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勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第九章 暴君ノそン在しョう明

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言ッてみロよ、オ前ノ欲ぼウ全部

 どれだけ確認しても、この空間で、会話のできる存在はもうオースしかない。


(え? え? どういうこと……? あいつ、撃たれたよね? 死んだフリとかじゃねぇよな? いや、マジで意味わかんねぇんだけど。だって、俺は魔術を使って……)


「んん? どうして出てきてくれない? 1対1じゃないか。何に怯えている? あぁ、あたしがこの男を撃ったからか。魔王軍のくせに、その程度で怯むとは……愛らしい奴め。安心しろ。あたしは、貴様とは取引がしたいだけ。だから、怯えていないで出ておいで。ほら」


 そう言うと、女性は銃を投げ捨てて両手を上げた。


(やっぱり、俺に声をかけてる! し、しかも、取引? 何だよ、俺はどうすればいい!? 面倒だからさっさとこいつぶっ殺して、回収しちまえば――)


『応じるんだ、兄様』


(はぁ!? そんなの無駄に時間がかかるだけ――)


『無駄になんてならないよ、絶対に。ボクを信じて』


(……またか。まぁ、前回は見事だった訳だから……いいだろう。術を解け)


「別に、怯んでねぇから。つか、いつから、俺に気付いてた?」


 姿を現すと、彼女は満面の笑みを浮かべた。そして、両手を上げながら答える。


「フフ、そうだねぇ。折角だから、全部言ってやろう。魔王軍だと確信したのは、貴様がここに来てからだ。だけど、異変には最初から気付いていたよ。一瞬だが、とんでもない魔力の動きを確認したからね。魔王軍特有の魔力の動き。こういう時は、魔物が現れる。そして、島は大騒ぎになる。しかも、中心部。大混乱だ。ところが、受けた報告は変化のない町の様子だった。おかしいよねぇ。魔物は暴れるもの。敵と認識したものは、すぐにでも加害する。なのに、それがない。しかし、特徴的な魔力の動きがあった。そして、それは1回しか感じられなかった。となれば、まだこの島のどこかにいる……と考えていた」

「魔力の動きがわかるとは。流石は、ボスってか? しかも、魔王軍特有の魔力の動きとかよくわかるな」


 そこまで見抜かれているとは、とオースは関心する。


「お褒め頂き、光栄だ。こういう所で生きていると、嫌でも身につく」

「ふ~ん……」


(こいつだけの能力ではないだろう、魔術師レベルの人間は割りと厄介かもな。今回は、上手く働いてくれたが)


「それから、どこに潜んでいるのかを探していた。恐らく、目的はあたしで、いずれ会えるだろうと思っていたけれどね」

「はぁ? 探してたんなら、もっと堂々と姿を晒してくれりゃあ良かったんだ。そうしたら、余計な時間はかからなかったってのに」


 聞き捨てならない言葉だった。潜入したり、監視したりと、眠気に耐えながらとにかく頑張った時間は何だったのか。オースを探していて、オースに探されていると察しているのなら、ここにいると示すべきだ。そうすれば、こんな回り道をすることはなかった。


「それは、できない。獅羅盟の首領としての在り方を否定することは許されない。獅羅盟は、掟が絶対。首領たるあたしが、その掟を破っていては築いてきたものが崩れてしまうだろう? だから、あたしなりにできる範囲で、貴様を導いてやったんだよ」


 力強い口調で、彼女は答えた。トップに立つ者にも、掟があるらしい。


「その掟は、ファミリーを殺すことを認めるのか?」

「えぇ、掟を破った時には死を持って償って貰わないと。本来なら、沢山の苦しみを与えられながら、ボロボロになっていく体を眺めながら死ぬんだ。かつて、契りを交わし、ファミリーと呼び合った奴らの手によって。でも、こいつは貴様を連れてきた。だから、あたしが一発で仕留めてやったのさ」


 獅羅盟の掟は、身内に対する殺しを否定しないらしい。人殺しを厭わない者達を統率するには、死の恐怖をちらつかせる他ないのかもしれない。しかも、仲間の手で拷問されるらしい。しかし、兄貴はオースを連れてきたことでその屈辱を回避できたらしい。死んでしまったことに変わりはないが。


