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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明

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コれハ、たノしいごッこ遊ビ

(え……? 何? 今の、名前? それとも暗号? いや、でも、あたしって言ったよな?)


「うん? どうした?」


 小首を傾げて動かなくなったオースを見て、ウルは不思議そうに声をかける。


「いや、さっきのウルなんたらかんたらってのは……名前か?」

「あぁ、そういうことか。ウル=ミオン=サリム=ステラ=ロージー=ジェシカ=アウリア=ベラ=アイシャ=アルダ=ニア=ミラ=レヴィ=イメルダ=ソフィアという名前だ。長い名前だろう? ウルと呼んで貰って構わないよ」

「なんでそんなに名前が長いんだ? どれが苗字だ?」


 これまで生きてきた中で、そんな長い名前を持つ者と会ったことはなかった。


「あたしに苗字はないよ。そういう文化だからね。母や祖母達の名前を受け継いでいるから長いんだ。つまり、ウルは初代が妻として迎えた女性の名前だ」

「ん? ってことは、ウルじゃなくて……」

「ソフィアと呼びたいか? 確かに、それがあたしに与えられた名前だ。しかし、その名で呼ばれることは、もうほとんどないからね」


 彼女は、からかうように笑った。


「いや、別にどうでもいい」

「ふっ、そうかい……懐かしい気持ちにして貰えると思ったのに」


 友達になる訳でもないのに、親しく名前を呼んでも仕方がない。とりあえず、話を進めることにした。


「チッ、それで、呪術の鍵って何?」


 そう尋ねると、再び彼女は語り始める。


「呪術は、人の欲望を最も簡単に叶えるにも関わらず、もはや一部の地域でしか使われなくなった過去の産物。それは、代償がでかいからだ。はるか昔のこと、人と天との距離が近かった頃、命という代償を払うことで、大なり小なり夢を叶えてきた。その頃は、天術として人々は呼んでいたらしい。生まれ持った魔力量や才能は関係なかった。ただ、夢が大きくなればなるほど、代償も大きくなる。やがて、権力者は人柱を使い、自身はリスクを背負わずに用いるようになったそうだ。その人柱に選ばれるのは、大体が子供。理由は簡単、寿命が長いからだ。その人柱を、聞こえよく鍵と例えただけのものだ」


 彼女の言うように、呪術は命を代償に、比較的容易に効果を発揮するため古の時代には最もポピュラーだった。一方の魔術は、複雑さと難しさ故にあまり浸透していなかった。

 

「つまり、お前は……命を犠牲にしているのか。ただ、厄介事を避けるためだけに。獅羅盟という組織を維持しやすくするためだけに」


 命懸けとは、まさに彼女の行動を説明するためにある言葉だろう。


「ただ、人が成長し、道徳や倫理観を身につけていく中で、それが間違いだと気付いた。そして、呪術と呼び、天との距離を取るようになったのだ。それでも、一部の地域ではまだ当然のように使用されている。この島のようにね。まぁ、使っているのは今やあたしだけだな。あたしが消えれば、この島からも呪術は消えるさ」


 人間の成長と共に、立場は入れ替わり、呪術は闇に溶け込み始めた。闇に魅入られる者がいるから、消滅することはなかった。その一例が、彼女らの一族ということだ。


「……他に、どこの地域で使われているんだ?」


 すると、彼女は鼻で笑う。


「おや? ご存知ないのか? 呪術で発展を遂げ、さらに昇華させた武蔵国(むさしのくに)。国民は、皆……生まれながらにして鍵である。そんな宣言を、新国王がしたらしい。そして、その国は今……魔王軍に自ら降り、支配地域にあると。今や、魔王軍の格好のプロモーションの舞台として大活躍しているじゃないか。それを、魔王軍である貴様が知らぬとは……仲間外れにでもされているのか?」


 無論、知らない。オースが知っているのは、魔王軍の名を穢す者を、特別な魔物を作るために活用するということだ。テウメからの要望で、女性を優先的に10人集めることになった。それが、オースの知るプロモーション大作戦だった。大作戦というくらいだ。他に何かが動いていてもおかしくない。担当は、リュウホウかテウメだろうか。

 素人のオースは、1つの仕事だけしか振り分けられていないのかもしれない。受け入れるべき現実だが、それを他人に指摘されると腹が立った。


「交渉やめるぞ、コラ。俺の担当じゃねぇんだよ。何も知らねぇのに、勝手に憐れむな」

「それは、困るな。まぁ、組織というものはそれぞれ事情がある。大丈夫だ、貴様を見下すことはない。それで、本国の連中を追い出し、この島を独立させるという要求を呑んで貰うことはできるだろうか?」


