なんで、ライオンの絵が俺の左目に!?」


 目を凝らしてみると、ウルの左目に刻まれていたライオンのタトゥーが、オースの左目にあった。


「呪いの継承……もしかしたら、それが印?」

「そういえば、なんかそんな呪文……はあぁぁっ!?」


 記憶を失う直前のことを思い出し、オースは頭を抱える。


「大丈夫! だって、ウルさんは認識操作の呪術の鍵だったんでしょ? 兄様は、それを継承しただけってことだよね。変な模様はついちゃったけど……包帯巻いてるし、コートも被ってるし、よく覗き込まないと目なんて見えないよ!」

「はぁ……とりあえず、この女持って帰って、テウメに見て貰うか」


 少し念じると、拠点へと繋がる。ウルを抱えて、いつものように中に入ろうとした次の瞬間――。


『ガウルッ!』


 目前に、オースよりも一回りも二回りも大きいライオンが現れ、咆哮を上げるとオースに牙を立てた。体の中から突き刺すような激痛が走る。オースは、思わずその場に座り込む。衝撃で、生じさせた歪みが閉じてしまう。とてとては、何事かと全身の毛を逆立てている。


「なんだ……これ? 体じゃない、中から痛む……」

『ガルルル……』


 その場から動けなくなるほどの強烈な怒りを感じる。立ち塞がり、これ以上先に進むことを阻む様子だった。


「どけよ。てか、どっこから出てきやがったんだ……っ!」

「どうしたの!? 兄様! 体がおかしいの!?」

「いや、体もおかしいが、いるじゃねぇか、1番おかしいのがっ! ここ部屋の中だぞ!?」

「何がいるの?」


 とてとては、きょろきょろと周りを見渡す。しかし、大きく異質な獣の存在に気付かない。


「はぁ!? お前、見えねぇのかよ!? ライオン、馬鹿でけぇライオンがいんだよ!」

「ボクには、兄様が壁を見て驚いているようにしか……まさか……」


 とてとては、何かに気付いたような表情を浮かべる。


「呪いは、島にかけられているものだけじゃなかった……のかもしれない。継承と、彼女は唱えていたしね。正確に判断することは難しいけれど、もしそうだとしたら、あの交渉でやけに余裕を見せていたのは、そういうことかも」


 呪いの正体を、判別することは難しい。認識できるものとそうでないもの、表に出てくるものと裏にあるもの。とてとての予測の範囲を出ない。


「はぁ!?」

「えっと、つまり、兄様はこの島からラグランタイアの人達を追い出して、独立させなきゃいけなくて……それまで帰ることは許されないのかも……って」

「俺、別に約束してねぇぞ。考えるとは言ったけど!」

「あの交渉に、意義なんてなかったんじゃないのかな? 彼女は、最後にこう言ったんだよ。『ごっこは楽しかったかな?』って。それって、それまでの流れのことを揶揄してるんじゃないかって。つまり、この場に来た時点で、既に彼女の手中だったんだ」

「んだよ、それ……ムカつく!」

「落ち着いて兄様!」

「うるさいっ! 俺は行くっ!」


 別の場所に歪みを生じさせ、怒りを原動力に恐怖を跳ね除けて立ち上がる。すると、獣は唸り声を上げながら威嚇し、オースに合わせて視線を動かす。

 もう一度、中に入ろうと1歩踏み入れた途端、またもや獣が立ち塞がった。先ほどまでいた場所には、もういない。瞬間移動が可能なようだ。


「邪魔だっ!」


 オースは手を払い、炎で撃退しようとした。しかし――。


「すり抜けた……!?」

『ガウッ!』

「ぐああああっ!」


 再び、鋭い牙がオースの体を貫く。唾液や温かさは感じない。外から攻撃を受けているはずなのに、内面から痛みが襲う。傷もなければ、血も流れない。この怒りを滲ませる獣は、よっぽどオースを移動させたくないらしい。


「兄様っ!」

「ふざ……けるな。勝手に、俺を呪うな。俺は遊んでねぇんだよ。本気でやってんだ……! こんな所にいられるかっ!」

「待って、兄様ってば!」


 獣に背を向け、床に転がる転がる2つの遺体をわざわざ蹴散らしに行ってから、ドアを破壊して飛び出す。獣は見送るだけで、それを阻むようなことはしなかった。

 部屋に1匹取り残されたとてとては、困惑する。オースが、1人で騒いでいるようにしか見えなかったからだ。


(ボクらは、一心同体。なのに、どうしてボクには痛みが……? それに、あの呪いをかけられた瞬間、ボクは弾き出された。あくまで、兄様にかけたものだから?)