「何した訳?」

「こいつは、金遣いが荒くてね。金を稼ぐ能力はあるのに、それを上回る散財。店の売上を誤魔化し、自分の懐に収めていたんだよ。その報告を受けたのは、つい最近のこと。貴様がこの島に来るより、少しばかり後だったよ」

「一般人から、金巻き上げといてよく言うわ」


 思わず、鼻で笑ってしまう。


「ある程度、棲み分けているつもりだ。無垢で無欲な人間から搾取はしない。そういう人間とは、合法的に商売をするさ。流石に仮面は被るがね」


 合法的な商売。つまり、あの歓楽街での商売は非合法だと自覚しているようだ。


「……まぁ、別に何でもいい。そのことに関しては」

「ほう」

「俺がお前に会いたかった理由は、魔王軍の名を騙って何をしようとしているのか聞くためだ」


 獅羅盟が、汚いやり方で鐘を稼ぎ、人を殺めようと関係ない。ただ、魔物を使役し、魔王軍と協力関係にあるという噂があれば、あらゆる悪事に魔王軍が結び付けられてしまうだろう。魔王軍の名を穢しているという理由で、オースはここに呼ばれた。悪い方向にしか行っていないのは事実だ。


「あぁ、そのことか。それについては、申し訳なく思っている。あれは、全くのデタラメ。ファミリー達に流させた作り話さ」

「は?」


 口ではそう言っているが、まるで悪びれる様子もない。


「世界中で、不可解な事件が相次いで起こっていると聞いた。魔王軍の名前を騙り、悪事を働く女達が失踪したり、発見されてもまともな状態ではなかったって言うじゃないか。魔王軍側からは何の声明もないようだが、魔王軍の関わっているとして見過ごされてきた悪事の真実が明るみに出て困るのは人間側。事実を明らかにし、人間達を混乱させて侵略を優位に進めようとする魔王軍側の策略だと感じた。それらの事件を調査した結果、魔王軍による悪事だと人々が噂しているものばかりだった。幸い、あたしは女で、裏側からコントロールできる立場。魔王軍の中枢と関われるチャンスがあるなら、試す他ないだろう?」


 意気揚々と、饒舌に語る。その考察は、的中していた。プロモーション大作戦の枠組みだ。知らぬ間に、手のひらの上で転がされていたらしい。


「なるほど。まんまと釣られたってことか。だが、随分と危険な釣りだな。もし、来なかったらどうするつもりだった?」


 10人の枠も、オースの担当する2枠しか残っていない。リュウホウだけで、この計画を実行していたらとっくに終わっていただろう。


(俺が、先に別の女を見つけるかもしれねぇってのに。定員ギリギリだぜ?)


「それならそれで、別の方法を考えるさ。釣り場を変えてね。でも、間違えてなかった。餌も無駄にならずに済んだ」


 大したことではない、と余裕を漂わせた。随分と長い目で見ているらしい。


「へーこの男は、餌か」


 ソファーの遺体に、オースは視線を向ける。必死で運転手に指図していた様子を思い出し、滑稽に思った。


「色んな所に色んな餌をばら撒いたが、偶然その餌に引っかかった」

「え? まだあんの!?」


 思わぬ事実に、オースは驚愕した。


「悲しいことに、心がある限り、完璧な統率など不可能なんだよ。掟や恐怖をもってしてもね。残りの者達は、通常通りの処分をさせて貰う」


 オースを連れてこられなかった違反者達は、ただただ残酷に仲間達に殺されるらしい。何人ほど用意してあったのだろう。何も知らずに利用されたその者達の最期を想像し、哀れに感じた。


「そこまでして……会いたかった理由って何?」


 手間と時間がかかる計画。並々ならぬ思いがなければ、難しいだろう。尋ねずにはいられなかった。


「最初に言ったじゃないか。取引がしたいとね。さ、本格的な話し合いをしようじゃないか。席に……と思ったが、少々汚れてしまったな。部屋を変えるか。取引の場には相応しく――」

「いや、構わない」


 雑に遺体をソファーから落とすと、マット代わりに踏みつける。


「言ってみろよ、お前の欲望全部」

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