 とは言いつつも、表情はちっとも困っているようには見えなかった。


「そうだな……俺の要求を呑むなら、考えてやる」


 魔王軍としてのプライドを保つため、オースは上から言い放つ。


「考えてやる? フフ……そうか、それでもいい。それでは、貴様の要求を言ってみろ」


 彼女は、微笑む。子供を見るかのような視線を向けながら。


「魔王軍にその身を捧げろ。その身を捧げた結果、どうなるかは……わかっているとは思うが」

「つまり、死ねと」

「あぁ。当然だろう? どんな理由であれ、魔王軍の名を騙った罪はでかい」


 その宣告を受けても、彼女は動揺したり、恐れたりしなかった。それくらいわかっていたと言わんばかりだ。


「……しかし、それでは結果が見届けられないな? 熟考の結果、どうなったのか……フフ」

「なら、この交渉はなし、問答無用でお前を殺す。この島の未来など何も考えてやらん」

「フフフ……ハハハハ! 冗談だ。些細なことだよ、それより」


 何が面白かったのか、彼女はひっくり返りそうになりながら笑った。そして、その余韻を引きずりながら、言葉を続ける。


「他には、何か要求はあるのかな?」

「あぁん?」


(何を考えてやがる? 自ら、そんなことを聞いてくるなんて……)


『ボクにもわからない。新たに学習しないと……』


 自ら条件を増やそうとする彼女に、とてとても混乱しているようだ。オースも、別に他に要求はない。


「おや、ないのかい?」

「して欲しいのか?」

「いいや、別にどちらでも。優しいねぇ」

「う~ん、じゃあこれで交渉おしまい?」

「そうだな」

「最後に、何か聞きたいこともないのか?」

「あぁ? ある訳……いや」


 面倒なので、さっさと終わらせたかったが、ふと疑問を抱き、それをぶつけてみることにした。このタイミングくらいでしか、恐らく聞くことはできないだろう。


「ん?」

「何故、魔王軍に頼る道を選んだんだ? お前達から見れば、魔王軍だって侵略者だろ? 仮に、ラグランタイアの奴らを追い出した所で、今度は俺達に支配されるかもしれないのに」


 その問いに対し、彼女は前髪をかきあげて答える。

 

「……フフ。この島は、資源に恵まれている。本国も相当金をかけているし、これからも簡単には手放さないだろう。利権を巡り、他国との戦争が起こるかもしれない。一度、人間の手から離さなければ。魔王軍は従順な奴には、手を出さないだろう? あのプロモーションを、ぜひこの島でも実施して欲しいものだ」


 魔王軍=敵と決めつけ、話も聞かない他の連中とは違うらしい。熱心に、魔王軍を呼び出そうとしていただけのことはあるようだ。


「それでも、争いは避けられないぞ。魔王軍に奪われたともなれば、いかなる手段を使ってでも取り戻そうとするはずだ」


 人間同士の争いは、一時的には終わるだろう。だが、今度は人間と魔王軍の争いに巻き込まれることになる。そんな未来は明らかだ。

 

「取り戻されたら、人間達の士気は高まるだろうねぇ。しかしまぁ、来るなら大軍ではなく、勇者がいいねぇ。あたしは、王道が好きだから」


 呑気なことを言う彼女に、オースは苛立ちを覚える。それでも、恐れられているマフィアのボスかと。

 

「馬鹿じゃねぇの? 魔王軍がラグランタイアを追い出して、最終的に独立させるとか……しかも、たかってくる虫の処理までこっちの仕事か。その夢は全部、俺がGOサインを出さなきゃ幻想に終わるぞ」

「フフフ……」


 それでも、彼女は笑うだけ。


(ふん、やけに余裕があるようだが……この女が手に入れば終わりだ。この島の未来など知ったことか。随分と恐れられていたが、大したことはない。考えると言っただけで満足する小さな胃袋だ)


「他に、何か聞きたいことは?」

「ないね」

「そうか……では、友好の証に握手でもしよう」


 そう言うと、手を前に差し出した。意図がわからず、オースは困惑する。


「なんで?」

「お互いが納得して交渉が終わったら、友好の握手をするしきたりがある。いいだろう? 別に、減るものでもあるまいし」


 マフィアの間では、そんなしきたりがあると言う。それで満足するならと、オースはその手を取った。


(まぁ、いいか。それくらい――)


「陣よ目覚めよ。我が呪い、継承せよ」


 瞬間、足元に、魔法陣が広がる。そして、ウルの左目のタトゥーと魔法陣が呼応するように怪しく光り始めた。


「ごっこは楽しかったかな? 頼んだぞ、この島のこと――」

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