 呪いとは何か、深く考えそうになった所でとてとては我に返る。


「はっ! 早く兄様を追わないと!」


 恐らく、来た時と同じルートを通っているはずだと、とてとては慌てて部屋を飛び出して追った。

 その予測は合っていて、エレベーターの前で、オースは打ちひしがれるように座り込んでいた。


「兄様……?」


 怒りとパニックで荒れ狂っていたとは思えないほど、消沈していた。


「駄目だ、俺はここから出られない……」


 とてとてには見えていないが、オースの目前にはまた獣が立ち塞がっていた。

 この場所だから移動ができないのだと考え、この拠点から脱出することを試みたのだ。兄貴がやっていたようにボタンを操作し、エレベーターを呼び寄せ、扉が開くとまたそこに獣が現れて、オースを攻撃したのだった。攻撃も阻まれ、移動も、この空間から出ることもできない。


(こんな場所で……あの女の思う壺……)


 脳裏に、ウルの笑顔がよぎる。あの余裕は、あの楽しげな感じは、全てこの状況を理解していたから。怒る気持ちも枯れ果てた。そんな絶望に直面するオースに、とてとては声をかける。


「兄弟は助け合う存在だよ。できるかどうかわからないけど……呪いを分け合ってみない?」

「分け合う? どうやって?」


 半笑いで、問いかける。


「いつもみたいに念じてくれればいい。兄様はこの場所にずっといるのが嫌なんだよね。だったら、この場所に留まらなければならない呪いをボクに分けて」


 優しい声色で、絶望に支配されるオースを包み込む。


「もし、上手く行かなかったら……」

「その時は、ボクがテウメ様に相談してみるよ」

「あぁ……できればいいが」


(俺をこの場に縛る呪いを、とてとてにっ!)


 強く強く念じるが、オースには特段変化は感じられない。しかし、とてとては全身の毛を逆立てていた。


「多分……成功だよ。何だろう、この感じ。試しに、あの空間を開いてみてよ」

「俺には全然わからんが……」


 言われた通り、歪みを生じさせて空間にゆっくりと歩を進めていく。まだ絶望の中にいるオースは、従順だった。


(そんな簡単なことで……)


 どうせ、と思っていたが、もう立ち塞がり、牙を突き立てる獣の姿はもうなかった。


「……マジ?」

「兄様とボクだからできたことだよ、きっと。特別な繋がりがあるから、呪いを分け合えた。でも、兄様には呪いは残ってる。自由にはなれるけど……結局、やらないといけないと思う」

「はいはい……てかさ、全部引き受けるんじゃ駄目だった訳?」

「サポート能力の限界で……」

「はぁ、まぁいいや。てか、離れることになるけど、なんか痛い思いしない? 俺が」


 1番厄介なものがなくなり、少しずつらしさを取り戻していく。


「大丈夫。ボクに何もなければね」


 とてとては、ウルの遺体を引き渡す。


「じゃあ、俺行くわ」

「うん。呪いを解いてね。ボクも、ボクにできることを頑張ってできる限りのサポートをするから」

「はいはい……」


 自分に害がなければ、もうどうでもいい。オースは、適当に相槌を打って、歪みに身を委ねていく。拠点に繋げようとした時、オースにふとある考えが生じる。


(いや、折角だ。もう1人も持っていこうじゃねぇか。どうせ、同じクズだ。魔王軍のポリシーには反さない)


 不敵な笑みを浮かべ、行き先を別の場所へと繋げるのだった。

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